373 / 490
第四十二章 腐ってもサブヒロイン
ちょ、オレたち……男同士だよ!?
しおりを挟むピーチが詳しく説明して、なんとか、ひなたの誤解はとけた。
自分の兄であるトマトさんが、イラストを描く時、モデルがいないと上手く描けないことも、補足してくれた。
だから、ヒロインの一人であるひなたの写真が必要だと。
それを聞いたひなたは、機嫌を取り戻し、嬉しそうに笑う。
「なぁんだ。そんなことか♪ 私もヒロインですからね、写真は必要ですよね」
散々、人をブッ叩いておいて、よく言うよ。
「いいのか? 無理しなくてもいいぞ?」
「撮りますよ! 撮らせてください! 新宮センパイとの取材がいっぱい詰まった作品になるんですから~♪」
「そ、そうか……」
それから、ひなたは自分のスマホをピーチに渡して、その場で撮影会を始める。
こっちは何も言ってもないのに、色んなポーズ、角度で写真を撮りまくる。
一々、ピーチに「加工して」だの「盛って」だの。要求が多い。
だがどんな注文でも、撮影するピーチは、「ちょりっす」と言って、淡々と撮り続けた。
撮り終わって、すぐに提供してもらえると思ったが……。
厳選した写真を渡したいので、数時間後になると言われた。
一体、何十枚くれる気だ?
※
ひなたとピーチに礼を言って、彼女たちに背を向ける。
もう少しすれば、午後の授業も始まるからだ。
教室の方へ戻ろうと、廊下を歩いていたら……。
「あ、タクト☆ お昼ご飯も食べずに何をしてたの?」
とミハイルが近寄ってきた。
エメラルドグリーンの瞳をキラキラと輝かせて。
「ちょっと、野暮用でな……」
「ヤボ? なにそれ? 教えて☆」
そんなことも知らんのか……。
「野暮ってのはな」
「うんうん☆」
低身長だから、仕方ないのだが、上目遣いでグイグイと迫られるので、対応に困る。
せっかく、沈静化した股間がまた動くと大変だ……。
ここはちょっと話題を変えよう。
彼と距離を取れるようなこと……そうだ。
「なあ、ミハイル。ちょっと頼みがあるんだけど、いいか?」
「え? オレに? なんでもいいよ☆」
「その……一枚、写真を撮ってもいいか?」
言っていて、顔から火が出そうだった。
女装しているアンナなら、女の子扱いできるけど、素のミハイルは完全に男だからな。
恥ずかしくて仕方ない。
俺の問いに、ミハイルも激しく動揺していた。
「お、オレの写真を!? いきなり、どうして……」
顔を真っ赤にさせて、目を丸くしている。
「いや……今まで、ミハイルの写真はちゃんと撮ったことないだろ。だから、思い出というか。その……」
言い出しっぺの俺が、緊張してしまう。
まるで、告白する男子みたいだ。
その緊張がミハイルにまで、伝わっているように感じる。
彼もカチコチに固まってしまう。
「お、思い出か……そ、そうだね。ならいいかも。で、でもさ……ホントにオレなんかでいいの?」
「え……どういう意味だ?」
「女のアンナじゃないし、可愛くないもん。それにオレは……男だよ?」
そう指摘されたことで、俺も脇から大量の汗が滲み出るのを感じた。
彼の言う通りだ。
男にカメラ目線で写真を一枚求めるなんて、気持ち悪いこと……なのかもしれない。
やはり……俺が間違っていた。
「そ、そうだよな。悪い、無かったことにしてくれ」と苦笑いするはずが。
俺は黙って、ジーパンのポケットからスマホを取り出す。
「ミハイルの写真だから、欲しいんだ。マブダチのお前だからだ」
自分でも驚いていた。
こんなに恥ずかしいことをスラスラと喋っていることに。
「オレだから……なの? じゃあ、うん。と、撮ろうか☆」
今までに見たことないぐらいの優しい笑顔だった。
アンナの時よりも……可愛く感じるほどに。
※
写真を撮ると言っても、アンナの時ほど余裕がない。
お互いにだ。
ガニ股で格好悪く立つ俺と、廊下の壁にもたれるミハイル。
彼も頬を赤く、視線は床に落としたまま。
落ち着かないのか、首元から垂れているポニーテールを撫でている。
なんて、可愛いんだ。そして、絵になる。
「タクト……早く撮って。誰か来たら恥ずかしいよ」
「おお……だが、ミハイル。こちらを向いてくれないと、撮れないぞ?」
そう指摘すると、彼は潤んだ緑の瞳を俺に向ける。
「こう?」
「バッチシだ」
一枚。
たった一枚の写真を撮るだけだと言うのに、物凄く長い時間を感じた。
そして、俺は撮った写真をすぐに、クラウド上へとアップロードする。
この写真は、もう二度と撮れない気がしたからだ。
大事にしたい……そう思えた。
ただ、その後の俺たちはしばらく、目を合わせることができずにいた。
「「……」」
なんでか分からないが、事後のような恥ずかしさを感じていたから。
経験したことも、ないくせに。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる