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第四十二章 腐ってもサブヒロイン
術後のミハイル
しおりを挟む『次は席内~ 席内駅でございます~』
車掌のアナウンスで、意中の人物との再会することに気がつく。
彼が住んでいる地元だからだ。
プシューっと音を立てて、自動ドアが左右に開いた。
視線を下にやれば、白く長い美しい脚が二本並んでいる。
「おはよ☆ タクト」
ニカッと白い歯を見せて、元気に笑うミハイル。
前回のスクリーングとは大違いだ。
きっと、マリアのパイ揉み事件を克服したからだろう。
「ああ……おはよう」
ただ挨拶を交わしただけ、だと言うのに……視線を逸らしてしまう。
つい先ほど、白金に女装した彼のことを、特別視していると指摘されたからだと思う。
ずっと頭の中は、アンナでいっぱいだった。
今のこいつ……ミハイルは男だって言うのに、目を合わせれば、頬が熱くなり、緊張してしまう。
違う。
こいつのファッションが悪いんだ。
今日だって、11月に入ったのに。
相変わらず無防備なデニムのショートパンツ。
トップスは肩だしのニットセーターにタンクトップ。
足もとこそ、ボーイッシュなスニーカーだけど……。
金色の長い髪は首元で結い、纏まりきらなかった前髪は左右に分けている。
エメラルドグリーンの大きな瞳を輝かせて、ニコニコ笑うその姿は、どんな女よりも可愛い。
「タクト? どうしたの?」
見入ってしまった俺を不思議に思ったようで、前屈みになり、顔をのぞき込む。
自然と胸元の襟が露わになる。
中にタンクトップを着ているとはいえ、もう少しで彼の大事なモノが見えそうだ。
「な、なんでもない! 早く、隣りに座ったらどうだ!」
つい口調が荒くなってしまう。
照れ隠しのために。
「うん……変なタクト」
※
俺の隣りにピッタリとくっついて、嬉しそうに笑うミハイル。
やはり、この前のデートで自信が回復みたいだな。
まあ……代わりにマリアのダメージがデカく残ってしまったが。
車窓から陽の光りが差し込んでくる度に、ミハイルの耳元がキラッと輝く。
違和感を感じた俺は、彼の小さな耳に触れてみた。
「なんだ、これ?」
親指の腹で感触を確かめてみたが、結構硬い。
よく見れば、反対側の耳にも同様の小さな装飾品が付けられていた。
「ひゃっ!? い、いきなり、なにすんだよ! タクト!」
「あ、すまん……なんか見慣れないものが耳についていたから、“できもの”かと思った」
俺がそう言うと、彼は頬を膨らませる。
「違うよ! これはピアスなの!」
「ピアス? なんでまた、そんなもん付けたんだ? 男なのに……」
その一言で彼の怒りのスイッチが入ってしまう。
「男とか女とか関係ないじゃん! カワイイから付けたかったの!」
「お、おお……確かに性別は関係ないもんな。すまん」
「分かってくれたなら、いいけど……」
しかし、何故今になって彼がピアスを付けたのか、俺には理解できなかった。
別にイヤリングでも、いいんじゃないかと思って。
「なぁ。ピアスを付けてるってことは……耳に穴を開けたってことだろ? そこまでして付ける必要性があったのか?」
俺がそう言うと、彼は急に視線を床に落とし、頬を赤くする。
もじもじして、ボソボソ喋り始めた。
「だ、だって……イヤリングより、ピアスの方がカワイイのいっぱいあるから。それで穴を開けたんだ」
「なるほど。ピアスの方が種類が多いってことか……」
「うん☆ ここあから聞いて、それでアンナと一緒に開けたんだ☆」
言っていて、寂しくない?
一人で開けたのに、友達アピールとか……。
「ピアスを開けるって言うと、やっぱりアレか? 耳の裏に消しゴムを置いて、安全ピンでブッ刺して、開けるのか?」
「そんなこと、するわけないじゃん!」
「え? 違うの?」
「ちゃんとした病院で手術したの! タクトみたいなやり方で開けたら、ばい菌とか、化膿とか、色々トラブルが多いんだよ!」
「悪い。知らん」
「だから、麻酔とかしてくれるお医者さんにやってもらった方が安全だし、手術のあと、穴が埋まったりしないし。慎重にしないとね☆」
なんて、ウインクしてみせるミハイル。
ヤンキーのくせして、そういうところは、めっちゃ慎重なんだね。
根性焼きみたいな感じで、グサグサ刺して、開けまくるのかと思ってた。
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