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第四十一章 ヒロインは一人で良い

ギャップ萌え

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 文字通り、暴力で痴漢を撃退したマリア。
 しつこく口説かれた事よりも、自分が敵視しているアンナと間違えられたことが一番、腹が立ったようだ。

 映画館から出ても、何度も舌打ちを繰り返し、苛立ちを隠せずにいた。

「チッ。あの痴漢。もっと殴っておけば良かったわ」
 まだ殴りたいのか……。
「あ、あの……マリア? ちょっと気分転換でもしないか。久しぶりのカナルシティだろ。どこか行きたい店はないか?」
 俺がそう提案を持ちかけると、彼女の表情が少し柔らかくなる。
「え? 行きたいお店? そうね……なら、最近オープンしたっていうショップへ行ってみたいわね」
「よし。そこへ行ってみるか」


 彼女が言う店は、地下一階にあるらしい。
 俺たちはエスカレーターを使って、一番下まで降りていく。

 色んなテナントがたくさん出店している階だ。
 博多土産、期間限定のスイーツショップ、雑貨、アクセサリーショップ。
 その中でも、一際目立つ場所で、マリアは足を止めた。

『デブリがいっぱい! でんぐり共和国。カナルシティ店』

 可愛らしい、スタジオデブリのキャラクターが飾られている。
 ドドロやボニョなど。

「うわぁ、どれもカワイイわねぇ~」
 と碧い瞳をキラキラと輝かせるマリア。
「……」
 俺は彼女の横顔をじっと見つめて、考えこむ。

 マリアって、こういうの好きだったか?
 なんていうか、小説とか、映画。あとは食事の話しか、しないから。
 彼女の趣味とか、よく知らないが……。
 デブリっていうと、どうしてもミハイルのイメージが強く、重ねてしまう。

 俺の視線に気がついたマリアが、眉をひそめる。

「な、なによ? そんなに見つめて……私の顔に、変なものでもついているの?」
「いや……そういう訳じゃないが。お前って、デブリとか好きだっか? なんていうか、もっとお堅い趣味っていうイメージだったんだが……」
「は、はぁ!? わ、私だって、デブリぐらい好きよ! なに? またブリブリアンナと似ているとでも言いたいの!?」
 なんか必死に、言い訳しているように見える。
「別に人の趣味だから、良いんだけどな。10年前はこういうの好きじゃないって、言っていたような……」
「じゅ、10年前と比較しないでくれる!? 私も成長したって言ったじゃない!」
「すまん……」

 うーむ。マリアって俺が思っている以上に、女の子らしく成長したってことかな。
 丸くなっちゃったのか……。
 どんどん、容姿だけじゃなく、中身までアンナに近づいている気がする。

  ※

 その後も、彼女が選ぶ店は、どれも可愛らしいものばかり。
 女の子に大人気のキャラクター、『ザンリオ』の公式ショップに入ると。
 期間限定で販売しているという、ピンク色のボアイヤーマフを手に取り、声を上げて喜ぶ。

「うわぁ~ “マイミロディ”のマフだぁ。可愛いわね。買おうかしら。あ、隣りには“グロミ”ちゃんのもある~」

 マイミロディのイヤーマフだが、ピンクのもふもふ生地で、フリルとリボンがふんだんに使われたデザインだ。
 人気商品なようで、近くにいた若い女性も手に取り、どちらを買うか悩んでいた。
 ちなみに、その客のファッションだが、誰かさんに似ている。
 そう、我らがメインヒロインのアンナちゃんだ。
 
 マリアが迷っているもう1つのキャラクター、グロミちゃんも色は黒だが、デザインはやはり大きなリボンとフリルが、かなり目立つ。

 これを買うのか……あのマリアが?
 しかも、イヤーマフってことは、頭につけるんだろう。
 想像できない。

 散々、迷った挙句。
「やっぱり、2つとも買いましょ。迷った時は、両方よね」
「マジで買うのか……お前」
 俺は余りのギャップに呆れていた。
「な、なによ! 私がこういうの買ったら、ダメっていうの?」
「いや……これ、買ってどうするんだ」
 俺がそう言うと、彼女は堂々と胸を張ってこう答える。

「はぁ? 使い方を知らないの? 頭につけるのよ、こうやって!」
 
 わざわざ頭につけて、俺に説明してくれる神対応。
 ていうか……確かに似合っている。
 そりゃ、あのアンナに瓜二つなんだから、似合わないわけ無いよな。

「可愛い……」

 気がつくと、口からその言葉が漏れていた。
 それを聞き逃さないマリアじゃない。

 頬を赤くして、そっとイヤーマフを頭から外す。

「あ、ありがと……買ってくるわね」
「おう……」

 なんか、今の俺って、ときめいてないか?
 うう……相手が可愛かったら、誰でもイケちゃうタイプなのかな。
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