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第四十一章 ヒロインは一人で良い

自分が書いている作品、どの『ラブ』か分かりません

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『てめぇら、さっきからガタガタうるせぇんだよ!』

 関西のヤクザ組織、腐王ふのう会へと赴いた主人公、大林おおばやしと弟分である幹村みきむら
 書籍化を打診されたにも関わらず、作品が気に入らないと一蹴された為、大林は怒りを抑えられずにいた。

『おい、こら。大林……お前、今なに言うた? わざわざ編集長が直々に会って下さってはるのに。なめとんかぁ!?』
 オールバックの男が、関西弁で大林に怒号を上げる。
 だが、大林も負けずにいた。
『なめてぇよ。俺の作品を拾ってくれるって言うから、わざわざ関西くんだりまで来たってのに。これじゃ意味ねぇだろ!』
 それを聞いた関西ヤクザたちが鼻で笑う。
『はん。お前が書いた作品なぁ……あんな古臭いラブコメ、誰が読むねん。それにヒロインは男の娘やと? 中途半端なもん書きやがって、NL、GL、BL。どの層にハマるんじゃ!』


 それまで黙って観ていた俺だったが……驚きを隠せずにいた。
 タケちゃんの映画だよね、これ?
 なんか一般人には、わからない用語が次々と使われているんだけど……。


 立ち上がり、睨みあう大林と関西ヤクザ。
 見兼ねた弟分の幹村が、すかさずフォローに入る。

『あの、兄貴を勘弁してやってください! 兄貴は……まだ創作界隈に戻ってきて、間もないんです! なろう系とか、テンプレとか、そういうの全然知らないんです!』
『アホがっ! だからって、わしら腐王会がこいつの作品を書籍化したら、大騒ぎじゃ! わしらはな、腐女子の皆さんをターゲットに出版しとんねん。読者が求めているのは、純粋なBLや。男同士の絡みが欲しいんじゃ!』
『そんな……話が違うじゃないですか。兄貴の作品を書籍化してくれるって……今の関東、創作会は平気でAIに百合を書かせるような奴らです。だから、腐王会に頼んだんじゃないですか』
『幹村! お前、腐女子と百合族を喧嘩させる気か? わしら腐女子と百合はなぁ、てめぇの股間に草が生える前から、盃交わしとんねん。戦争になったら、誰が責任持つんじゃ! おお、コラァ!』


「……」

 あれ、前作と話が全然違うんだけど。
 ヤクザはどこにいったのかしら。

 呆然とスクリーンを眺めていると、なんだかんだ揉めてはいたが、利害が一致した両者は、書籍化のため、関東の創作会を潰すことに。
 大林たちは、関西の腐王会から力を借りて、戦争を始め。
 見事に復讐を果たすのであった。
 しかし、最後は弟分である幹村がヒットマンに殺されてしまう。

 葬式会場に現れた大林は、冒頭で話していた薄毛の男と再会する。
 
『先輩、書籍化できなくて、残念でしたね』
『うるせぇよ。線香あげにきただけだ……』
『え、先輩なら、ペンタブの1つぐらい持ってくると思ったのに……。あ、ハジキ持って行きませんか? 護身用に』
 そう言って、大林に拳銃を手渡す。
 受け取った拳銃に、弾が装填されているか、確かめた大林は、何を思ったのか。
 薄毛の男に向かって、銃口を突きつける。
『先輩?』
 驚く相手を無視して、大林は静かに引き金をひく。
 三発ほど腹に打ち込むと、薄毛の男は地面に倒れて、死んでしまう。
 だが、大林は弾がなくなるまで、撃ち続けた。

 そして、最後に一言。

『書籍化するつもりもねぇのに、編集部がSNSをフォローしてくんじゃねーよ。勘違いしちまうだろうが』

 どこから持ってきたのか、アサルトライフルを取り出し、冷たくなった男の身体を穴が開くまで、撃ち続ける大林。

 ~FIN~


 スクリーンの幕が閉じるまで、俺は微動だに出来ずにいた。
 感動していたからだ。
 きっと、この作品は、タケちゃんからの贈り物だ。
 作家なら誰しもが、抱いている感情を、タケちゃんがヤクザ映画として、昇華してくれたんだ。
 涙が止まらない……。

 帰りにパンフレットを買って行こうっと。
 て、あれ?
 映画に夢中で気がつかなかったが、マリアのやつ、まだトイレか。
 まさかとは思うが、便器の上で居眠りしているんじゃないだろうな。

 そう言えば……アンナとタケちゃんの映画を観ていた時も、途中退席して、最後まで観なかったような。
 嫌なデジャブ。
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