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第四十章 たまには休んでもええんやで

キスの味ですか? グロスですよ

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 人格がアンナへと入れ替わってしまったミハイル。
 未だに「ふふふ」と優しく微笑んで、俺の身体に跨る。
 本当の意味で、マウントを取られてしまったのだ。

 俺は微動だに、できずにいた。
 もちろん、彼の身体はそこら辺の女より軽いが、馬鹿力だから、ひ弱な俺ではミハイルを下ろすとことはできない。

「タッくんのわる~い記憶を消そうか☆」
「え、どうやって?」

 もしかして、殴られるの?
 イヤだぁ!

「えっと……こうすると、消えるかなぁ」

 そう言うと、ミハイルは小さな手で俺の頬に触れる。
 いや、正しくは両手でギュッと力いっぱい挟む。
 自ずと、俺の頬は前へと膨らみ、唇は飛び出てしまう。

「ば、ばの……だ、だにをずるんだ?」
(あ、あの……な、なにをするんだ?)

 彼は何も答えることはなく、自身の顔をゆっくりと俺へ近づける。
 エメラルドグリーンの瞳をキラキラと輝かせて。
 心なしか、眠たそうな目に見える。
 きっと、高熱のせいだろう。

 お互いの額がくっつく。
 ミハイルのおでこは、火傷するほどの高い体温だ。
 しかし、彼は嬉しそうに笑っていた。

「ふふふ。おでこが、ごっつんこしたね☆ ひなたちゃんのこと、消えるかな?」
「おごご……」
 答えたいのだが頬を両手でガッチリ挟まれて、ちゃんと言葉に出来ない。

 気がつけば、美しい緑の瞳は、僅か1センチほどの至近距離だ。
 額だけではなく、鼻の頭もくっついてしまう。

 こ、このままでは……まずい!
 今のミハイルは、正気じゃないんだ。
 どうにかして、彼の熱を冷まさないと……。


 俺が一人考え込んでいる間、ミハイルは構わず、じっと見つめる。

「ふふふ……もう、タッくんは誰にも渡さないよ☆ ひなたちゃんにも、あのマリアちゃんっていう子にもね☆」
「ダンナ……」
 
 あ、アンナって言ったんだけどね。
 まさか、ここまで引きずっていたとは……。
 配慮が足りていなかったのかな。

 と、思ったその時だった。
 突如として、ミハイルが頭を抱えて叫び出す。

「あああ! 頭が痛い!」
 口が自由になった俺は、彼に声をかける。
「ミハイル! 正気に戻ったのか!?」
「痛いよぉ~! イヤだ、イヤだぁ!」

 こめかみ辺りを両手で押さえて、頭を左右にブンブンと振る。
 よっぽどの激痛らしい。
 泣きながら、叫んでいる。


「お、おい。ミハイル……とりあえず、俺から下りて……」
 そう俺が言いかけた瞬間、プツンと彼の声が途絶えた。
「……」

 あまりの激痛に、意識を失ったようで、瞼を閉じて身体を左右に揺らせている。
 今にも倒れそうだ。
 危険だと感じた俺は、咄嗟に身を起こす。

 ミハイルの小さな肩を掴んで、ケガをしないように守る……つもりだった。

 下へ倒れる彼と、上へ身体を起こす俺。
 うまく両肩をキャッチしたと思った……。

 でも、意外な所も掴んでしまったのだ。
 それは……。

「んぐ」

 熱を帯びたミハイルの小さな唇。
 事故とはいえ、大の男同士がキッスを交わしてしまった……。
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