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第三十八章 新時代の幕開け
そのオタク、ヤンキーに喧嘩を売る
しおりを挟む全日制コースの三ツ橋高校の校舎が見えてきた。
まあ恒例行事となった通称、心臓破りの地獄ロードを登ったから、息を切らしているのだが。
校舎の裏側へと進み、教員用の駐車場に入る。
本来ならば、教師や関係者のみが使用していい場所だが、ヤンキー共は言う事を聞かない。
所謂、族車とかいう違法改造した派手な車で通学してくる。
だから、一ツ橋高校の玄関前は、治安がよろしくない。
トランクをわざと全開させ、巨大なウーハーから爆音を流す迷惑行為。
「きゃはは、この“トラック”超イケてんじゃん」
とタバコをふかしながら、笑うのは柄の悪そうなヤンキー。
見たところ、年は俺より下に見える。
「だろ? 俺がリミックスしたんだわ。センスあるべ?」
もう一人のヤンキーもかなりオラッてんなぁ……。
二人とも前の学期では見たことない顔だ。
多分、トマトさんと同じく今学期から、入学したタイプか。
ていうか、めっちゃイキってる二人が流している爆音の曲がな……。
ブリブリのアイドルソングなんだよ。
今流行ってる大人数の女性アイドルグループ。
これをわざわざリミックスする必要性があったのか?
俺は彼らと一緒にされたくないと、嫌悪感を抱く。
そして、ミハイルとトマトさんに「早く校舎に入ろう」と促す。
しかしトマトさんがそれを拒んだ。
一ツ橋高校の玄関近くには、指定の喫煙所がある。
と言っても、宗像先生が適当に作った簡易的なものだ。
ボロいベンチが1つあって、その下にペンキ缶が置いてある。灰皿代わりだ。
全日制コースの校長が怒るから、必ず指定の場所で吸えということだが、守らない生徒も多い。
しかし、今ベンチに座っている生徒はしっかりルールを守っている。
赤髪が特徴的なギャル。花鶴 ここあだ。
ベンチに腰を下ろしているが、ヒョウ柄のパンツが丸見えだ。
片足をベンチの上に載せているから、必然とスカートの中が見えてしまう。
キモッ……。
「あーもう、つかないじゃん!」
何やら苛立っているようだ。
手に持った銀色のライターを何度もカチカチとやっている。
その姿を凝視するのは、俺の隣りにいる豚だ。
目を血走らせて、鼻息を荒くする。
「もふー! 僕の天使さんだ!」
いや、まだお前のものではないし、これからもないだろう。
当の天使と言えば、タバコを咥えたまま、何度もライターをいじっている。
「イラつくっしょ! あぁ~ クソがっ!」
なんて下品な女だ。パンツ見えても気にしないし、これのどこが天使なんだ?
ここあに近づく2つの影。
「ねぇねぇ、おねーさん。タバコつかないの?」
「俺らが貸してあげるべ」
先ほどのヤンキー二人組か。
好意で火を貸してあげるってことか。
ま、喫煙者なら普通の行為か。
しかし、ここあは近づいてきた二人を鋭い目つきで睨む。
「誰?」
「俺ら、今日から入った後輩。仲良くしてよ、おねーさん」
「てかさ、パンツ見えてるけど?」
なんてヘラヘラ笑いながら、彼女のスカートを眺めている。
そうか。こいつら、ナンパ目的だったのか……。
と気がついた時には、もう遅かった。
俺の隣りにいるトマトさんが、顔を真っ赤にして怒りを露わにする。
「ブヒィーーッ! よくも僕のお嫁さんをいやらしい目で見たな!」
いや、お前も大して変わらんだろ。
ここあとヤンキー二人組の押し問答は、しばらく続いた。
俺は「早く校舎に入りたい」とミハイルに言ったが、首を横に振る。
「トマトが今からここあを落とすかもしれないから☆」と面白がっていた。
「おねーさん。名前、教えてよ。可愛いねぇ」
「地元、どこ? 帰り車で送ってあげるべ?」
よく堂々と高校でナンパできるな。
しかも、二人とも未成年のくせして、片手にタバコだぜ?
カオスな高校……。
「あんさ~ さっきから言ってけど。あーし、ダチとしか吸わないの。それにこのライターでしか吸いたくないわけ」
そうだった。
ここあという人間は、友情を大切にする性格だった。
だから、一見さんお断りなビッチてことだな。
一連の会話を眺めていたトマトさんは、更に興奮しているように見える。
「ブヒィーー! 許せない! ここあさんをニコチン中毒にさせたのは、あのクソヤンキー共に違いない!」
えぇ……元から喫煙者だったよ。
俺はさすがに止めに入ろうと、彼の肩を掴む。
汗でベッタリして気持ち悪いけど。
「あの、トマトさん? ここあは最初からタバコ吸ってましたよ? あんまり、ヤンキーに関わらない方がいいですよ。トラブルで退学になったら嫌でしょ?」
そう説得してみたが、彼は聞く耳を持たない。
「許すまじ! 僕のお嫁さんを汚すとは!」
うわっ、ダメだこりゃ。
トマトさんは、ずかずかと音を立てて、喫煙所に乗り込む。
そして、若いヤンキーに二人に対し、ビシッと指をさす。
「君たち! 彼女が嫌がってるじゃないか! タバコを強要……僕の大切な女性を洗脳するのはやめたまえ!」
勝手に犯人扱いされた男たちは、トマトさんを見て顔をしかめる。
「なんなの、おっさん?」
「俺らがいつタバコを押し付けたって?」
うわっ、すげぇキレてる。
さすが現役のヤンキー君だわ。離れていても、物凄い迫力を感じる。
だが、トマトさんも負けない。
「君たちだ! 彼女にタバコを吸わせた悪いやつは! 僕の大切な人を傷つけるのはやめたまえ!」
酷い……ヤンキー君たちは、別に悪くないのに。
「おお、ケンカ売ってんだ。おっさんは?」
「いいよ。やりたいなら、いくらでもやるべ」
ヤバい、スイッチ入っちゃったよ。
このままじゃ、絶対トマトさんがボコられる。
どうしよう……。
そうだ、いるじゃないか。
この状況を打開できる伝説のヤンキーが隣りに。
俺は慌てて、ミハイルに助けを求める。
「おい。ミハイル! 頼む、トマトさんを助けてくれ! 俺じゃ絶対、あのヤンキーを止められない!」
だが、彼はニコニコ笑ってこう言った。
「イヤだ☆」
「え……どうして」
「だってさ。これ、今から面白くなるじゃん☆ トマトが殴られても、ここあのハートをキャッチできるチャンスだよ☆」
この人、本当に酷い!
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