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第三十八章 新時代の幕開け
男の娘の日
しおりを挟むいつもなら、膝と膝をすり寄せてくるのに、なんでか、今日は一人分ぐらい間隔を空けられている。
きっと、避けられているんだろうな。
正直、気まずい。
沈黙が続く。
ミハイルもずっと俺に視線を合わせてくれない。窓ばかり見ている。
このまま、学校に行くのも辛いので、俺は会話を試みる。
「なあ……ミハイル。おはよう、だな」
自分で言っていて、変な挨拶だと思った。
「うん」
そっぽ向いたま、返事をされた。
これ、絶対怒ってるよ。
「あ、あのさ……アンナから何か聞いてないか?」
「聞いた」
会話がちゃんと出来ない。
「な、なにを聞いたんだ?」
「タクトが知らない女の胸を触ったって」
ぐはっ!
その言葉が一番、胸にグサグサと刺さる。
「アンナは許してくれたのかな?」
彼を代理人として、許してもらうのだ。
「知らない」
えぇ! あなた本人じゃな~い!
教えてくれても良いじゃん。
もう、これは無理だと思って、彼と会話を続けるのをやめようとした、その時だった。
ミハイルがポツリと一言、呟いた。
「あのさ……」
彼から話してくれたことが嬉しくて、俺はすぐに答える。
「お、おう! どうした? なにか話したいことがあるのか?」
「うん……」
ミハイルは俯いたまま、元気がない。
視線は床のまま、話し始める。
「あのさ。タクトって“あの日”来てる?」
「はぁ?」
思わずアホな声が出てしまう。
「だから! あの日だって!」
やっと視線を合わせてくれたと思ったら、顔を紅潮させて、叫び出す。
ん? 情緒不安定なのかな。
「すまん。ミハイル、今なんて言った? もう1回いいか?」
何度も尋ねるので彼は怒り出す。
「も~う! あ・の・日!」
おっかしいな……ミハイルって男だよね?
確かに別府温泉で俺は見た。矮小な脇差であり、雪原に小さく咲いた一輪の花。
可愛すぎるうさぎのようなモノだったが。
間違いなく、あれはナニだろう。
冷静になって、もう一度、彼の話を聞いてみた。
「あの日って……どうしてそんなワードが出るんだ? 俺たち男だろ」
俺がそう言うと、ミハイルは真顔でこう答える。
「だって。ねーちゃんが言ってたもん。『男の子の日』って言うのがあるって」
「ごめん……なんだって?」
頭がおかしくなりそう。
「一週間ぐらい前だったかな。朝起きたら、“おねしょ”しちゃって。ねーちゃんに謝ろうとしたら、『これは違う。男の子の日だ。お赤飯炊いてやる』って言われたよ」
ヴィクトリアのアホっ!
変な性教育するな!
ミハイルがどんどん変な方向に行っちゃうだろ。
「そ、それで。どうなったんだ?」
「う~ん。ねーちゃんが言うには、『デリケートゾーンだから、あんまり触っちゃダメ』って」
「……」
だからか、ミハイルのアレが可愛すぎるのは。
「ところでさ。タクトは男の子の日ないの? あれからずっと気になってるんだけど?」
「……むかーし、あったよ。今はないな」
俺がそう言うと、彼は口を大きく開けて驚く。
「ウソ!? あれって無くなるもんなの?」
そんなに目をキラキラさせちゃって。
純真無垢だねぇ。
「ま、まあ……制御できる方法があるんだよ」
「すごいな! タクトって☆」
「ありがと……」
もう、汚れきった自分がイヤ!
だが、1つ気になったことがある。
それは彼が“始まった”ってことは、夢を見たはずだ。
内容がなんだったのか、気になる。
「なあ、ミハイル……これは言いたくないのなら、答えなくてもいいが。その日、お前は夢を見てないか?」
「え……」
聞かれて目を丸くする。
どうやら、夢の内容を覚えているようだ。
「う、うん。見たよ」
頬を赤くさせて、視線を床に落とす。
「良かったら、教えてくれないか?」
俺は確かめかった。
ミハイルモードでヤッちゃったのか、アンナモードでヤられたのか。
小さな胸の前で、指と指をツンツンと突っつきながら、語り始めた。
「いいよ……あのね、笑わないでよ」
「ああ、絶対に笑わない」
「夢の中でね。タクトと手を繋いで、お花がいっぱい咲いている公園を歩いている……そういう夢だったよ」
それを聞いた俺は、思わずブチギレてしまった。
「ああ!? お前、なめてんのか!?」
激怒する俺を見て、うろたえるミハイル。
「お、怒んないでよ……ホントだって」
「本っ当にそれだけか? 公園でナニかしてないのか?」
彼は真っすぐ一点の曇りもないキレイな瞳で答える。
「ううん、なにも。ただ、タクトとお花を眺めて歩いただけ」
「……」
なんなの、こいつ。
可愛すぎなんだけど、マジで!
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