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第三十八章 新時代の幕開け

朝チュン

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「いつつ……」

 激しい腰の痛みで目が覚めた。
 ゆっくりと瞼を開けば、見知らぬ白い天井が。
 どこからか、小鳥のさえずりが聞こえてきた。
 部屋の中は薄暗く、辺りを確認することは難しい。
 ふと、左手に目をやると、一筋の光りが差し込んでいた。
 きっとカーテンだ。陽の光がもれているのだろう。

 腰をさすりながら、ゆっくりと起き上がる。
 起き上がる際に、バランスを取るため、床に手をやって支えると……。

 プニッ。

 偉く柔らかい。
 布団か?
 いや、違うな。
 布団にしては、ふわっとしてない。
 そして……柔らかいというか、硬い。
 あれだ。人間の素肌。そして骨のような感触。

 しばらく、その感触を確かめていると。
「う、うぅん……」
 可愛らしい声が聞こえてきた。

 誰か、隣りにいるぞ。
 俺は確かめるために、ベッドから立ち上がって、カーテンをジャッと勢いよく開く。
 急に部屋が明るくなったため、眩しい。
 これまた、見慣れない風景だ。
 一面ガラス製の大きな窓。

 そして、目の前には1つの川が流れている。
 対岸には、大きな建物が。
『カナルシティ博多』

「え……えええ!?」

 つい、アホな声がもれてしまう。

「ま、まさか……」
 そう言って、振り返るとベッドには、金髪の少女が一人シーツに包まれている。
 寝顔さえ、可愛い。
 アンナだ。

 陽の光によって、目が覚めたようだ。
 瞼を擦りながら小さな口を開けてあくびをする。
「ふわぁ」
 のんきに背伸びをしている。

「あ、アンナ……俺たちって、まさか」

 そう言って、お互いの姿を確認すると。
 生まれたばかりの赤ちゃんだぁ♪
 なんてこった!

 女のアンナはさすがに、シーツで身体を隠してはいるが。
 白い素肌が確認できるので、裸体であることは間違いない。

「おはよ☆ タッくん」
 優しく微笑むアンナ。

「俺たちって……」
 その問いに、少し頬を赤くして恥じらうアンナ。
「うん……タッくんから誘ってくれるとは思わなかったな☆」

 ぎゃあああ!

「そ、そんな。一線を越えてしまったのか!?」
 博多川を!
「タッくんがアンナを抱きかかえて、連れて来たんじゃん☆ 責任、取ってね……」
「え……なんの?」
 俺がそう言うと、彼女は頬を膨らませる
「も~う! 言わせないでよ~ お、お尻……」



「うわあああああ!」

 また、あの夢を見ていたのか。
 一週間前、アンナとデートして以来、毎日この夢を見る。
 きっと彼女が泣きながら、俺に跨ったせいだろう。
 童貞の俺には刺激が強すぎたんだ……。


 結局アンナは落ち込んだまま、あの日の取材は終わってしまった。
 正直、罪悪感でいっぱいなのだが、それよりも泣いている彼女に、興奮している自分を抑えるのに精一杯だった。
 なんでか、色っぽく感じちゃったんだもん。

 二段ベッドから降りて、学習デスクの上に置いてあったスマホを手に取る。
 時刻は、『6:50』
 今日、スクリーングの日か。

 ちょっと、早いが家を出よう。
 

 真島駅に向かい、近くのコンビニで菓子パンとブラックコーヒーを買う。
 駅のホームに入り、電車を待ちながら、朝食を済ませる。

 今日は……あんまりミハイルに会いたくないな。
 あれだけ、アンナを泣かせたあとだ。
 胸が痛む。

 きっと、ミハイルも落ち込んでいるに違いない。
 いつもなら、取材のあとは決まって、鬼のようなL●NEメッセージを送ってくるのに。
 あれ以来、一通も届かない。
 ミハイルからもだ。

 下らないことでも、なにかと俺に連絡を取ってくる二人が、この一週間なにもない。
 自殺でもしてないか、すごく不安だった。
 だからといって、俺から連絡するのも怖くて……。

 そんなことを思っていると、列車が到着する。
 車内に入ると、いつもより早い時刻のせいか、がらーんとしていた。
 リア充の制服組も少ない。

 こりゃいいなと、ゆったり座席に座る。

「はぁ……今日、学校行きたくねーな」

  ※

 ボーッと窓から景色を眺めていると、ミハイルが住んでいる席内駅に着いた。
 自動ドアが開く。
 まさか、いるわけないよなって、確認してみる。
 いつもなら……「おっはよ~ タクト~☆」なんて元気な笑顔が見られるのだが。

 プシュー! と音を立ててドアが閉まる。

 その時だった。
 ガタン! と鈍い音が車内に鳴り響く。

「ちょっと待って! オレも入る!」

 見れば、華奢な体つきの少女だ。

 肩だしのロンTに、デニムのショートパンツ。
 長い金色の髪は首元で1つに結っており、纏まりきらなかった前髪は左右に分けている。
 あ、女の子じゃない。ミハイルだった。

 車内に入ってきた彼と目が合う。

「あ」
「あぁ……」

 どうやら、お互いに気まずかったようで、列車の時間をずらしていたようだ。
 こんなところは似ているんだよなぁ。
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