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第三十七章 男の娘を泣かせるな
大きなお友達二人、再び
しおりを挟む無事にペンライトをゲットできたアンナは、終始ご機嫌だった。
その代償として、俺は人間として大事なものを失ったが……。
チケット売り場の左からエスカレーターに乗る。
相変わらず、スクリーンまでが長い。
でも、それがこの映画館の楽しみ方でもある。
左側には一面ガラス張りの窓で、上に昇るに連れて、カナルシティを一望できる。
ついでと言っちゃなんだが、隣接している高級ホテルの屋上も見られる。
俺みたいな貧乏人には、無縁の建物だが。
立派な和風の庭園があり、一つ小さな古風の家らしき建物がポツンと立っている。
きっとあれだ。
上流階級の奴らがお見合い的な事をするんだろう……。
なんて、勝手な妄想を膨らませていると。
隣りにいたアンナが手を叩いて見せる。
「そうだ。まだ朝ご飯食べてないよね?」
「ああ、アンナがそう指示したからな」
おかげで、眩暈が起きそう。
「じゃあさ。ボリキュアを観ながら、二人で朝ご飯を食べようよ☆」
「暗い中でか?」
「うん☆ タッくんは先にスクリーンの中で待っててよ☆ アンナが用意してくるから」
と嬉しそうに笑う。
「?」
映画館で飯を食うなんて……。
まあ別に音を立てずに食わなければ、マナー違反ではないかな。
しかし、この売店にご飯なんて売っていたか?
精々がポップコーンぐらいだったような。
※
俺は彼女に言われた通り、ひとりスクリーンの中で待つことにした。
入ってみると、いつもと違った客層に飲み込まれそうになる。
辺りを見回せば……。
「きゃははは」
「ママ、ボリキュアだぁ~」
「ライト。ライトぉ~!」
なんて鼻水を垂らしている幼女ばかり。
場違い過ぎる。
ほとんどが家族連れって感じで、大人もいるけど、あくまでも付き添い。
近くにいたお母さんと目が合えば、「うわっ」とドン引きされる始末。
俺だって彼女の付き添いだもん! 大友、扱いしないで!
アンナが購入した指定席は、劇場の真ん中あたりで一番観やすいシート。
ただ、普通の座席と違い、ひじ掛けがない。
ソファーのようなシートだ。
どうやら、ファミリー向けの座席らしい。
「最近はこんなサービスがあるんだな」
ポンポンと誰もいないシートを叩いてみる。
すると、色白の長い脚が2つ現れた。
見上げれば、ニッコリと笑う金髪のハーフ美少女が。
「お待たせ☆ 朝ご飯買ってきたよ☆」
大きなトレーを持っている。
「おお……」
慌てて手をどけ、隣りに彼女を座らせる。
※
「やっぱりボリキュアの15周年だから、アンナ達もお祝いしないと、って思ったんだ☆」
「……」
俺はトレーの上に並ぶ朝食を見て、絶句する。
「じゃあ映画始まる前に食べよっか☆」
「あ、ああ……」
アンナが用意してくれた朝ご飯は。
プラスチック製のオリジナルドリンクカップホルダー。
もちろん、カップにはボリキュアシリーズの歴代キャラクターが総勢55人もプリントされている。
ストローの部分はピンクのハートの飾りつき♪
とってもカワイイよ!
お次は、メインの料理だが。
大手ドーナツ専門店の『ミス・ドーナツ』の袋が置かれていた。
中を開けると、3つドーナツが入っていることを確認できる。
1つ取り出してみると。
これまた可愛らしいオリジナルスリーブに入ったボリキュアのドーナツが……。
ハートの形をしたドーナツで、女の子が喜ぶようなピンク色。
つまり、ストロベリーチョコだ。
あとの味も確認してみたが、全部同じものだった。
「女の子ってこういうの、いつまでも大好きだもんね☆ タッくん。ここ大事な所だからしっかり覚えておいてね。ちゃんと取材して☆」
「はい……」
朝から甘いストロベリーチョコを三個も食わせられる苦行。
だが、唯一の救いはアンナが買ってきたドリンクの中身が、無糖のブラックコーヒーだったことだ。
胃もたれしないですみそう……。
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