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第三十三章 こいつ、カワイイか!?(ブチギレ)
炎上したアイドル
しおりを挟む「ミハイル。このためだけに真島で待っていたのか?」
「うん☆ 5時間ぐらい☆」
熱中症で死んぢまうぞ!
「そ、そうか……」
「ホントはタクトん家に行ったんだよ? でもかなでちゃんが『おにーさまなら外出中ですわ』て言われたから、駅で待ってたんだよ」
と唇を尖がらせる。
「ちょっと仕事でな……」
そう答えた瞬間、彼の目つきが鋭くなる。
ギロっと俺を睨みつけ、あんなにキラキラと輝いた瞳が一気に暗くなる。
ブラックホールのようなどこまでも終わりがない闇。
「仕事? お盆だよね? タクト、まさか取材?」
ずいっと身を寄せる。
口調こそ優しいけど脅しに聞こえる。
笑みも絶やすことはないが、目が全然笑ってない。
「あ、あの……その、そうだ。取材だ」
「なんで? オレとかアンナ以外に取材する必要あるの?」
凍えるような冷たい声で喋らないでぇ!
真夏なのに北極みたい……。
「な、ないけど……」
「どこに行ったの?」
「博多です」
その言葉を聞いた瞬間、ミハイルのこめかみに太い血管が浮き出る。
「相手は誰? ひなた? ほのかなら許すけど?」
ひえぇ!
ここは噓をつくと絶対あとが怖いぞ。
真面目に答えよう。
「あ、あすかだ! 自伝小説を書いて欲しいって、正式に頼まれたんだ。あくまでも作家としての仕事だ。やましいことなんてなにもないぞ! 実際に報酬として10万円を約束されたんだ!」
「へぇ……あの売れないアイドルの名前。もう下の名前で呼ぶぐらい仲良くなっちゃったんだ。やっぱり特別な取材なんだな。タクト、前にあいつのことをカワイイって言ってたし」
ヤベッ! 墓穴を掘っちゃったよ!
考えろ。どうにかして、この窮地を脱するんだ!
俺の作家人生、まだまだ終わるわけにはいかない。
はっ……アンナ。そうアンナだ。
「ま、待て待て! この依頼と取材は確かに特別だ! 実はハイスペックのパソコンが欲しくてな! アンナと取材したときの写真や動画を高画質で保存したり、楽しむにはどうしても金が欲しくて、仕方なくやっているに過ぎない! 信じてくれ!」
「え……アンナのため?」
彼のグリーンアイズに輝きを取り戻すことに成功した。
「そうだ! 俺だってアンナのためじゃなかったら、こんな仕事やってないぞ!」
「……そっかぁ☆ お仕事おつかれさま、タクト☆」
ふぅ、どうにか危機は去ったな。
「だよな。タクトがアンナ以外の女の子と取材を楽しむわけないもん☆」
「そうそう」
笑ってごまかす。
「ふふ……アンナのやつ、タクトが写真と動画を大切にしているって聞いたら喜ぶだろな」
なんて身体をくねくねさせるご本人。
「まあこのことは、あんまりアンナに言わないでくれよな。あいつも自分のために仕事するとか聞いたら気にするだろうし」
「うん☆ 約束な☆」
なんて指きりする。
平穏を取り戻した俺は安堵する。
ミハイルから大きなケーキをもらったので、「せっかくだから自宅で一緒に食べて行かないか?」と誘ったが、「ねーちゃんが起きるころだから今日は帰るよ☆」と断られた。
「じゃあまたな」
そう言って背を向ける。
名残惜しいが、また新学期に会えるさ。
駅舎から出ようとしたその瞬間だった。
ミハイルが俺のジーパンを引っ張る。
「なにこれ」
「え?」
振り返ると、尻ポケットに一枚のカードが入り込んでいた。
ファッ!?
あすかのおパンツカードをもらってたの忘れてた。
ポケットから取り出すミハイル。
しばらく見つめたあと、眉間に皺をよせる。
「これってさ。仕事のためにいるの?」
「いや、いらないです。絶対に……」
「だよね☆ タクトはちょっと待ってて」
そう言うと笑顔で近くのコンビニに入っていった。
数分後、ニコニコ笑いながら、店内からなにかを手に持って戻ってくる。
小さなライターだ。
「ミハイル。タバコはやめたんじゃないのか?」
「もうそんなの吸うわけないじゃん。タクトが嫌いなものは、オレもだっい嫌いだもん☆」
左手にあすかのカード。右手にはライター。
「そうか……嫌いになったのか」
「うん☆ タクトもオレが嫌いなものは、絶っ対、ぜっ~たい、大嫌いだよね?」
「はい。マブダチですもん」
もう敬語でしか話せません。
「じゃ、有害図書は燃やさないとね☆ ねーちゃんがいつもそう言ってるし☆」
次の瞬間、真っ赤に燃え上がるミハイルの左手。
小さなライターだというのに火力がかなりあるようだ。
数秒で黒いゴミカスと化した。
「これでよし☆ ちゃんとゴミ箱に入れておくから大丈夫☆ それじゃタクト。お仕事頑張ってねぇ~☆」
「死ぬ気で頑張ります……」
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