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第三十三章 こいつ、カワイイか!?(ブチギレ)
直筆サインは絶対に売っちゃダメ!
しおりを挟む長浜に無理やりブルセラカードを渡されてしまった……。
マジでいらね。
その後、何故か俺までCDの特典詰めをさせられることになる。
人手不足らしい。
なんでもこの芸能事務所、『明日か明後日か』はその名の通り、長浜 あすかをデビューさせるために設立された会社で、社長こそ名義上は存在しているが、普段は事務所にいないそうだ。
社長は何個も会社を運営している成金で、長浜の地元である白山市で彼女を見つけて一目惚れ。
そして現在に至る。
だから金持ちの趣味で立ち上げた芸能事務所と言えるだろう。
所属しているアイドルグループ、もつ鍋水炊きガールズも長浜のために結成したもの。
だから他の二人は引き立て役。
先ほど俺と話した控えめの女の子、左近充 左子ちゃんは使い捨てのアイドル。
それに双子ってぐらい見た目が同じおかっぱの右近充 右子ちゃんも同様の扱い。
散り散りになったパンツの生地をカードに差し込み、ディスクケースに封入。
しんどい作業だ。
黙々と4人で内職をこなしていく。
ひとり100枚のノルマ。
やっと終わったと思ったら、長浜が今度はマジックでサインを書くと言う。
「ガチオタ! あんたも手伝いなさい!」
「いや、それはダメだろ……お前のサインをファンは欲しがっているんだろ? バレちまうぞ?」
「フンッ! キモオタにアタシのサインと素人のサインなんて見分けがつくわけないでしょ! 良いから黙ってやりさない! これがアイドルの仕事なんだから!」
えぇ……。
YUIKAちゃんのファンクラブで、以前当たった直筆サインを喜んでいた俺を幻滅させないでくれる?
いや、長浜だけだ。YUIKAちゃんはあの可愛くて小さな指で一生懸命、徹夜で書いたに違いない!
※
一連の作業が終わり、休憩することに。
疲れた肩をマッサージしていると、左子ちゃんが「お、お疲れ様です。お茶を入れてきますね」と事務所の給湯室へと向かった。
良い子だ。
長方形の大きなテーブルに、俺、長浜と並んで座っている。
向い側に右子ちゃんがいる。おどおどした様子で、どこか落ち着きがない。
「あ、あの……良かったら、こ、この前出演したテレビ番組を見てくれませんか? そ、その新宮さんは作家さんなんですよね? 是非プロの作家さんに私たちの歌と踊りを見て欲しいんです」
「まあ、俺でよければ」
そう答えると、彼女はパーッと顔を明るくして喜ぶ。
「う、嬉しい……じゃあ今からDVD持ってきますね」
と近くにあったロッカーへと走って行く。
隣りで座る長浜は特に何をするわけでもなく、相変わらずふてぶてしい態度だ。
「フンッ! 右子も左子もガチオタに優しすぎよ! こいつはただの一般人なんだから、塩対応で良いのよ! それがファンサービスってやつだわ!」
あ~! 殴りてぇ~!
女じゃなかったら、ボコボコにしてぇ……。
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