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第三十三章 こいつ、カワイイか!?(ブチギレ)

不動のセンター

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 自動ドアが開く。
 事務所の中はあまり広くはないが、比較的きれいな場所だった。
 白い壁には一面、 ローカルアイドルグループ、もつ鍋水炊きガールズのポスターで埋め尽くされている。
 入口の目の前に、大きな白いテーブルがあり、そこで長浜と同じアイドルメンバーの二人が何やら作業をしている。
 自己主張が激しすぎる長浜とは違い、かなり大人しそうな女の子たちだ。
 俺に気がつくと、ぎこちなく会釈する。

 初見の子たちだったので、自己紹介を始めようと思ったが、長浜が勝手に喋り出す。
「みんな! こいつが前に話していた作家よ! そしてアタシのガチオタなの! 前に席内でソロライブやった時なんか、こいつ3万円も支払ってまでチェキを撮りたがったキモオタなのよ、笑っちゃうわよね!」
 あれはミハイルというか、ヴィクトリアの買い物をしたら、たまたまお前がいただけだろ!
 長浜の嘘を真に受ける女の子達。
「す、すごいです。さ、さすがセンターのあすかちゃん」
「作家さんを推しにさせるなんて、リーダーかっこいい」
 なんて控えめな少女達なんだ。
 どうせなら、この子たちを推してあげたい。
「フンッ! アタシみたいなトップアイドルにかかれば、こんなヤツ。一回のライブでイチコロよ!」
 黙って言わせておけば……だが堪えろ。
 全てはハイスペックパソコンのためだ。
 アンナぬるぬる動画計画を頓挫するわけにはいかない。
 既にBTOメーカーに見積もりを出してしまった。
 SSD、大容量の5TBHDD、それにグラボまでつけておいたんだ。
 がんばれ、俺!

   ※

 とりあえず、長浜に言われて近くの応接室に通された。
 小さなテーブルを挟んで向かい合わせに座る。
 そもそも自伝小説の内容を聞かされていない。
 俺はどういう風に書けばいいか、彼女に尋ねる。
「長浜。自伝小説だっけか? 20万文字も使う大作だ。お前のどこから書けばいいんだ?」
「そうねぇ……ずばり出生から現在に至るまでよ!」
「赤ん坊の頃から書くのか?」
「ええ! ファンなら絶対に買うでしょ!」
 誰が読むんだ。そんなの……。


 それから俺は延々と彼女の生い立ちを一方的に聞かされた。
 まあ取材も兼ねているから、一応ノートパソコンでテキストに記録しておく。
「アタシは福岡生まれの福岡育ち! そして芸能人になるようにして生まれたのよ! 赤ちゃんの頃からそれはもう可愛かったわ! 幼稚園の時なんて知らないおじさんによくスカウトされそうになったものよ!」
 聞いていて、タイピングしていた指が止まる。
「知らないおじさん? どこで?」
「確かスーパーだったわね。アタシが可愛すぎたのか、鼻息を荒くしながら『キミ、いくつ? おじさんの家に来ない?』なんてスカウトしてきたのよ」
 それ、スカウトじゃなくてただの変質者だろ……。
「で、その後どうなったんだ?」
「なんでか知らないけど、近くにいたアタシのおばあちゃんが怒り出して、そのスカウトはダメになったわね。まあ、アタシほどの可愛さになれば、スカウトしたがる事務所はたくさんいるのよね……芸能人って辛いわ」
 無知って怖い。
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