上 下
278 / 490
第三十三章 こいつ、カワイイか!?(ブチギレ)

尻軽作家

しおりを挟む

「ねぇ! 聞いているの!? ガチオタ!」
「……」
 なんでこいつが俺ん家を知っているんだ?
 怖っ! ストーカーがまた一人増えたよ。
「フンッ! このトップアイドル、長浜 あすかがわざわざ来てあげたのよ? 感謝しなさい!」
 絶対に感謝したくない。
「長浜……お前、何しに来たんだ? ていうか、どうやってここの住所を知ったんだ?」
「私を誰だと思っているの。芸能人なのよ! あんたみたいなガチオタの特定ぐらい、お茶の子さいさいよ!」
「すまん。帰ってくれ」
 恐怖を覚えた俺は扉を閉めようとする。
 だが、サッと長浜の脚が間に入り、静止させた。
 新手の勧誘ぐらい押し売りじゃないか。
「待ちなさいよ! アタシとの約束を忘れたっていうの!?」
「はぁ? お前との約束……そんなことあったか?」
 俺が首を傾げていると、長浜は顔を真っ赤にさせて、肩をぶるぶると震わせる。
「あんたねぇ……この前の別府温泉でアタシの名刺を渡してあげたでしょ! アタシの自伝を書くって約束よ!」
 ちょっと涙目になっている。
 ヤベッ、マジで忘れてた。

   ※

 長浜に詳しく事情を聞くと、ここの住所は宗像先生から聞いたらしい。
 所属している事務所の社長が進めている彼女の自伝を早く出版したいとのこと。
 文章力に自信がないから、アイドルである長浜の芸能活動に密着して、俺がゴーストライターとして、まとめて欲しい。
 それが今回の彼女の要望だ。
 また、原稿料も頂けるみたいだ。
 一本仕上げて、10万円。
 悪くない話だ。
 ハイスペックパソコンが買える!
 そしたら、アンナの秘蔵動画や写真をサクサク楽しめるではないか!

 良いだろう……結ぶぞ。その契約!
 全てはアンナのために!

「了解した。納期はどれぐらいだ?」
「フン! 一週間ぐらいよ!」
「い、一週間!?」
 なんて作家泣かせの期間だ。
「来週、博多の事務所に来なさい! そこで本物のアイドルをタダで見せてあげるわ! ガチオタなんだから、ご褒美でしょ!」
 こんの野郎、本当にムカつく女だ。
 男だったら殴ってやりたい。
 だが、10万円という大金をくれる負と太客だ。
 堪えるんだ、琢人。
「い、いいだろう……で、仕上げるにあたってもう一つ聞いておきたいことがある。本にするのなら、文字数は決めているのか?」
「は? それぐらい、ググりなさいよ!」
 ググってどうにかなる問題じゃないんだよ!
 あ~ ムカつく。
 こいつ、本当にアイドルか?
 全然、男に媚びを売らないじゃないか。
「あのな……文字数を決めておかないと、オチとかもしっかり考えないといけないんだよ。それに納期は一週間程度なんだろ? それは依頼主である長浜か社長が決めることだろう」
「仕方ないわね。これだから一般人は無知で嫌いなのよ!」
 お前に言われたくないし、お前も一般人に近いと思う。

 スマホを取り出す長浜。
 どうやら社長と電話しているようだ。
 
「あ、もしもし~♪ 社長ですかぁ? あのぉ~ 例のアタシの自伝小説なんですけどぉ~」
 こいつ、人で態度が全然違うのか。
「なんかぁ~ 雇うライターが文字数決めろってうるさいんですぅ~ どれぐらいにしたらいいですかぁ~」
 
 しばらくブリブリ女を演じたあと、通話をやめる長浜。
 先ほどまでの態度から一変して、俺には女王様レベルの上から目線で話し出す。

「社長と相談したら、20万文字ですって。一週間で仕上げなさい!」
 ファッ!?
 たった七日間で20万文字だと……。
 ラノベ二巻分を仕上げるなんて。
 だ、だが……どうしても、ハイスペックパソコンが欲しい。
 カクカク動画のアンナは辛すぎる。

「や、やろう。俺はこう見えてプロの作家だからな」
 尻軽作家でごめんなさい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

二十歳の同人女子と十七歳の女装男子

クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。 ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。 後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。 しかも彼は、三織のマンガのファンだという。 思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。 自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。

歩みだした男の娘

かきこき太郎
ライト文芸
男子大学生の君島海人は日々悩んでいた。変わりたい一心で上京してきたにもかかわらず、変わらない生活を送り続けていた。そんなある日、とある動画サイトで見た動画で彼の心に触れるものが生まれる。 それは、女装だった。男である自分が女性のふりをすることに変化ができるとかすかに希望を感じていた。 女装を続けある日、外出女装に出てみた深夜、一人の女子高生と出会う。彼女との出会いは運命なのか、まだわからないが彼女は女装をする人が大好物なのであった。

カジュアルセックスチェンジ

フロイライン
恋愛
一流企業に勤める吉岡智は、ふとした事からニューハーフとして生きることとなり、順風満帆だった人生が大幅に狂い出す。

おじさんとショタと、たまに女装

味噌村 幸太郎
恋愛
 キャッチコピー 「もう、男の子(娘)じゃないと興奮できない……」  アラサーで独身男性の黒崎 翔は、エロマンガ原作者で貧乏人。  ある日、住んでいるアパートの隣りに、美人で優しい巨乳の人妻が引っ越してきた。  同い年ということもあって、仲良くなれそうだと思ったら……。  黒猫のような小動物に遮られる。 「母ちゃんを、おかずにすんなよ!」  そう叫ぶのは、その人妻よりもかなり背の低い少女。  肌が小麦色に焼けていて、艶のあるショートヘア。  それよりも象徴的なのは、その大きな瞳。  ピンク色のワンピースを着ているし、てっきり女の子だと思ったら……。  母親である人妻が「こぉら、航太」と注意する。    その名前に衝撃を覚える翔、そして母親を守ろうと敵視する航太。  すれ違いから始まる、日常系ラブコメ。 (女装は少なめかもしれません……)

処理中です...