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第三十二章 女装のヤンキーと片想いのヤンキー
中洲の女帝
しおりを挟む道端でしばらくリキを休ませていると、例の映画館から一人の老人が出てきた。
目と目が合ってしまった。
俺は気まずいと思わず視線を逸らす。
今回の取材は、確かに腐女子のほのかを落とすための攻略法として、仕方ないとはいえ、なんだか界隈の人々の純粋な想いを踏みにじるような罪悪感があったからだ。
無知な俺たちは土足で彼らの社交場を荒らしてしまったような……そんな気分。
「あら、タッちゃんじゃない?」
「え……」
その老人は俺の名を知っているようで、声に出してしまった。
視線をもう一度戻してみると。
確かに年老いてはいるが、どこか違和感がある。
夏だというのに淡い紫色の着物を着ている。
ただし女性ものだ。
「タッちゃんでしょ? 久しぶりねぇ~」
「ば、ばーちゃん!?」
忘れてた……中洲にはこのめんどくさい祖母がいることを。
俺の腐りきった母親、琴音さん側の……。
つまり、この老婆も還暦を越えた腐女子なのだ。
※
ばーちゃんの名前は、鹿部 すず。
御年62歳になる生粋の博多っ子であり、腐女子でもある。
俺たちが中洲に来た理由を話すと、特に驚くこともなく、
「あ、そうなの」
ぐらいで、ケロッとしていた。
それよりも疲弊しているリキを見て、心配してくれた。
近いからと自分の家で休んでいくようにと促される。
正直、俺は母さんよりも、ばーちゃんの方がブッ飛んでいるから、あまり関わりたくなかったのだが。
確かに今のリキには休養が必要だ。
仕方ないので、渋々ばーちゃんの家に行くことにした。
ばーちゃんの家は中洲川端商店街にある。
俺ん家と同じく、自宅兼店舗だ。
取り扱っている商品は和服。
だから、店長でもあるばーちゃんは、年がら年中着物を好んで着用している。
商店街を歩きながら、俺は例の映画館にいたことを尋ねる。
「ばーちゃん。どうしてあそこにいたんだよ? 女性は入っちゃダメだろ?」
「だってリバイバルだったし、観たかったもの。別に犯罪じゃないのだから、いいでしょ?」
全然悪びれる様子もなく、手に持っていた扇子をパタパタと仰ぐ。
「いや、ダメでしょ……界隈の人たちに対するタブーじゃないか」
「なんで? お金も払っているんだし、別にいいじゃない。それにおばあちゃんだって、まだまだ枯れてないのよ? たまには新鮮なネタが欲しいのよ」
最低なばーちゃん。
しばらく商店街を歩いていると、目的地である店にたどり着いた。
小さな店だが、年季の入った木造建てのどこか風情のある佇まい。
看板さえなければな。
『呉服屋 腐死鳥』
蛙の子は蛙ですよ……。
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