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第三十二章 女装のヤンキーと片想いのヤンキー

帰還兵に敬礼!

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 その後もアンナは、パンパンマンミュージアムの中で、買い物を楽しんだり、着ぐるみとツーショットを撮ったりと、リキのことはそっちのけで、遊び倒す。
 まあ、俺もなんだかんだ言って、二人の時間を楽しんでしまい、彼のことはすっかり忘れていた。
 一通り館内を回った所で、いい加減デートはおしまいにしようと、アンナに提案する。

   ※

 博多リバレインを出ると、すっかり辺りは、夕陽でオレンジ色に染まっていた。
 とりあえず、リキが単独潜入した例の映画館へと戻る。


 薄暗い通りに一人の青年が道路の隅で座り込んでいた。
 顔面真っ青で魂が抜けたような覇気のなさ。
 俯いて視点はずっとアスファルトに向けられたまま。
 まさかっ!?

 俺は急いで彼の元へと駆けつける。
「おい! リキっ! 大丈夫か? なにがあった!?」
 肩を揺さぶって、視線をこちらへ向けようとするが、反応がない。
「……」
 一体なにがあったというんだ。
 あのヤンキーのリキをここまで抜け殻にしちまうとは。

 そこへアンナが近寄って優しく話しかける。
「どうやら、たくさんのおじさんと仲良くなれたみたいだね☆ リキくん☆ やったね!」
 ファッ!?
 恐ろしいお人だ。
「ああ……ちゃんと仲良く……なれたぜ」
 ようやく答えてくれたが、なんて弱弱しい声だ。
 心配した俺は、現場でなにがあったかを尋ねる。
「リキ! 大丈夫なのか? お前の身体は?」
「え……別に身体は大丈夫だぜ」
 それを聞いて、俺はホッとした。
「そ、そうか。じゃあどうやって、おじさんと仲良くなれたんだ?」
「アンナちゃんに言われた通り、ダチになってきたぜ。案外チョロいもんだったよ。映画見てたら色んな人に話しかけられてよ。『ネコが好きか?』とか動物好きな人がいたりして……」
 意味を履き違えてるよ!
 それ、受けの意味だ……。

「リキ。お前、それでなんて答えたんだ?」
「え? 俺は『どっちも好きだ』って答えたよ」
 多分彼としては、犬と猫どっちも好きだと言いたいのだろうが。
 おじ様からすると「受けも攻めもOKです」と聞こえてしまったのだろうな。
「……それから?」
「とりあえず、L●NEを交換しておいたよ。ダチだってことで。50人ぐらいは仲良くなれたと思うぜ」
 なんて親指を立てるナイスガイ。
 というか、モテモテだな。リキ先輩。

 一連の会話を隣りで聞いていたアンナは、満足そうに微笑み、黙って頷いていた。
「すごい、リキくん☆ これでほのかちゃんとラブラブになれる第一歩を踏み始めたんだよ☆」
 いや、界隈への第一歩の間違いだろ。
「ヘッ。恋の力ってヤツかな」
 なんて人差し指で鼻をこすってみる。

 だが、一つ気になった点がある。それは彼の現在の状態だ。
 偉く疲弊しているように見える。
 俺がその理由を聞くと
「ああ。字幕映画なんて普段見ないから、4時間も見るのが疲れただけだよ」
 とのことだ。
 彼自身は無事に戦場から帰還できたようで、一安心……なのか?
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