上 下
236 / 490
第二十九章 女教師観察日記

先生とデート3

しおりを挟む

 宗像先生は、ドラッグストアで大量の生活必需品をゲットして大喜び。
 店から外に出ると、もう陽は暮れ、辺りは真っ暗になっていた。

「うーん! いい大人のデートが出来たな~ 新宮」
「え、今までのデートなんですか? 大人の中で?」
「あん? そりゃそうだろ……大人ってのは、ガキと違って、必死に毎日を生きるもんだ。それこそ、這いつくばってもな」
 あんた、文字通り、這いつくばって福引券を漁ってたもんな。
 間違ってはないよ。

「さ、ショッピングデートは済んだし、次はロマンティックなディナーデートと洒落込むか♪」
「ディナー? どこかで夕食ですか?」
「ああ、私の行きつけの店でな。あそこに行けば、どんな女でもイチコロだぞ♪」
「へぇ」
 なんだろ? イタリアンレストランとかかな。

 
 くりえいと白山を出て、赤井駅に戻る。
 駅周辺には、小さな飲食店がたくさん並んでいて、夜だから看板や提灯に灯りがついている。
 主に赤井町の住人やサラリーマンが、仕事帰りに一杯といった感じの大衆食堂や居酒屋が多い。
 俺の住んでいる真島商店街とあまり変わらないな。
 しかし、最近は時代ということもあって、田舎でも若い人々が狭い敷地を活かして、お洒落な店を開店している。
 小規模でも流行れば、充分儲けられるんだから、すごいよな。
 要は工夫だ。

 しばらく、先生と一緒に歩いていると、一つの店の前で立ち止まる。
「さ、着いたぞ」
「え……ここですか?」
「はーっははは! しゃれとーだろ?」(洒落ているだろ?)
「いえ、普通ですばい」(普通ですね)
 宗像先生が急にコテコテの博多弁を使ってきたので、俺もエセ博多弁で突っ込む。

 店の名前は、『やきとり、鳥殺し』
 酷いな……鳥さんたちに謝れよ。

 どこが洒落ているんだ? ただの居酒屋、焼き鳥屋じゃないか。

 困惑する俺を無視して、先生は店の赤いのれんをくぐり抜ける。
「おおい! 来てやったぞ! 今日はカレシも連れてきたからな!」
 誰が彼氏だ!
 店内に入ると、がたいの良い若い男性店員が何人もいて、大きな声で俺達をおもてなし。

「「「いらっしゃいませぇ~ どうぞ、どうぞ!!!」」」

 バカみたいに叫ぶので、思わず耳を塞いでしまう。
 店員たちは、皆同じ色の黒いTシャツを着ていて、黄色の文字でデカデカと店名である『鳥殺し』とプリントされていた。

 小さな店だが、活気がある。
 炭で肉を焼いているため、少し煙が目に染みるが、それよりもチリチリと立つ音が心地よく、また店中に漂う旨そうな香りが、腹の音を鳴らす。

 俺達は、カウンターに通された。

 店員からおしぼりを受け取った宗像先生は、メニューを見もせず、一言。
「いつものくれ、二人分」
 なんて常連ぶりをアピール。
「はいよ! 宗像先生! いつもあざっす!」
 若い大将だ。金髪のお兄さん。まだ20代前半か。
 周りの店員もみな同じぐらい。
 なんていうか、元ヤンって感じの風貌。
 だが、感じは悪くない。

「新宮。お前はなにを飲む?」
「え、俺ですか? じゃあ、アイスコーヒー、ブラックで……」
 と言いかけたら、先生に一喝される。
「バカヤロー! そんなもん、居酒屋にあるか! 酒を頼め!」
「い、いや、それは……俺、まだ未成年ですよ?」
「関係ないだろ! 今はデートという設定なんだ! 私と飲め! 大人のデートを味わないとちゃんとお前は小説に還元できないんだろ? じゃあ、飲め!」
 なんて無茶苦茶な発想だ。
 しかも、教師の言う事じゃない。

「ですが……法律は守らないと……」
「うるせぇ! タマの小さい野郎だ! もういい。私が頼む。おい、ハイボールを二つくれ!」
 勝手に頼まれてしまった。

 俺達の会話を聞いていた大将が苦笑いで「あいよ」とハイボールを作り出した。
 マジで作るの?

「お待ちどう!」
 ドンッ! とデカいジョッキがカウンターに二つ置かれた。
 
「キタキターっ! これと焼き鳥が合うんだよぉ~」
 涎を垂らすアラサー教師。いや、ただのアル中。
「これ、マジで飲むんですか……」
「そうだよ! さ、乾杯するぞ!」
 反抗すると殺されそうなので、とりあえず、ここは彼女に合わせ、乾杯してあげる。
 まあ、あれだ。ひと口飲んだ振りして、逃げるしかない。

 恐る恐るジョッキに唇を近づけると、なにか違和感を感じる。
 香りだ。
 これは……ジンジャーエール?
 舌で舐めてみる。
 確かにジュースだ。アルコールは感じない。

 カウンターの奥で焼き鳥を仕込んでいる大将の方を見つめていると、俺に気がついたようで、ウインクしてきた。

 近くにいた別の店員が耳打ちしてくる。
(あのさ、一ツ橋の生徒でしょ? 大丈夫、宗像先生に付き合わなくていいから。それ、ジュース)
(え、まさか。卒業生の方ですか?)
(うん。この店の従業員、みんなそうだよ)
(あ、あざーす)

 危うく犯罪を犯すところだった。
 先輩たちに救われたよ……ありがとう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝込みを襲われて、快楽堕ち♡

すももゆず
BL
R18短編です。 とある夜に目を覚ましたら、寝込みを襲われていた。 2022.10.2 追記 完結の予定でしたが、続きができたので公開しました。たくさん読んでいただいてありがとうございます。 更新頻度は遅めですが、もう少し続けられそうなので連載中のままにさせていただきます。 ※pixiv、ムーンライトノベルズ(1話のみ)でも公開中。

魔王(♂)に転生したので魔王(♀)に性転換したら何故か部下に押し倒された

クリーム
恋愛
女学生がファンタジー世界の魔王(♂)に転生(憑依)してしまったので、魔法で性転換したら、部下(♀)まで男体化してついでに唇まで奪われてしまったという話。 ツンデレ一途悪魔(女→男)×天然無表情魔王(女→男→女) 初っぱなで性転換してるのでほぼ普通の男女恋愛ものです。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

ゴスロリ男子はシンデレラ

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。m(__)m まったり楽しんでください。

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

王妃の鑑

ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。 これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話

処理中です...