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第二十七章 ひとりぼっちの夏休み ?

いざ、花火大会へ

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 花火大会、当日。
 俺は夕刊配達を終えると、シャワーで汗を流す。
 いつも通りの格好。タケノブルーのキマネチTシャツと着慣れたジーパンに着替える。 

 朝方、アンナからL●NEで連絡があり、
『午後5時の博多行き列車、3両目で待ち合わせよ☆』
 と約束した。

 地元の真島駅に向かうと、異様な光景が。
 カップルばっかり……。
 その他にも、女子中学生や女子高生らしき若い女子達が、みな色とりどりの浴衣を着て駅に集まっていた。
「クソッ、リア充共は死ね!」
 って毒を吐いてみたが。
 あれ? 俺って今年はデートしてない?
 と気がつく。
 いやいや、相手は女装男子。
 まだリア充ではない。


 駅のホームも夕方なのに、たくさんの若者でごった返していた。
 大半が浴衣女子。
 あとはそれにくっつく彼氏達。

 あまりの人混みに酔いそうになる。
 
 こんなに花火大会って人気なんだなぁと、初めて痛感した。

 しばらくして、博多行きの列車が見えてきた。
 だが、なんだか様子がおかしい。
 遅い。ホームに到着するからとはいえ、減速ってレベルじゃない。
 のろのろと、まるで老人の歩行速度だ。

 その原因は列車内の乗客だ。
 あまりの人の多さに、本来の列車の速度を出せないでいるようだ。
 車体がちょっと斜めに傾いている。

 やっとのことで、ホームに到着する。
 プシューと自動ドアが開けば、そこには地獄絵図が。
 人と人が絡み合うように、一切の隙間が与えず、ぎゅうぎゅう詰め。
 こんな満員電車見たことない。
 そして、真島駅には誰も降りないから、質が悪い。

「うう……」
「きつい……」
「乗るなら早く乗ってぇ……」

 なんてリア充共がほざく。

 乗れるのか、これ?
 とりあえず脚を進めるのだが、片脚が車内に入っただけで、それ以上は奥へと進めない。
 困っていると、後ろにいた浴衣女子たちに寄って、無理やり押し込まれる。

「むおおお!」

 首は天井を向き、右手はなぜか真っ直ぐ伸びて固まる。左手は後ろの誰かの尻に当たっている気がする。きっと男だろう。
 このまま発車するのか?

 と思った瞬間。
「タッくん! そこにいるの?」

 どこからか、アンナの声が聞こえてきた。
「ああ! ここだ。今日は仕方ないから、博多駅について落ち合わせよう」
 今も顔が変形してしまうぐらい圧迫されて、息苦しい。
 いつものように、仲良く二人で電車には乗れそうにない。
 だが、アンナはブレなかった。

「そんなのイヤァ! 初めての花火大会なんだから、二人で行くのぉ!」

 車内に響き渡るように叫び声をあげる。
 その直後、ドドッと人々が波のように倒れてしまった。
 もう一つ隣りのドアから、強制的に人々がホームへと叩き出される。
 
「グヘッ!」
「ぎゃあ!」
「痛い!」

 そして、残ったのは、1人の浴衣少女。

 長い金髪をお団子頭にして、桜のかんざしをさしている。
 紺色の浴衣には、かんざしと同様のピンクの桜が刺繍されていた。
 足もとは茶色の下駄。花尾はこれまた可愛らしい桜だ。

「タッくん! みんなが空けてくれたよ☆ こっちにおいでよ☆」
 ファッ!?

 お前が馬鹿力で叩き出したんだろ!
 犯罪だよ!

 ホームに倒れ込む人々を見ると、何人かの女子が膝をすりむいて、出血していた。

「えぇ……」

 さすがの俺もドン引き。

 俺の周りにいた客たちもバイオレンス美少女に震えあがる。
 こちら側はまだぎゅうぎゅう詰めだというのに、
「どうぞどうぞ」
 と俺をアンナの元へと道を開ける。
 いや、恐怖から無理やり押し出された。

「ふふっ、やっと二人になれたね☆」
 アンナが優しく微笑むと、プシューとドアが閉まる。
 あれだけの満員電車だったというのに、俺たちの空間だけ、ガラガラ。
「アンナ……」
「ん、なに?」
 キラキラと輝くグリーンアイズが今日も可愛い。
 だが、他人からしたら、恐怖でしかない。
「今度から花火大会に行くときは、タクシーで行こう……」
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