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第二十五章 まだまだ終わらない高校
それぞれの恋愛
しおりを挟むマブダチの関係になれたリキだったが、同時にミハイルの恋敵になってしまった。
良かれと思って、彼の恋愛を応援したことが裏目に出てしまう。
クソがっ!
まあ、起きてしまったことは、悔いても仕方ない。
あとでミハイルに真実を伝え、謝罪しよう。
って、なんで、俺が悪いことになってんの?
そんな複雑な心境を知ってか知らずか、一緒に歩く浴衣姿のリキは、うちわ片手に嬉しそうだ。
「タクオ~ 混浴温泉楽しみだな♪ ほのかちゃんの水着、可愛いんだろうなぁ」
「水着なら、さっきも見ただろ……」
「だって、ほのかちゃん。プールじゃ泳がなかっただろ? 濡れた水着がいいんだよ。絶対、セクシーだぜ」
妄想しているのか、スキンヘッドが真っ赤になる。
想像力、豊かでいいですね。
俺とリキはホテルから出て、再度バスに乗り、松乃井ホテルの一番上にある建物、松乃井パレスに移動する。
この施設には、混浴温泉の『クーパーガーデン』と露天風呂の『タンス湯』がある。
別府の壮大な景色を眺めながら、疲れを癒すことが出来る、天国のような場所らしい。
入口を抜けると、すぐに見えたのは、広い売店。
主に別府で生産されている品物が、販売されている。
酒やらお菓子やら、伝統工芸品など。
そこを左に曲がってしばらく、奥へと進む。
次に目に入ったのは、ゲームセンター。
どうやら、温泉帰りに旅行客が遊んで帰るようで、まだ髪が濡れた子供たちが、キャーキャー騒ぎながら、遊んでいた。
行き止まりと思った瞬間、二階へと上がるエスカレーターを見つけた。
『この先、クーパーガーデンとタンス湯』
と大きな案内が、天井にぶら下がっていた。
エスカレーターを昇ってみると、右手に温泉への入口が見えた。
どうやら、まだ上にあがるらしい。
迷宮ってぐらい、先が長いなぁと、ため息を漏らす。
その時だった。
左側から怒鳴り声が聞こえてきた。
「なんだ、てめぇは!? さっきから、ガタガタうるせぇーんだよ! 私を田舎もん扱いしてんのか、コノヤロー!」
ウイスキーの角瓶を片手に、顔を真っ赤にして、相手を威嚇する水着姿の女性。
デカすぎる二つのメロンをおっぽりだして、股間がグイッと強調されたハイレグ。
こんな痴女はこの世に、一人しか存在しない。
宗像先生だ。
エレベーターから出て左側に、小さなパブがあった。
主に外国のお客さんが多い。
そういえば、ホテルマンが言っていたが、この近くで、ラグビーのワールドカップをやっていると聞いたな。
観戦のために、来日したのかもしれない。
「What's up? Are you a prostitute?」(どうしたの? 君は娼婦でしょ?)
相手は金髪の白人男性だ。
30代ぐらいのガッチリした体型。
「だから、日本語で喋れよ、バカヤロー! ここは日本の別府だぞ? なんで、あたしがお前ら進駐軍の言葉に合わせないといけないんだよ!」
進駐軍って……戦後何十年経ったって思ってんすか。
「I want to buy you tonight」(今晩、君を買いたい)
「バイ? トゥナイト? さっきから、なに言ってんだよ。私が好きなのか?」
「Yes~!」
「ほぉ、さすがは蘭ちゃんだな。まさか白人が一目惚れするとは……良いだろう。今晩、私の部屋に来な」
ごめん。多分、話噛み合ってない。
しばらく、その光景に絶句していると、リキが「なにやってんだよ。温泉はこっちだぜ?」と促された。
見なかったことにしよっと♪
エレベーターが終わったと思ったら、お次はエレベーター。
これに乗って、三階でようやく更衣室に入れるってわけだ。
小さなエレベーターだったので、10人ほどしか、移動できない。
その中で、偶然、北神 ほのかと、自称芸能人こと、長浜 あすかに出くわす。
「あ、千鳥くんと琢人くんじゃん」
小さく手を振るほのか。
「フン! 誰かと思えば、アタシのガチオタじゃない。今度からガチオタクトって呼んであげるわ。感謝しなさい!」
こんの野郎。俺の推しは『YUIKA』ちゃんだけだ!
「長浜にほのかも混浴温泉入るのか?」
「もちろんよ、アタシは芸能人なのよ? 水着姿を一般人に拝ませてあげないと、盛り上がらないでしょ?」
だから、なんでそんなに上から目線なんだよ、ローカルアイドルのくせして。
「そ、そうか……」
「今日だって、ずーっと一般人からの視線をビシバシ感じるわ! 芸能人の定めよね」
自意識過剰だと思う。
その証拠にほら、今も隣りにいるリキは、素人のほのかに釘付けだ。
「なあ、ほのかちゃん。温泉終わったらさ……ちょっと、付き合ってくんないかな?」
「え、千鳥くんと私が? いいよ」
ニコッと優しく微笑むほのか。
「マジ? 超うれしぃわ!」
本当に惚れていたんだな、リキ。
しかし、ほのかのやつ。確かに俺の前では、変態度マックスなのに、リキの前ではなんかおしとやかって感じ。
心をまだ許していないのかもな。
俺がそう二人を見守っていると、エレベーターが三階に着く。
「じゃあ、着替えたらクーパーガーデンであいましょ♪」
「おお、ほのかちゃん。一緒に花火見ようぜ!」
ふむ。案外、いい感じじゃないか? この二人。
よし! このまま、くっけてしまおう。
一人頷いてると、左足に激痛が走る。
下を見れば、グリグリと踏みつけられていた。
「ガチオタクト! アタシのファンでしょ? こっちを見なさいよ!」
「いっつ……なんだよ」
超かまってちゃんだな、自称芸能人。
「宗像先生に聞いたんだけど……ガチオタクトって、作家なんだって?」
急にしおらしく縮こまってしまう長浜。
恥ずかしそうに、頬を赤らめている。
「ああ。そうだが」
売れてないし、絶版してるけど。
「あのさ、アタシの自伝を書いてくれない?」
「はっ?」
思わず、アホな声が出てしまう。
「ほら。アタシって超がつく芸能人じゃない? 今度、本を出すって社長に言われているけど、文才はないから……ガチオタさえよければ、雇ってあげてもいいと思ったの」
ファッ!?
自伝なのに、ゴーストライターつけるんかい!
てめぇで書けよ。
お前のことなんて、一ミリも知らんわ。
てか、俺のあだ名ってガチオタになったの?
咳払いして、やんわり断りを入れようとする。
「あのな、そういうのは文章とか表現とか、関係なく、長浜が思ったように書けばいいと思うぞ。ファンもそっちの方が嬉しいんじゃないか?」
「嫌よ! アタシ、国語だけは昔から苦手なのよ! もう決めたの! 事務所の社長にもガチオタを推薦して、契約結んだもの。ギャラあげるから、ちゃんと書きなさいよね!」
「えぇ……」
「これ、アタシの連絡先! あとで連絡しなさい!」
そう言って、強引に名刺を渡された。
電話番号にメルアド。それにL●NEまで、ご丁寧に記されていた。
「ちょ、ちょっと、長浜……」
言いかけている途中で、長浜 あすかは顔を真っ赤にして、走り去っていく。
「なんだったんだ。はぁ……」
とりあえず、名刺を浴衣のポケットに入れて、俺は一人更衣室に向かうのであった。
※
更衣室で先ほど、乾かした水着に再度着替える。
脱ぐときに、紫のレースのパンティーがバレないか、ビクビクしていたが、幸いなことに、お客さんは、みんなもうクーパーガーデンに行ってしまったようだ。
着替えが済むと、改めて、混浴温泉へと向かう。
上がったかと思うと、次は下へと階段を降りる。
長い廊下を歩いていくと、突き当たった場所で、男と女が合流する。
大きなガラスの自動ドアの前で、家族やカップルたちが集まっていた。
更衣室が別の場所にあったから、再会を喜んでいるようだ。
ほのかやリキの姿は、見当たらない。
また一人ぼっちか……そう落ち込んでしまう自分に気がつく。
思えば、最近、ひとりでいる時がない。
隣りにアイツがいたから……。
やはり、俺は孤独だ。
そう痛感した瞬間だった。
ドンッ! と腰を蹴られる。
振り返ると、そこには、ブロンドの長髪を首元で纏めた小さな女子……じゃなかった。
グリーンの瞳を揺らせる男の子、ミハイルが立っていた。
もちろん、彼も水着姿。
小さな胸には二本のペットボトルが抱えられていた。
「おっそいゾ! タクト!」
思わず、口角が上がってしまう。
「ああ、悪い」
「これ……温泉だから、喉乾くと思って、タクトの好きなアイスコーヒー買っておいてやったゾ!」
そう言って、雑に押し付ける。
まだ怒っているようだ。
「すまん」
「もういいから、早く入ろうぜ……その、花火終わっちゃったら、寂しいじゃん」
唇を尖がらせて見せる。
「そうだな……温泉の中で乾杯といくか?」
俺がそう言うと、彼はニコッと笑みが浮かぶ。
「うん☆」
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