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第二十三章 第二次テスト大戦

愛の結晶

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 俺はかくして18歳を無事に迎えることができた。
 ていうか、ミハイルとアンナに祝ってもらえてウルトラハッピー! な年だったぜ。
 ちょっと今までの人生があまりにも孤独だったせいか、彼と彼女からもらったプレゼントを毎日眺めては、涙を流していた……。
 アンナの作ってくれたパジャマを着て、胸ポケットにミハイルがくれた万年筆を入れ、執筆活動に勤しむ。
 書ける書ける! スラスラと映像が文字に変換されていく。
 ラブパワーだな。
 
 
 ある日、博多社の担当編集、白金 日葵から電話がかかってきた。
 電話に出ると、いつもふざけているロリババアがかなり慌てている。

『あ、DOセンセイ! 大変です!』
「どうした? お前の合法ロリ風俗店就職が決まったのか?」
『んなわけいでしょ!』
 されたらいいのに。今よりだいぶ稼げるんじゃない。
「なんだよ。ちょうど筆がイイ感じで進んでいたのに……」
『ホントですか!? ならちょうどいいです!』
「なにがだよ?」
『今月号の‟ゲゲゲマガジン”で発表したセンセイの拙作‟気にヤン”が大反響で、発刊以来の重版決定となりました!』
 拙作て自分で言うもんじゃないの……。
「重版?」
 耳を疑う。
 白金がとうとう頭がイカれちまったんだろって思った。

『なので、長編書いてください! 単行本発売決定で、すぐに8万文字必要です! 期限は2週間! では、おなーしゃす! ブチッ……』
「ちょ、ちょっと……」
 一方的に切られてしまった。
 それにしても、俺の作品が久しぶりに単行本化するのか。
 書いたのがラブコメってのが、ちょっと癪だけど、まあ悪くない。
 よし、書こう。
 今の俺なら来週までに8万文字なんて、訳ないぜ。

 なぜなら、アンナのパジャマとミハイルの万年筆があるからなっ!
 タイピングしていく指の速さがグンと上がる。
 その時だった。
 自室の扉がバタンと、大きな音を立てて開く。

 妹のかなでだ。
「ただいまですわっ!」
「おう、おかえり……」
 俺は振り返りもせず、机の上でパソコンとにらめっこ。
 自身に追い込みをかけているからだ。
「おにーさまったら、顔も見てくれないなんて……てか、そのパジャマ……ダセッですわ」
「……」
 この時、俺は思った。かなで、いつかぶっ殺す。


 ~2週間後~

 連日連夜、原稿に終われていた。
 ちょくちょく白金とオンラインで打ち合わせ重ね、構成を見直したり、キャラをもっと深堀したりとまあ、作家らしい仕事をこなす。
 その間、新聞配達も朝と夕方にやるから、仮眠を取る暇があまりない。
 徹夜の日々であっという間に、原稿の期日になる。
 もちろん、この天才作家のことだ。ちゃんと間に合わせたさ。
 ネットで原稿を白金に送り、あとは全部出版社に丸投げ。
 

 ふとカレンダーに目をやる。
「あ、今日はスクリーングだったか……」
 原稿のことばかりで、すっかり忘れていた。
 一ツ橋高校の二回目の期末試験。
 寝不足だが、あんな幼稚なテスト余裕だな。
 あくびをかきながら、リュックサックを持って家を出た。


 小倉行きの電車に乗り、車内のロングシートに腰を下ろすと、すぐに夢の中に入る。
 しばらくすると、どこかの駅に止まった。
 振動で目を開く。すると、ミハイルが隣りに座っていた。
「ミハイル……」
 ゆっくり身体を起そうとするが、白い手が俺の瞼を覆う。
「タクト、疲れてんでしょ? オレが起すから寝てて☆」
 耳元でそう囁く。
 その声はとても優しく、俺の疲れも吹っ飛んじまうぐらい愛らしい。
「た、頼む…」
「いいよ☆」


   ※

 スマホの振動で目が覚める。
 気がつくと、俺は身体を横にしていた。
 枕にしてはやけに柔らかい。
 なんだろうと思い、顔を下にずらす。
 すると、ぷにぷにと何かが唇に当たる。
「キャッ!」
 ミハイルの声?
 ということは、これは……。
 太ももだ!

 クンクン、思わず香りを堪能してしまう。
 だって、こいつが悪いんだ。
 毎回ショーパンなんて履いてやがるから、細くて白い太ももが露わになっちまうだろ。誰でも匂ったり、その感触を確かめたりしたいのが、人間!
 自身の唇で太ももの柔らかさを確認しつつ、鼻で石鹸の甘い香りを楽しむ。

 徹夜した甲斐があったてもんだ。
 癒されるぅ~

「ちょっ……タクト! なにふざけてんの! もう赤井駅だよ!」

 自分で膝枕させておいて、頭を叩いてきた。
 まったく困ったツンデレのダチだな。

「すまん。ここ連日徹夜していててな……寝入ってしまったようだ」
 しれっと言い訳をしておく。
「そっか……タクトも試験勉強?」
 話しながら、車内から出てホームに降りる。

 赤井駅を出ても、話は続く。

「俺は、試験勉強じゃなくて執筆の方だ」
「え、新作を書いてんの?」
「以前にアンナを……モデルにしたラブコメの短編があってな。それが人気らしくて、いきなり単行本化だそうだ」
 クソがっ! なんで俺が書いた処女作『ヤクザの華』は売れないんだよ!
 俺の思惑とは裏腹に、ミハイルは瞳をキラキラと輝かせる。
「スゴイじゃん! おめでとう、タクト☆」
 ニカッと白い歯を見せて、微笑む。
「う、うむ……。今回の作品に関しては、ミハイルにその、感謝してる」
「オレに?」
「ああ。アンナという取材対象を紹介してくれてな」
 一応、礼はしておく。
 って、目の前にいるやつなんだけど。

「そ、そんな……まだ本も発売されてないのに。気が早いよ……」
 言いながら、顔を赤くしてモジモジしだす。
「でも、オレからアンナにちゃんと伝えておくよ」
 伝えるもなにも、今面と向かって俺があなたに言ったじゃない。
 なにこの、面倒くさいやりとり?


 一ツ橋高校に着くまで、ミハイルは終始、頬を赤くしていた。
 どうやら自分のように喜んでくれているらしい。
 ま、そりゃそうだよな。
 小説ていうか、ただの日記みたいなもんだ。
 言わば、合作だ。
 俺とミハイル、アンナの……。


 








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