上 下
183 / 490
第二十二章 第一次テスト大戦

バカヤロー! サプライズってのはこうするんだよっ!

しおりを挟む
 音楽の試験……というか、ただのカラオケ大会は無事に終了した。
 もちろん、宗像先生の言った曲の採点が「5点以上」はみんな余裕でクリア。
 全員がホッとしたのであった。

   ※

 帰りのホームルームがはじまる。

「えぇ~ 諸君! これにて本日の試験は終了だ! だが、再来週に二回目の試験が残っているからな。気を抜くなよ。んで、次回の体育の実技なんだが、前に三ツ橋から寄付してもらった体操服を持ってくるように!」
 いや、あれパクッたやつじゃねーか。

 それを聞いてなぜか隣りで喜ぶミハイル。
「そうだった☆ タクトの好きな服だもんな、ちゃんと着てくるよ☆」
 ええ……ブルマで学校に来るの?
 ちょっと、さすがにしんどい。
「それはやめておいた方が……」
「え、なんでぇ?」
 上目遣いして、緑の瞳を輝かせる。
「ま、まあ、ミハイルがいいなら良いんじゃないか?」
「うんうん☆」
 マジでいいの?
 もう人格が破綻してない……あなた。


 こうして、第一回目の期末試験は終わりを迎えるのであった。
 俺はテストの成績に自信があるのだが、ミハイルが心配だ。
 音楽の試験に関してはクリアしているけど、ペーパーテストの方がな。
 かなり苦戦していたように見える。

 試験を終えて、安心しきったのか、ミハイルは帰り道、歩きながらウトウトしていた。
 よっぽど疲れているんだな。
 帰りの電車内でも、俺の肩の上に寄っかかると、スゥスゥと寝息を立てていた。
 ふーむ、一体なんのバイトしてんだろうな。
 気にはなるが、本人が内緒にしてほしいみたいだし。
 ま、暖かく見守るとしよう。


 ~次の日~

 俺は毎々新聞へと来ていた。
 無給なんだけど、店長のこだわりで、仕事に使うバイクを洗車しないといけないからだ。
 店長曰く「日頃乗せてもらっているんだから、バイクちゃんにもご褒美をあげないと」らしい。
 別にペットじゃねーし、馬でもないのに……。
 だが、長年やっていることなので、文句一つ言わず、黙ってバイクちゃんをブラシで磨いていく。

「ほぉ~れ、ピカピカになったぞぉ~ また今週も頼むな」

 なんて愛着も湧いていたりする。自ずと名前もつけたりして。
 その名も『サイレント・ブラック』
 カッコイイ名前だ。バイクの色はブルーなんだけど……。
 ブラックの方が様になるだろ?

 その時だった。
 ズボンのポケットに入っていたスマホが鳴りだす。
 お決まりの可愛らしい歌声、アイドル声優のYUIKAちゃん。
 着信名は……ミハイルか。

「もしもし」
『あ、タクト! 今、仕事中?』
「ああ、もう少ししたら配達に出るけど……」
『仕事終わってからでいいから……今日会えない?』
「構わんが…」
『よかった☆ じゃあ、オレも仕事に戻るからまたあとでな!』 
 と言って、一方的に切られてしまった。
 電話の向こうで何やらガヤガヤとうるさかったな。
 仕事中だと言っていたので、職場か?
 まあ、とりあえず、俺も今から配達に行くか。

 彼に会えることが嬉しくて、俺は猛スピードでバイクを飛ばした。(もちろん法定速度で)

   ※

 夕陽が落ちだしたところ、俺はミハイルに言われて、彼の地元である席内に来た。
 メールでは、以前一緒に行ったことのあるスーパー、ダンリブで待ち合わせだという。
 なぜ、彼の自宅ではないのだろうか? と疑念を抱いたが、まあ行ってみるとするか。


 ダンリブに入って、しばらく店の中をウロチョロする。
「あいつはまだ来てないのか……」
 そう呟いた瞬間だった。
 背後から聞きなれた甲高い声が聞こえてくる。

「いらっしゃいませ! またのごりよーお待ちしておりますっ!」

 なんだ、このバカそうな店員は。
 振り返ると、そこには今まで見たこともないぐらいの美人店員が立っていた。

 タンクトップにショートパンツ。
 そのうえに『ダンリブ』とプリントされた青いエプロン。
 小さな頭を三角巾で覆っている。
 金色の髪は後ろで一つにまとめていた。
 時折、垣間見えるうなじに色気を感じた。

「み、ミハイル?」

 そう。あのヤンキーが甲斐甲斐しく働いていやがる。
 腰の曲がったおばあさんの客に丁寧に対応。

「あ、ばーちゃん。オレが荷物持つよ☆」
「すまんねぇ……あらぁ、ミーシャちゃんじゃない。ダンリブに就職したの?」
「ううん☆ 短期のバイトだよ☆」
 就職したら、この店潰れそう。
 だって客にタメ口じゃん。クレームの嵐で店長壊れそう。

 ミハイルはおばあさんのカートに乗っていたカゴを、軽々と持ち上げ、レジまで誘導する。
 レジ打ちさえしないが、カウンターの中で、他の女性店員と一緒に商品をスキャンしたり、ビニール袋に詰め込む。
 そして、客が去る際はしっかりとお辞儀をする。
 お客様が見えなくなるまでだ……。
 どこの老舗デパートだよ。

 ヤンキーのくせして、けっこう真面目なんだな……。
 俺がその姿に呆然としていると、彼がこちらに気がつく。

「あっ! タクト☆ 来てくれたんだ!」

 そう言って、レジカウンターから出てくる。
 太陽のような眩しい笑顔で手を振るというオプション付き。
 くっ……なんだか、仕事あがりの嫁を迎えに行っているような錯覚を覚えるぜ。
 しかもエプロン姿だもんな。
 制服フェチとしては、たまらねぇぜ……。

「ハァハァ……やっと会えたね☆」
 そう言って額の汗を拭う。
 顔をよく見れば、昨日より目の下のクマが酷くなっている。
「ああ。ミハイルのバイト先ってダンリブだったんだな」
「う、うん……短期だから今日までなんだ☆」
「へぇ」
「それで、その……」
 急に顔を赤らめてモジモジし出す。
 なんじゃ、聖水か?
 お花畑なら店にもあるだろうが。

「どうした?」
「これっ!」
 そう言ってエプロンのポケットから小さな箱を渡される。
 綺麗に包装されていて、リボンがついていた。
「ん、なんだこれ……」
「いいから受け取って、タクト!」
「はぁ……」
 とりあえず、言われるがまま、箱を受け取る。
 リボンの紐に何やらカードが挟まっていた。
 メッセージが添えられていて、
『タクト、18歳のお誕生日おめでとう☆』
 とある。

 あ……今日って俺の誕生日だったのか。
 万年ぼっちだったから、忘れてた。

「これ……もしかしてプレゼントか?」
「う、うん……」
 頬を赤くして、恥ずかしそうにしている。
「開けていいか?」
「いいよ…」
 リボンを外し、包装紙を丁寧に開けていく。
 箱を開けると中には、キラキラと輝く万年筆が入っていた。
 見るからに高そうだ。

「こんな高級なものを俺に?」
「うん……色々考えたけど、タクトは小説家だから。それがいるだろうって思ってさ」
 アナログゥ~!
 俺ってそんな文豪じゃねーよ。
 しかも今時ペンで書くやつなんているか?
 だが、こんな高級なもんをもらって、返すわけにも文句を言うわけにもいかんしな。
 実はパソコンでタイピングしているなんて、口が裂けてもいえないよ。

「ありがとな……ミハイル」
「ううん。タクトに初めてあげる誕生日プレゼントだから☆」
 やっと緊張がほどけて、優しい笑顔に戻る。
 ニカッと白い歯を見せて。
 クソがッ! 抱きしめてやりたいぜ!
 生まれてここまで想われたのは、お前だけだ。男だけど!

「そっか……大事に使わせてもらうよ」
 なんだか悪いことをした気分になる。
 ていうか、バイトを短期でする意味って……まさかっ!

「ミハイル。もしかして、このプレゼントのために、バイトをしたのか!?」
 思わず彼の細い肩をギュッと掴む。
 瞬間「キャッ」と可愛く声をあげる。
「う、うん……だって、ちゃんと自分で働いて、自分のお金でタクトに……プレゼントしたかったんだもん」
 そう言うと、今度はダンリブの床ちゃんがお友達に追加されてしまった。
 
 ヤバい。泣けてきた……。
 ミハイルママが俺のことを思って、夜なべしながら、試験勉強して、朝も早くからスーパーでバイトかよ!
 自分がちっぽけに感じる。

「タクト、その万年筆でたっくさん小説書いてくれよな☆」

 なんだろう……急にこのプレゼントが重たく感じてきた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝込みを襲われて、快楽堕ち♡

すももゆず
BL
R18短編です。 とある夜に目を覚ましたら、寝込みを襲われていた。 2022.10.2 追記 完結の予定でしたが、続きができたので公開しました。たくさん読んでいただいてありがとうございます。 更新頻度は遅めですが、もう少し続けられそうなので連載中のままにさせていただきます。 ※pixiv、ムーンライトノベルズ(1話のみ)でも公開中。

魔王(♂)に転生したので魔王(♀)に性転換したら何故か部下に押し倒された

クリーム
恋愛
女学生がファンタジー世界の魔王(♂)に転生(憑依)してしまったので、魔法で性転換したら、部下(♀)まで男体化してついでに唇まで奪われてしまったという話。 ツンデレ一途悪魔(女→男)×天然無表情魔王(女→男→女) 初っぱなで性転換してるのでほぼ普通の男女恋愛ものです。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

ゴスロリ男子はシンデレラ

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。m(__)m まったり楽しんでください。

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

王妃の鑑

ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。 これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話

処理中です...