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第二十二章 第一次テスト大戦

バイトの面接官は遊び半分

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 あっという間に6月に入り、初めての期末試験となった。
 先週、ミハイルにレポートを貸したが、俺はなにも困ることはない。
 なぜならば、小中学のおさらいだから頭にちゃんとインプットされているからだ。
 勉強する必要性がない。
 むしろ、あの低レベルな勉学をするぐらいなら、小説を書いていた方がマシだ。

 だが、ミハイルは心配だ。
 あいつも頑張っているようだが、前回のレポートの結果はCぐらいだったもんな。
 このままだと、一緒に卒業って彼の夢も砕け散るかもしれない。
 しかし、こればかりはミハイル自身の努力にゆだねるしかあるまい。
 
 俺は、そう胸に不安を抱えつつ、小倉行きの電車に乗った。
 いつもなら、ミハイルの住んでいる席内駅でショーパン姿の彼が飛び込んでくるはずのなのだが……。
 虚しく、ドアの音がプシューと言って閉まってしまう。

「ん、遅刻か?」

 珍しい。
 ミハイルと言えば、おバカさんだが、俺と学校に行くのは嫌ってないし、むしろ遊ぶ時なんかは遅刻なんて絶対しない。
 下手したら待ち合わせより2時間も前に到着するような、ストーキングのスキルを持っているやつだ。
 おかしいな。
 体調でも崩したか?

 
 赤井駅に到着して、ミハイルに電話したが、それでも一向に連絡が取れない。
「どうしたんだ?」
 首をかしげながら、とりあえず、俺だけでも一ツ橋高校に向かうことにした。

 その間もずっとスマホとにらめっこ。
 着信があるのでは? とずっと待っていた。それでも全然かかってこない。

 高校の名物、長い坂道『心臓破りの地獄ロード』を登っていると、隣りの車道をバイクが走ってくる。
 千鳥 力と花鶴 ここあの二人だ。

「よう! タクオ! ミハイルは一緒じゃないのか?」

 バイクを坂道で止めて、俺に声をかける。
 
「ああ、それが連絡がつかなくてな……」
 なんとなく、隣りにミハイルがいないことに寂しさを感じた。
 いつもならずっと金魚のフンのようにくっついてくるのに……。
 一人だと、こいつらバカみたいなやつでも話しかけてくれるだけで、ホッとする。

「そっかぁ。ミハイルも年頃だからな。自家発電じゃね?」
 そう言って、朝も早くから大きな声で下ネタを吐き、笑いだす。
 なんでもかんでも、男を自家発電のせいにするのやめてください。
 仮にもミハイルですよ?
 あの純朴な。
 お宅と一緒にしないであげてください。

「それはないだろ……」
 呆れた声で否定する。
 俺がそう言うと、後部座席に座っていた花鶴がパンツ丸見えでこう言う。
「オタッキーの方が抜きすぎてバテてんっしょ!」
「ああ、そうかい……」
 もうどうでも良くなっていた。
「え~ マジで抜きすぎて元気ないじゃ~ん。あとで学校のトイレでもう一発しとけば?」
 なんで元気ないのに、また体力使うんだよ。
「はいはい……」
 俺はそう言うと、彼らを無視して、坂道を登りだす。
 付き合ってられない。

「じゃあまたあとでな~ タクオ!」
「抜きすぎ注意っしょ!」
 うるせぇ……。
 男性差別だろ。

   ※

 教室についても、俺はソワソワしていた。
 ホームルームに近づくというのに、ミハイルの姿が見えない。
 まさかと思うが、テスト勉強を徹夜でしていて、寝落ちってパターンか?
 う~ん、わからん。

 結局、ミハイルがこないまま、ホームルームが始まった。
 俺の左隣には、テストなんてそっちのけの腐女子。北神 ほのかが机で卑猥なBLマンガのネームを描いている。
「ひゃっひゃっ……描くぞ描くぞぉ。商業デビューしたら、印税で同人誌を買いまくるんじゃあ!」
 涎を垂らしながら、原稿と向き合う変態女子高生。
 ていうか、あなたデビュー前から買い漁ってるでしょ……。

 教室にツカツカとハイヒールの音が近づいて来る。
 淫乱教師、宗像先生の登場だ。
 相変わらずのいやらしい格好で、今日は何でか知らんが超絶ミニのチャイナドレス。
 胸元に大きな穴が開いていて、胸の谷間はもちろん、ブラジャーまではみ出ている。
 エグすぎる……。

「よ~し! 楽しい楽しいホームルームのはじまりだぁ! 出席を取るぞ!」

 マジか。もう始まっちゃったか……。
 ミハイルのやつ、間に合わなかったな。
 彼が遅刻したことを、自分のことのように悔やむ。

 その時だった。
 ピシャン! と勢いよく教室の扉が開かれる。
 俺はその姿を見て、思わず席から立ち上がってしまった。

 そうだ、俺がずっと待っていたその人だったからだ。
「ミハイル……」
 口からそう漏らす。
「すんません! 遅れました!」
 息を荒くして、汗だくで現れた。
 純白のタンクトップはしっとりと濡れていて、スラッと伸びた細い太ももは陽の光でキラキラと輝いている。
 天使様の降臨じゃ!

「おう! 古賀が遅刻とは珍しいなぁ」
「はぁはぁ……間に合ってよかった☆」
 手で汗をぬぐいながら、教室に入る。

「タクト! おはよう☆」
 ニカッと白い歯を見せ、笑って見せる。
 心配させやがって……。
「ああ……おはよう」
 安心した俺はミハイルと一緒に席に座りなおす。

 宗像先生が点呼を取り始める。
 その間、俺は右隣りに座ったミハイルに小声で話しかける。
 今も彼は汗だくで息が荒い。
 ピンクのレースハンカチで、頬に垂れる雫を拭う。

「なぁ、ミハイル。お前が遅刻なんて……どうしたんだ?」
「ごめん。オレ今バイトやってからさ☆」
「えぇ!?」
 思わず大きな声で反応してしまった。

 それに気がついた宗像先生が、俺めがけてチョークをぶん投げる。

「くらぁっ! 私語は慎め、新宮! ブチ殺すぞ!」
 いや、額からなんか暖かい液体が流れてくるのを感じるんすけど。
 もう死んでません?

「す、すいません……」
 冷静さを取り戻し、またミハイルに質問する。

「バイトってなんでだよ。お前はヴィッキーちゃんが働いているから、金には困ってないだろ?」
「いや、それはその……欲しいものがあって……な、な、ナイショだよ! 」
 急に顔を真っ赤にして、俺から目を背ける。
 なんだ、怪しいぞ。
 ダチの俺に話せないような、やましいことでも始める気か?

「そ、それより、タクト。テスト頑張ろうな! オレ、タクトから借りたレポートでしっかり勉強してきたゾ!」
 俺はそれを聞いて顎が外れるぐらい、大きく口を開いてみせた。
「なっ! ミハイルが試験勉強だと……」
「へへん、驚いたか☆」
 ない胸をはるな!
「バイトもやって、勉強もやってたから……遅刻したってことか?」
 俺がそう言って見せると、ミハイルは照れくさそうに笑う。
「ま、まあな☆ 慣れないことしたから、ちょっと疲れちゃって……」

 よく見れば、彼の目元には大きなクマができていた。
 その顔を見てすぐに理解した。
 頑張ってるな、こいつ……無理しやがって。

 お母さん、泣けてきちゃったわ。
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