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閑話 なぜ新宮 琢人は作家になったのか
小説よりもイラストの方が強い
しおりを挟む呆れ顔で白金は用意していたと思われる茶封筒を取り出した。
中から数枚のイラストが机に並べられた。
「うちの看板イラストレーターさんたちです。どの方とタッグ組みたいですか?」
「タッグ? 俺はプロレスなんて知らんぞ? せいぜいが『ヒキ肉マン』の王位争奪戦ぐらいしか知らん」
「いや、範囲狭すぎでしょ」
「仕方ないだろ、この文豪でもある天才の俺はスポーツなぞ一切せん! 万年、帰宅部だぞ」
帰宅部と言う名のエース。
「意味が違いますよ……さっきも言った通り、うちはライトノベルです。ですから、表紙はこういうイラストレーターさんにご協力していただくのです」
並べられたイラストと呼ばれるものは全て女の子が全面に出ており、肝心の主人公はほぼヒロインの背後にいる。
女の子の肌の露出が多く、巨乳が多く、パンチラが多く、萌え要素が多く、オタクが書いたオタク読者のための小説となるのだろう。
「おい、なんなんだ。これは?」
「え? 気に入りませんか?」
「気に入るもなにも、肝心の主人公がほとんどモブと化しているではないか」
「まあ仕方ないですよ。ターゲットとしている読者さんは先生のような中二病を患った患者さんですし……」
おいサラッと読者をディスったぞ、こいつ。
「それに先生だって本屋さんで可愛い女の子のイラスト並んでたら、目に留まりやすいでしょ?」
悔しいぐらい正論だ。
この前なんか本屋で表紙に釣られて、売り場を歩いていたら少女マンガコーナーにたどり着いてしまった。
あの時の、女子たちの「てめぇ、男が来ていいとこじゃねーんだよ!」オーラは半端なかったな……。
「う、まあ確かに『かわいいは正義』に異論はない。だがな、俺の作品は基本、男に媚びた作品は書いてない。全員、男が主役だ。モブも込めてな」
ホモじゃないよ?
「確かにそうでしたね……どうしましょ?」
「じゃ、この話はなかったことで!」
そう言って俺が席から立ちあがると、白金が俺の手にしがみつく。
「ちょ、ちょっと待って! 良いイラストレーターさん捕まえますから!」
「この天才を唸らせるような画家などいるか!」
俺たちが大声で押し問答していると、エレベーターが開く音がした。
「あ、白金さん。今回のは自信ありますよ!」
その一声で俺は動きを止めた。
なぜならば、目の前に現れたのが人間ではないからだ。
そう言葉を発する生き物は眼鏡をかけた巨大な豚だ。
いやいや、落ち着くのだ琢人よ……人生で一日に二回も未知の生命体と出会うものか。
「トマトさん! 良いところに来ました!」
「トマト?」
そう呼ばれた豚は、汗をだらだらと流し、萌え絵のハンカチで額を拭いている。
汗で濡れたシャツは大雨に打たれたようにびしゃびしゃ、肌が透けて乳首まで丸見えだ。
これって、なんの拷問?
俺の前を通り過ぎる豚が、白金にたずねる。
「白金さん、この少年は?」
「あ、この方はつい先ほどデビューが決まった作家さんです」
勝手に決めるな!
「これはこれは……小説家の方でしたか。私、イラストレーターやってます、トマトです」
トマトだと? お前には到底、似合わないペンネームだ。トマトに謝れ。
せいぜい、お前が似ているのはそのフォルムだけだ。
そんなにトマトが好きなら毎日リコピンだけ摂取しまくって痩せろ!
だが、見るからにここにいるクソガキの白金とは違い、年上に見える。
ここはそれ相応の対応をせねば……。
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