166 / 490
閑話 なぜ新宮 琢人は作家になったのか
小説よりもイラストの方が強い
しおりを挟む呆れ顔で白金は用意していたと思われる茶封筒を取り出した。
中から数枚のイラストが机に並べられた。
「うちの看板イラストレーターさんたちです。どの方とタッグ組みたいですか?」
「タッグ? 俺はプロレスなんて知らんぞ? せいぜいが『ヒキ肉マン』の王位争奪戦ぐらいしか知らん」
「いや、範囲狭すぎでしょ」
「仕方ないだろ、この文豪でもある天才の俺はスポーツなぞ一切せん! 万年、帰宅部だぞ」
帰宅部と言う名のエース。
「意味が違いますよ……さっきも言った通り、うちはライトノベルです。ですから、表紙はこういうイラストレーターさんにご協力していただくのです」
並べられたイラストと呼ばれるものは全て女の子が全面に出ており、肝心の主人公はほぼヒロインの背後にいる。
女の子の肌の露出が多く、巨乳が多く、パンチラが多く、萌え要素が多く、オタクが書いたオタク読者のための小説となるのだろう。
「おい、なんなんだ。これは?」
「え? 気に入りませんか?」
「気に入るもなにも、肝心の主人公がほとんどモブと化しているではないか」
「まあ仕方ないですよ。ターゲットとしている読者さんは先生のような中二病を患った患者さんですし……」
おいサラッと読者をディスったぞ、こいつ。
「それに先生だって本屋さんで可愛い女の子のイラスト並んでたら、目に留まりやすいでしょ?」
悔しいぐらい正論だ。
この前なんか本屋で表紙に釣られて、売り場を歩いていたら少女マンガコーナーにたどり着いてしまった。
あの時の、女子たちの「てめぇ、男が来ていいとこじゃねーんだよ!」オーラは半端なかったな……。
「う、まあ確かに『かわいいは正義』に異論はない。だがな、俺の作品は基本、男に媚びた作品は書いてない。全員、男が主役だ。モブも込めてな」
ホモじゃないよ?
「確かにそうでしたね……どうしましょ?」
「じゃ、この話はなかったことで!」
そう言って俺が席から立ちあがると、白金が俺の手にしがみつく。
「ちょ、ちょっと待って! 良いイラストレーターさん捕まえますから!」
「この天才を唸らせるような画家などいるか!」
俺たちが大声で押し問答していると、エレベーターが開く音がした。
「あ、白金さん。今回のは自信ありますよ!」
その一声で俺は動きを止めた。
なぜならば、目の前に現れたのが人間ではないからだ。
そう言葉を発する生き物は眼鏡をかけた巨大な豚だ。
いやいや、落ち着くのだ琢人よ……人生で一日に二回も未知の生命体と出会うものか。
「トマトさん! 良いところに来ました!」
「トマト?」
そう呼ばれた豚は、汗をだらだらと流し、萌え絵のハンカチで額を拭いている。
汗で濡れたシャツは大雨に打たれたようにびしゃびしゃ、肌が透けて乳首まで丸見えだ。
これって、なんの拷問?
俺の前を通り過ぎる豚が、白金にたずねる。
「白金さん、この少年は?」
「あ、この方はつい先ほどデビューが決まった作家さんです」
勝手に決めるな!
「これはこれは……小説家の方でしたか。私、イラストレーターやってます、トマトです」
トマトだと? お前には到底、似合わないペンネームだ。トマトに謝れ。
せいぜい、お前が似ているのはそのフォルムだけだ。
そんなにトマトが好きなら毎日リコピンだけ摂取しまくって痩せろ!
だが、見るからにここにいるクソガキの白金とは違い、年上に見える。
ここはそれ相応の対応をせねば……。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
寝込みを襲われて、快楽堕ち♡
すももゆず
BL
R18短編です。
とある夜に目を覚ましたら、寝込みを襲われていた。
2022.10.2 追記
完結の予定でしたが、続きができたので公開しました。たくさん読んでいただいてありがとうございます。
更新頻度は遅めですが、もう少し続けられそうなので連載中のままにさせていただきます。
※pixiv、ムーンライトノベルズ(1話のみ)でも公開中。
魔王(♂)に転生したので魔王(♀)に性転換したら何故か部下に押し倒された
クリーム
恋愛
女学生がファンタジー世界の魔王(♂)に転生(憑依)してしまったので、魔法で性転換したら、部下(♀)まで男体化してついでに唇まで奪われてしまったという話。
ツンデレ一途悪魔(女→男)×天然無表情魔王(女→男→女)
初っぱなで性転換してるのでほぼ普通の男女恋愛ものです。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します
珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。
そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。
それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。
さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。
寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!
ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。
故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。
聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。
日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。
長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。
下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。
用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが…
「私は貴女以外に妻を持つ気はない」
愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。
その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
王妃の鑑
ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。
これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる