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第二十一章 ニャンニャンパラダイス
眠り姫、ミハイル
しおりを挟む運動会も無事に? 終えた俺は、眠るミハイル姫を抱えて、赤井駅に逃げ込んだ。
あとは知らん。
急いで学校から飛び出たので、三ツ橋の体操服を着たままだ。
もちろん、ミハイルもブルマをちゃっかりと着こなしている。女子以上にお似合い。
終電ギリッギリで、列車に乗り込む。
ミハイルはかなり疲れていたようで、ずっと俺の肩の上で眠っていた。
席内駅について、彼を揺さぶり、起こす。
「ほ、ほぇ? タッくん……」
瞼をこすりながら、女の子のような甘ったるい声で話す。
おいおい、アンナちゃんとごっちゃになってるぜ。
「ミハイル。お前の駅に着いたぞ。さっさと降りろ」
「うーん……やだ~ タッくんとまだ一緒にいるのぉ……」
「ったく」
仕方ないと思い、彼を自宅に連れていこうと考えた。
だが、この前の時みたいに無断外泊するのは良くない、絶対にだ。
なぜならば、母親代わりのヴィクトリアにぶっ殺されるからな。
とりま、連絡しておこう。
「しかし、電話番号をどうしたものか……」
ミハイルのスマホから電話でもかけてみるかな?
いや、他人の所有物を勝手に触るのは、好きじゃない。
どうしたものか……。ん、待てよ。
そう言えば、以前かかってきた見知らぬ市外局番は、ヴィクトリアの店からだったな。
よし、そこにかけたらいいよな。
思い出した俺はすぐに電話をかける。
『トゥルルル……ブチッ。はい、パティシエ KOGAでございますぅ~♪』
なんだ、この猫なで声は? 番号間違えたかな?
「あのぉ~ 古賀さん家で間違いないっすか?」
『はい、そうですよ~ いつもお世話になっておりますぅ♪』
若い女の声だ。しかし、あのアル中ヴィクトリアとは全然態度も声も違いすぎる。
「俺、ミハイルくんと同じ高校の新宮ていうんすけど……」
『あぁ!? んだよ、坊主か! チッ』
急に態度が激変したんだけど?
弟のミハイルと同様で、多重人格なのかな……。
『用はなんだ? さっさと言え! こちとら、晩酌中なんだよ!』
てめぇはシラフの時がねーのかよ。
「あ、あのですね。今、電車なんすけど、ミハイルが起きなくて……今日、俺ん家に泊めてもいいっすか?」
『ああ……いいぞ』
すんなり了承してもらえたな。
『ただし! 条件がある!』
「は、はい。なんでしょう?」
『ミーシャをちゃんと風呂に入れて、歯を磨かせること!』
「……」
幼児じゃねーんだよ。
とりあえず、ヴィクトリアに連絡を入れたので、俺は真島駅でミハイルを下ろすことにした。
もちろん、この間もずっと眠っていて、俺はお姫様だっこでホームを歩く。
※
「ただいま~」
母さんの美容院はもう深夜で閉店していたので、裏口から入った。
家の中は静まり返っていた。
二階までミハイルを抱きかかえて昇る。
自室に入ると、薄暗い部屋の中、妹のかなでがノートパソコンとにらめっこしていた。
ヘッドホンをして、ニヤニヤ笑いながら「ウヒヒヒ」と気色の悪い声をあげる。
どうやら、新作の男の娘同人ゲームを楽しんでいるようだ。
モニターには、おてんてんを縛り上げられたショタっ子が、頬を赤くして悶えていた。
それを見て、かなでは満足そうに、マウスをクリックしまくる。
「ハァハァ……抜けますわぁ~」
息を荒くし、視線は画面のまま、手だけを床に下ろして何かを探している。
しばらく手をバタバタさせ、近くにあったティッシュ箱を掴むと、ちゃぶ台の上に乗っける。
「そろそろですわね……うっ!」
まさか……ウソでしょ?
と思った瞬間だった。
「チーン!」と鼻をかんだのであった。
「はぁ、花粉症は応えますわねぇ~」
なんて紛らわしい妹なんだ。
俺がその光景にドン引きしていると、やっとのことで、こちらに気がつく。
「あらぁ、お帰りなさいませ。おにーさま♪」
「お、おう。ただいま……」
「ん? ミーシャちゃんをお連れになったのですか?」
未だ夢の中のミハイルを指差す。
「ああ、疲れて寝てしまってな……今夜は泊まらせることにしたよ」
「そうですの……。ところで、ミーシャちゃんはなんでブルマ姿なんですの?」
「これか、まあちょっと学校でな…」
もう説明すんのがめんどくさい。
俺がなにを言ったわけでもないのに、かなでは合点がいったようで、手のひらを叩く。
「なるほど! 校内でしっぽりがっつり、ヤッちゃったんですのね♪ 貫通おめでとうございます♪」
中学生の女子が言うセリフじゃない。
「お前は何を勘違いしてるんだよ……」
「え? ついにお二人は結ばれたとばかり……」
どこをどう結ぶんだよ。
妹とはいえ、話していて疲れる。
「悪いけど、今日は下のベッド、ミハイルを寝かせてもいいか?」
俺のベッドは二段ベッドの上だからな。移動させるのに苦労する。
「いいですわよ♪ じゃあ、おにーさまはかなでと上のベッドで、童貞を捨てましょ♪ 一晩かけて」
「はいはい。かなでは一人で寝てくれな。俺は男同士、ミハイルと一緒に寝るから……」
そう吐き捨てると、抱きかかえていたミハイルを、ようやくベッドの上に寝かせる。
気がつけば、深夜の1時近い。
俺もあと数時間すれば、朝刊配達の時間だ。
少しでも寝ておかないと、持たない。
体操服をきたまま、ミハイルと一緒に眠りについた。
※
何か、身体が重い。
「あいたた……」
変な寝かたをしていたのか、肩が痛い。
ふと、隣りを見ると、そこには長いブロンドの美少女が……。
ではなく、古賀 ミハイル。
すぅすぅと寝息を立てて、まだ夢の中だ。
肩の痛みの原因がわかる。ミハイルだ。
彼が俺の右肩に抱き着き、顎をのせている。
しかも、逃げられないように、細い脚で俺の太ももをロックしていた。
時折、ミハイルの膝が股間へグリグリしてくる。
目覚めたら、体操服にブルマ姿の可愛い子が、襲ってくるんだもの。
健康的な男子なら、ナニかが反応しちゃうよね♪
「ミハイル、おい……ミハイル」
間違えが起こる前に彼を起こす。
「ん……タクト? あれ、なんでオレん家にいるの?」
「違う。ここは俺の家だ」
「あ、ホントだ。タクトのベッドだ……」
状況をまだ把握できてないようで、ボーッと俺の目を見つめる。
キッスしちゃいそうなぐらいの至近距離で。
「おはよ☆ タクト☆」
瞳を揺らせて、優しく微笑む。
頼むからやめてくれ。
抱きしめて、チューしたくなっちゃうだろ。
「ああ、おはよう。ところで、俺は今から朝刊配達に出るから……その身体から離れてくれないか?」
俺がそう言うと、やっとのことで、自身がベッタリと身体をくっつけていたことに気がつく。
「う、うん……ごめんな。オレ寝相が悪いから…」
頬を赤く染めて、恥ずかしそうに掛布団を被る。
なんか事後っぽい態度とるのやめてね。
俺は何もしてないよ?
とりあえず、ベッドから出ると、体操服を脱ぎ捨て、仕事用のジャージに着替える。
その間も背後からずっと視線を感じる。
何度か振り返ると、俺の着替えるところを恥ずかしそうに、見つめている。
目元まで布団で顔を隠していた。
「じゃ、いってくるわ」
「あ、うん……いってらっしゃい☆」
うーむ、なんか同棲しているカップルみたいだな……。
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