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第二十章 夜の大運動会

第三種目

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 第二種目の騎馬戦は俺抜きで、勝利してしまった……。
 スコアボードを見ると、我が一ツ橋がリードしていることが確認できた。
 白組の三ツ橋が13点、対して紅組の一ツ橋は15点。

 どうやらヤンキーたちが、かなり頑張ってくれているようだ。
 それもそのはず、なんたってMVPには一年分の単位贈呈だからな。
 反則すれすれの行為もいとわない。
 時には殴ったり蹴ったりして、勝利を手にする。
 極悪非道な生徒たちだもの、相手選手がかわいそうに思える。

 その甲斐もあってか、真面目な三ツ橋の生徒たちは騎馬戦でかなり脱落していた。
 

「おお、この調子なら勝てるかもな……」
「うん☆ 正義は勝つもんな☆」
 屈託のない笑顔で拳を握るミハイル。
 いや、悪は絶対こっち側だと思う。
 三ツ橋の学生が、いたたまれない。


 宗像先生がマイクを握る。
「えー、次はまたペア種目だ」

 またかよ。
 バトルロワイヤル形式はどうなったんだ?
 基本、個人プレイだろ。

「第三の種目は題して、『地獄の頭かち割っちゃうよ、逆立ちロワイヤル』だ!』
 まーたアホな名前つけやがって。
 いちいち死を連想させるような名称にすんな。

 残った生徒たちは、互いの高校合わせて半々ぐらい。
 この試合に勝てば、団体戦では一ツ橋が自ずと勝利するだろう。
 今回もヤンキーたちが、暴力行為を働くのは間違いない。
 まさか、これらを見越しての賭け試合なのでは?


 そんな考えにふけっていると、誰かが袖を引っ張る。
「タクト! また二人で組もうぜ☆」
 振り返ると、何やら嬉しそうな天然の金髪ヤンキー少年が。
 てか、運動会始まってから、ずっとこいつと一緒にペア組んでるよな。
 ま、いいけど。
「ああ、そうだな…」
 断ると殴られそうだから。脅迫に近いよね。
「頑張ろうぜ!」
「お、おお……」
 超やる気ゼロ。

 
 各自ペアを組んで、グラウンドに集合した。

 俺とミハイル。花鶴と千鳥。それから先ほどの騎馬戦で暴力行為が目立ったヤンキーたちが数組。
「ほぼヤンキー組が勝ち残ったか……そりゃそうだよな」
 よく見ると、一ツ橋の真面目な生徒は俺だけじゃないか。
 ため息をついて、その光景に呆れる。
 すると、誰かが声をかけてきた。

「琢人くん! 良かった。私たち勝ってるね♪」
 振り返ると、そこにはパツパツの体操服を着た巨乳眼鏡が。
 北神 ほのか。
 こんな奴が勝ち残っているとは、同じ真面目組として屈辱だ。
「ほのか、お前もか」
「あったり前じゃん! 『なんでも一つだけ叶えちゃう権』でこの高校をBL本まみれにするまで私は……死ねない!」
 いや、お前は一度、頭かち割って死んで来い。
 そんな18禁を、高等学校に入れるわけにはいかん。

「そ、そうか……ところで、ほのか。お前ペア組む相手いないじゃないか?」
 ほのかは一人で立っている。
 連れの姿が見えない。
「それなら、大丈夫! すごい人と組んだから♪」
 胸を張って偉ぶる。
「誰だ?」
 俺がそう言った瞬間だった。

「アタシよ!」

 キンキン声が耳の中に鳴り響く。
 うるせぇ。
 誰かと思って、辺りを見渡す。
 
 砂埃が舞う中、一人の少女がこちらへとゆっくり向かってくる。
 前髪パッツンで揃えた、日本人形のような長い黒髪を揺らせて歩く。
 美人の部類なのだろうが、それよりも表情がきつい。
 誰だっけ?

「このアタシ、芸能人の長浜 あすかが来たからには安心しなさい!」
 あ、そうだ。
 自称、芸能人の痛い子だ。

「ああ……」
 俺はすごくどうでもいいと言う顔で、反応した。
「ちょっと! ああってなによ! あなた、この前アタシの握手会に来たでしょうが!」
「いや、あれはたまたまだろ?」
「キーッ! アタシのガチオタのくせして!」
 違います、事実を湾曲しないで下さい。


「つまり、ほのかは長浜と組むのか?」
「ええ。トップアイドルのあすかちゃんがいるなら百人力よ!」
 一人の力にも満たないと思われます。
「そうよ! こう見えてアタシは中学校で体育の成績いいんだから」
「へぇ~」
 どこまで本当の話なんだか。
「ちょっとぉ! 疑う気なの!? なんならググりなさいよ!」
 だから、なんでもググって個人情報出たら怖いだろ。
 あなたはほぼ素人レベルの認知度なんだから。


       ※

 相手側の選手は……。
 水泳部から姫と王子ペアの赤坂と福間、それに生徒会長の石頭くんとおかっぱの女子、吹奏楽部の女子生徒が二人。
 かなり人数、減らされたな。
 もうこっちの勝ちでいいんじゃないか?


「では、皆の者! 準備はいいかぁ!?」
 よくねーよ、なんで毎回、説明を受けるんだよ。
 事前に情報をちゃんとくれや。
 勝てるもんも勝てないぜ。

「本種目は持久戦だ。一人が逆立ちをして、相方が両足を持ち支えろ! 力尽きたら脱落だ! 残った二組が決勝へといける!」
 なるほど、やっとアホみたいな運動会ともおさらばか。
 さっさと勝って終わっちまおう。

 だが、残念ながら俺は体力に自信がない。
 自然とミハイルが、逆立ちすることになった。
 俺は彼の細い脚を持てばいいだけなのだから、こりゃ楽だ。

「よーい……はじめいっ!」

 宗像先生の掛け声と共に、一斉に皆、逆立ちを始めた。
 支え手はほぼ、男子。
 やはり体重が軽い方が、逆立ちを選ぶようだ。

「うん……しょっ!」
 ミハイルが俺に向かって両脚を放り投げる。
 それを上手くキャッチした。
 彼の白く透き通った美しい素肌を拝めた。

 しばらくすると、ミハイルの身体がふらつく。
「んん……けっこう、キツッ……ああっん!」
 変な声を出すんじゃない!
 なんだか別の意味でドキドキしてきた。

 ふと隣りの奴らを見る。
 花鶴と千鳥コンビだ。
 だが、彼らにはどこか違和感を感じる。
 それもそのはず。
 逆立ちしているのが、男の千鳥。
 その太くてゴツい足を、女の花鶴が細い手で軽々と支える。

「ふお~ 頭に血がのぼっちまうぜぇ~」
 ホントだ。つるっぱげが、ゆでダコになってる。
「ハハハッ! 頑張るっしょ、ハゲ野郎」
 花鶴は時折、片手だけで支え、反対の手で脇をかいている。
 なんて酷い扱いだ。

 そのまた隣りを見れば、異様な光景が……。
 アイドルの長浜 あすかが支え手になり、北神 ほのかが逆立ちしている。
 そこまでは普通なのだが。
 ミハイルや千鳥が苦戦しているなか、ほのかは平然としている。
 むしろ、どこか楽しそうだ。

「うへへっ……あすかちゃんのブルマがタダ見できるなんてぇ……」
 彼女は顔を赤くすることはない。が、鼻から大量の血を吹き出している。
「うーん、まだなの~ アタシは芸能人なんだから、こんな力仕事向いてないのよ!」
 支えている長浜の方が辛そうだ。
 目を閉じて、必死にもがいている。
「ハァハァ……」
 相方のほのかと言えば、逆立ちしながら、長浜 あすかのブルマを下からのぞいていた。
 変態だ。


 ~それから10分後~

 次第に、みんな力尽きていく。
 隣りの千鳥は花鶴が飽きて、両手を離してしまい棄権。
 変態行為に走った北神 ほのかが大量出血で、退場。
 他のヤンキー達も持久戦には弱いようで、お得意の暴力で相手をねじ伏せるわけにもいかないから、早いうちに脱落してしまった。

 今回の試合の方が、全日制コースの三ツ橋に分があるようだ。
 瞬発力に長けたヤンキーたちよりも、日頃から部活で鍛えている真面目な子たちの方が体力がある。
 気がつけば、一ツ橋のペアは俺とミハイルのみだ。

 相手側は水泳部コンビと、生徒会の二組。

「ただいま、15分経過~」
 宗像先生は非情にも生徒たちの顔が真っ赤になっても、一向に辞める気配がない。
 ずっと時間を測っているのみ。


「負けないわ! 絶対にMVPとって、新宮センパイと新聞デートするんだからぁ!」
 と叫ぶのは赤坂 ひなた。
 だから、バイトしたいなら面接にいけよ。
 それを屈強な身体で支えるのが、福間 相馬。
「頑張れよ、赤坂ぁ……ふぅふぅ…」
 何やら息遣いが荒い。
 よく見ると、上からひなたのお股を直視している。
 どこもかしこも、変態ばかりだな。


 そのお隣りは三ツ橋の代表でもある石頭 留太郎くん。
 彼は目をつぶって微動だにしない。
 おかっぱの女子に両脚を持ち上げられ、空中で浮かんでいる。
 そう、彼は両手を地面につけず、合掌しているのだ。
「南無阿弥陀仏……」
 即身仏にでもなる気ですか?

 
 ミハイルのことが気になって、声をかける。
「大丈夫か、ミハイル? もう負けてもいいぞ」
「絶対にイヤだ~! オレもMVP欲しいもん!」
 お前まであんなアホな願いを信じているのか。やめとけ。

 その時だった。ミハイルの声が裏返る。
「ヒャッ!」
 何やら異変が起きたらしい。
「どうした? キツいのか?」
「ち、ちがう……何かが、ああんっ!」
 妙に色っぽい声で喘ぐ。
 それを聞いて、俺は心臓がバクバクする。

「一体どうしたんだ?」
 ふと下を見てみる。
 目に入ったのは、紺色のブルマ。
 そして、生まれて初めて見た女の子のお股……じゃなかった、男の股間。
 俺が両足を広げているため、見放題だ。
 なんてことだ。
 絶景、絶景。
 スマホがあれば、この至近距離で写真を撮って永久保存しておきたいぐらいだ。

 だが、そんなことも言ってられない。
 なぜならば、ミハイルの美しい太ももに、ちょこちょこと動き回る黒い物体が見えたからだ。
 クモだ。
「ひ、ひゃん! くすぐったいよ! 倒れちゃう~!」
 ミハイルは予想しなかった来客に、己の身体をくねくねと動かして悶絶する。
「タクトォ……虫、取ってぇ!」
 ええ!?

「い、いいのか? 俺が触っても?」
 なんだか背徳感が。
「早くしてよぉ! あぁん、倒れちゃう~」
 まったくいやらしい声で喘ぎやがって!
 
 俺は言われた通り、右手でミハイルの太ももに手を伸ばす。
 クモは意外と素早く、ササッと下へ下へと降りていく。
 ヤバッと思ったころにはもう遅かった。
 ちょこちょこと動き回った後、たどり着いたのはお山のてっぺん。
 つまり、ミハイルのもっこりはんだ。

「うう……」
 同性とはいえ、さすがに『ここ』に触れるのは躊躇する。
「タクト、早く! 負けちゃう~よぉ」
「ええい! 我慢しろよ!」
 勢いよく、平手で少し膨らんだブルマを叩く。

「あぁん!」
「……」
 
 クモは地面に落ちると、スタコラサッサーと逃げていった。

「ハァハァ……ありがと。タクト……」

 こちらこそ、なんかありがとうございました。
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