上 下
132 / 490
第十八章 危険なペア

怪しい人についていかない

しおりを挟む
 俺はアンナの異常なまでのボリキュアへの愛情表現にドン引きしていた。
 驚いていたせいで、自分が買おうとしていた写真立てをレジに出し忘れていた。
 危うく万引きしそうになって、店員に声をかけられて気がつく。
 
 アンナに続いて、俺もボリキュアストアのスタンプカードを作ってもらったが、押されたスタンプはたった一個。
 作る必要なくね? と思いながら、俺は店員から小さなボリキュアがプリントされたレジ袋を受け取る。

「よかったね、タッくん☆ お揃いの袋だね☆」
 嬉しそうにめっさ重たそうなビニール袋を6つも両手に持つアンナ。
 軽々と持っていて草。
「お揃い?」
「うん☆ 同じボリキュアの袋だもん。今日は何でもお揃いでペアルックで恋人ぽいよね☆」
「あ、そだね」
 いや、そんなペアルックの恋人見たことない。


 ボリキュアストアで無事に買い物を終え、福岡マルコのビルから出た。
 再び、外の渡辺通りに戻り、目的もなくただ歩き出す。

「少し腹が減ったな。アンナ、そろそろメシにするか?」
「そうだね☆」
「ふむ、どこで食うかな……」

 俺は天神の様々なビルをながめる。
 巨大な建物がたくさん並んでいて、どこにどんな店があるかがわからない。
 スマホでアンナの好きそうな店でも検索しようかな? と思っている時だった。
 誰かが俺の肩をポンポンと叩く。

 振り返るとそこには、このおしゃれな若者の街、天神に似合わない格好をした女が立っていた。

「ねぇねぇ、そこのカップルさん。お昼ご飯探している感じかしら?」

 そこにはスラッとした細身の紅い眼鏡をかけたお姉さんがいた。
 サテン生地のブラウスにキュッとしたタイトスカート、それもかなり丈が短い。
 
 俺は一瞬にしてその女性を危険視した。
 こいつ、絶対ピンク系の勧誘だろ。
 天神の店じゃない、絶対に中洲なかすだ。

「なんすか?」
 ちょっと威嚇気味に答える。
 だって俺ってば、中洲みたいな成人向けの街にいったことないし。
 正直怖いよぉ。

 俺がそんな対応したもんだから、その女性はちょっとうろたえていた。
「あ、いや、そのキミたち天神にあんまり詳しくなさそうだったから……」
 やはり中洲か!?
「それがなにか?」
 既に臨戦態勢をとった俺氏。
「ちょ、ちょっと。そんな怪しいお店の人間じゃないのよ?」
 苦笑いがさらに怪しさを加速させる。

 そこへアンナが俺に話しかける。
「タッくん、お姉さんが困ってるよ? お話だけでも聞いてあげて。かわいそうでしょ」
 可愛い顔して俺の左腕を引っ張るもんだからドキドキしてしまった。
 なんか今の俺ってば超彼氏感でてない?

「さすがカノジョさん! 話がわかるぅ~」
 便乗する眼鏡女子。
「カノジョだなんて……そんな風に見えます?」
 ボンッと音を立てて顔を真っ赤にするアンナ。
「見える見える! だってペアルックじゃん、お二人さん♪」
 そう言ってお互いのTシャツを交互に指差してみる。

「恥ずかしいけど、うれしいかも~☆」
 俺はクッソ恥ずかしいかも~

「ところで、そんなお似合いのお二人にウチのお店で、素敵なお昼なんてどうかしら?」
 眼鏡をクイッとなおして、ビラを差し出す。
 アンナは絶賛妄想中で、頭を左右にブンブン振り回している。ので代わりに俺がビラを受け取った。

「ん? メイドカフェ?」
「そう! 今月オープンしたばかりのメイドカフェ『膝上15センチ』よ♪」
 なにその店名……やっぱり中洲だろ。
「えぇ……それってカップルで行くところっすかね?」
 俺が怪訝そうにじろじろと見つめると、呼び込みの女性は首を横に振る。
「そんなわけないでしょ? ここは天神で若者の街なんだから♪」
「は、はぁ……」
 返答に困っていると、冷静さを取り戻したアンナがビラに食い入る。

「なにこれ? カワイイ☆」
 ビラに描かれたメイドさんに惹かれたようだ。
 アンナは基本かわいいものが大好きだからな。
「気になるのか?」
「うん! 行ってみたい☆」
 目をキラキラと輝かせて俺を見つめる。
 そんな顔されたら、彼氏役の俺は黙っているわけもいくまい。
 ま、俺もメイドカフェなんて行ったことないし、取材になるかな。
 ここは一つ経験してみることにしよう。

「すんません、この店まで連れて行ってもらっていいすか?」
 俺がそう言うと呼び込みの女性は拳を作って喜びをかみしめた。
「しゃっあ! 新規ゲッツ!」
 詐欺ぽいなコイツ。

「じゃあ、ペアルックのカップルさんご案内~♪」
 人気の多い渡辺通りで大声で叫ぶ眼鏡女。
 クソが、目立つからやめろ。


   ※

 眼鏡女が先頭に立ち、渡辺通りを歩く。
 先ほどいた福岡マルコより、港よりの北天神へと向かう。
 この辺なら俺でも少しわかるな。
 前にほのかと中古ショップ『オタだらけ』に買い物にいったし。


「さ、ここよ!」
 眼鏡女が立ち止まった場所はオタだらけのすぐ隣りにあった。
「案内されるまでもなかったな……」
 だってオタだらけとか、俺のホームじゃん。
「え、知ってたの? 彼氏さん」
 目をキョトンとさせる呼び込み。
「いや、店は知らないっすけど、場所的には……」
「ならさっそくお店に入って『食いログ』とかに高評価をお願いね♪」
 そう言うと呼び込みのお姉さんはスタコラサッサーと去っていった。
 ていうか、高評価するかは俺が決めることなんだわ。
 誰がお前の指示に従ってやるもんか。

「すごーい、これがメイドカフェなんだね☆」
 何やらテンションが高いアンナさん。
「みたいだな」
「タッくんはメイドさんと会うの、初めてかな?」
 どこが不安そうに俺を下から見つめる。
「ん? 初めてだが」
 俺がそう答えるとアンナはホッとしたようで、嬉しそうに微笑んだ。
「よかったぁ」
「なにがだ?」
「タッくんの初めてはアンナと一緒がいいもん☆」
「あ、そうなの……」

 その思い出って別に誰でも良くないっすか?
 だって仮にもデートですよ。
 ボリキュアストアといい、なんか天神ぽくないし、カップルぽいことなにもしてないよ。
 これ取材になってんのかなぁ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝込みを襲われて、快楽堕ち♡

すももゆず
BL
R18短編です。 とある夜に目を覚ましたら、寝込みを襲われていた。 2022.10.2 追記 完結の予定でしたが、続きができたので公開しました。たくさん読んでいただいてありがとうございます。 更新頻度は遅めですが、もう少し続けられそうなので連載中のままにさせていただきます。 ※pixiv、ムーンライトノベルズ(1話のみ)でも公開中。

魔王(♂)に転生したので魔王(♀)に性転換したら何故か部下に押し倒された

クリーム
恋愛
女学生がファンタジー世界の魔王(♂)に転生(憑依)してしまったので、魔法で性転換したら、部下(♀)まで男体化してついでに唇まで奪われてしまったという話。 ツンデレ一途悪魔(女→男)×天然無表情魔王(女→男→女) 初っぱなで性転換してるのでほぼ普通の男女恋愛ものです。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

ゴスロリ男子はシンデレラ

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。m(__)m まったり楽しんでください。

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

王妃の鑑

ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。 これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話

処理中です...