上 下
130 / 490
第十八章 危険なペア

転売ヤーキラー

しおりを挟む
 仲良くというか、恥をしのんでボリキュアたちと仲良くツーショットを撮る。

「これでいい取材になれそうだね☆」
 スマホの写真を見て嬉しそうに笑うアンナ(15歳・♂)
「そ、そうか?」
 どこにラブコメの要素があるのだろうか?
 俺にはさっぱりわからん。
 というか、リア充のやつらがこの店に来るとは思えんが……。

 撮影タイムも無事に終えたので、さっそくボリキュアストアに入ることにする。

 店内は狭い敷地ではあったが、たくさんボリキュアグッズがあった。
 アクリルキーホルダーやぬいぐるみ、下敷き、クリアファイル、マグカップ、皿などなど……。
 今期のボリキュア『ロケッとボリキュア』が主なメインカラーとして陳列されていた。
 だが、それ以外にも歴代のボリキュアたちが季節限定のデザインでお菓子やバッジなどになって発売されている。

 しかも今年はボリキュア生誕15周年ということもあり、初代ボリキュアである『ふたりはボリキュア』が一際注目されていた。
 ウェディングドレスのようなピンクと白のドレスを纏ったボリブラックとボリホワイトがデザインされた商品が特設コーナーに並べられている。

「うわぁ! 全部欲しい!」

 俊敏な動きでアンナはボリホワイトに飛びつく。
 キラキラと目を輝かせて下敷きを手にする。
 腰をかがめていることもあって、横から彼女を見るとパンツが見えそうだ。

 というかホワイト派だったんだね。
 俺はブラック派。

「見て見てタッくん! 15周年の限定グッズだって! この店でしか買えないんだって!」
 息が荒い。
 興奮してますか?
 あなた女装しているからまだいいけど、普通の男子として来ていたらヤバい人ですよ?

「あぁ、そうなの?」
 俺はどうでもよさげな声で答えた。
「そうだよ! これは絶対に小説の取材に必要でしょ!」
 いや、ないな。
 著作権侵害で訴えられるから。
「ふーむ、俺も嫌いな方ではないが、買うほどのファンでは……」
 そう言いかけると、アンナが俺の両肩を強い力で掴む。
「ダメ! 一つぐらい買いなさい!」
 怒るアンナの姿って、あんまり見たことないんだけども。
 その怒りの沸点がボリキュアって……。

「わ、わかったよ。じゃあ俺もなにか一つぐらい買うよ」
 どうか経費で落とせますように。
 アンナと仲良く15周年の特設コーナーを物色する。

 今気がついたが、彼女は既に店の奥から大きなカゴを持ってきていた。
 スーパーの安売りでつかみ取りしている主婦みたいに商品を選ぶ間もなく、ガシガシとグッズを掴んでカゴにぶち込む。
 狂気の沙汰で草。

「アンナ、そんなに入れて大丈夫か? けっこう一つの値段が高いけど」
 キーホルダー、一つにしても千円ぐらいする。
「だって15周年だよ? 次は5年後じゃない? 今買わないともう絶対になくなるよ!」
「そ、そうなの……」
 圧倒される俺氏。
「こういうのって転売ヤーっていうの? そう言う悪い人たちが買い占めては、ネットオークションとかで高値で売るんだから!」
 めっさ怒ってる。
 確かに転売行為はあまり良くないが、表現が反社会的勢力のように聞こえる。

「な、なるほど……だから定価で買う方が安く済むということか」
「そう☆ 転売ヤーはこ・ろ・すが合言葉だよ☆」
 こわっ!


 俺もなにか一つ記念にと、商品をながめる。
 一つ実用的なものを見つけた。
 それは写真立てだ。
 といっても、ボリブラックとボリホワイトが上下にプリントされている痛いものだが。
 これならばアンナとの写真を自室の部屋に飾れるかな? と思えた。

「よし、俺はこれにするよ」
「あ、それいいね☆ アンナも買おうっと☆」
 ねぇねぇ、あなた破産しません?
「タッくんとの写真を飾るんだ☆」
 同じこと考えていて、思わず顔が熱くなる。

「どうしたの? タッくん、顔が赤いよ?」
「い、いや、なんでもない……」
 俺があたふたして答えると、アンナはどこか意地悪そうな顔をして笑った。
「ふふっ、おかしなタッくんなんだ☆」
 首をかしげて俺の顔を覗き込む。
 悪魔的な可愛さだ。

 俺は咄嗟に話題を変える。
「な、なあ。ところでアンナはもう買い終えたのか?」
 山盛りになったカゴを指差す。
「うーん、もうちょっと店の中を見てみたいなぁ」
 まだ買うのかよ……。
「じゃあ、もうちょっと見てみるか」
「うん☆」


 俺とアンナは店の奥へと向かう。
 そこで何やら異変を感じた。
 レジ周辺にたくさんの大きなお友達が、ざわざわと行列を作っていたからだ。

「なんだろう、あの人たち」
「限定ものじゃないか?」
 俺がそう答えると、レジの奥からスタッフのお姉さんが大きな段ボールを持ってきた。

 それを見た紳士たちが高らかに声を上げる。

「うぉお! キターーー!」
「しゃっあ! 間に合ったでごじゃる!」
「ムホムホ、ウキキ!」
 え? 最後人間?

「一体なんの騒ぎだ?」
「あっ!?」
 アンナが大声で叫ぶ。
「どうした、アンナ?」
「あれ……見て」
 彼女が指差す方向には店のお姉さんが……いや、正しくはカウンターに載せられた商品だ。
 
 ボリキュアの公式抱き枕カバーである。

「あ……」
 察した。
 そうか、前回『ミハイル』時にコミケで、非公式の成人向け抱き枕を買えなくてショック受けてたもんな。

「タッくん、行こう! 絶対にゲットしようね!」
 その時ばかりはアンナではなく、完全にヤンキーのミハイルの目だった。
 誰かを殺しかねない、炎で紅く包まれた獅子の眼だ。
 これは必ずゲットせねば、俺まで殺されそう。
「りょ、了解……任務を遂行する」
 命をかけてでも手に入れろ、抱き枕を!

 その時だった。
 ボリキュアストアのお姉さんがこう叫んだ。

「ただいまより、抱き枕の販売をはじめまーす! 先着順ですので、今から並んでください!」
 そう説明すると、オタクたちが一斉にレジへと直行する。

 俺も狭い店内を、人並み掻き分けて前へと進む。
 気がつくと、隣りにアンナはいなかった。
「アンナ? どこだ?」
 列から顔をひょっこりと出し前後を探す。

「タッくん~! ここだよ~!」
「なっ!?」
 どうやってあんなところに……。
 なんと彼女は一番前にいた。
 
 あの数秒でどうやって移動したんだ?

「一番乗り~☆」

 さすが伝説のヤンキー。いや今日から、伝説の大きなお友達と改名しておきます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝込みを襲われて、快楽堕ち♡

すももゆず
BL
R18短編です。 とある夜に目を覚ましたら、寝込みを襲われていた。 2022.10.2 追記 完結の予定でしたが、続きができたので公開しました。たくさん読んでいただいてありがとうございます。 更新頻度は遅めですが、もう少し続けられそうなので連載中のままにさせていただきます。 ※pixiv、ムーンライトノベルズ(1話のみ)でも公開中。

魔王(♂)に転生したので魔王(♀)に性転換したら何故か部下に押し倒された

クリーム
恋愛
女学生がファンタジー世界の魔王(♂)に転生(憑依)してしまったので、魔法で性転換したら、部下(♀)まで男体化してついでに唇まで奪われてしまったという話。 ツンデレ一途悪魔(女→男)×天然無表情魔王(女→男→女) 初っぱなで性転換してるのでほぼ普通の男女恋愛ものです。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

ゴスロリ男子はシンデレラ

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。m(__)m まったり楽しんでください。

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

王妃の鑑

ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。 これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話

処理中です...