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第十六章 タイフーンパレード
デートは命がけ
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「それじゃ行ってくる……」
そう言うと俺はリュックサックを背負い、スニーカーを履く。
珍しく一階の玄関には妹のかなでと母さんが見送りに来ていた。
「タクくん…本当に行く気? 電車も動いてないかもよ」
滅多なことじゃ動じない母さんがここまで心配するとは…今回の台風が凄まじいことを表している。
「おにーさま! 死なないで!」
かなでに至っては泣きながら俺の腕を掴む。
「死なないよ、たかが台風だろ? 新聞配達している方がヤバイんだぞ?」
ソースは俺。
バイクが倒れるほどの強風だぞ。しかも生身なんだから。
ガチで死ぬ危険性考えたら、配達しているほうが危ない。
「でも、せめて死ぬ前に、かなでで童貞を捨ててくださいな!」
そう言って、無駄にデカい乳を押し当ててくるJC。
鳥肌立ってきた。
「人を死ぬ前提で見送るんじゃない!」
俺は少し乱暴にかなでを振り切ると立ち上がった。
「あ……おにーさま」
「じゃ、行ってくる」
雨傘を持って玄関をあけた瞬間だった。
暴風で扉が吹っ飛び、右側の外壁にガンッと当たった。
「うわ……」
風と共に激しい雨粒がビシビシと頬にあたる。
「タクくん、真島駅まで歩けないんじゃない?」
「これぐらい……いつものことだ」
なんか俺も死ぬ覚悟をしつつある。
こんなところでまだ死にたくない。
直木賞と芥川賞取ってから死にたい。
「おにーさま、生きてかえっておくんなまし……」
まるで戦場に出向く武将に声をかける妹君だな。
「お、おう」
自信ない声で呟くと開きっぱなしの扉を無理やり閉めて、自宅をあとにした。
家から最寄りの真島駅までは普段なら5分とかからない近距離なのだが、今日は違った。
傘をさして歩きだすがものの数秒でぶっ壊れ、既にびしょびしょ。
迫りくる強い風が、前へと進む俺の足を邪魔する。
「死んでたまるかぁ!」
なぜか俺はブチギレていた。
新聞配達でもこういうことはよくある。
バイクのエンジンが起動しなくなったり、倒れて新聞紙がぐちゃぐちゃになって、「あーもうどうにでもしやがれ!」と自暴自棄になるのだ。
だって天候だから仕方ないよなって。
真島駅にやっとのことで着いた。
徒歩で20分。
あれ、おかしいな。
俺ん家、少し遠くなった?
エスカレーターに乗り、二階で乗車拳を買う。
改札口にはたくさんの人だかりができており、駅員のアナウンスがひっきりなしに流れている。
ダイヤが大幅に遅れており、現在の時間は『10:12』なのだが、二時間前の列車が未だに到着していないそうだ。
「マジかよ…」
思わず絶句する俺氏。
周りに立っていた人たちを眺めると大半がスーツを着たサラリーマンばかりだった。
「もう職場に電話して休むわ」
「これ行っても帰れないだろ」
「台風の中で……ハァハァ。濡れたキミが、‟ソニック”がス・テ・キ」
いや最後の歪んだ撮り鉄だろ。ちな『ソニック』てのは九州の特急列車ね。
一応、赤坂 ひなたに電話してみた。
彼女も真島駅から近い梶木駅にいるだろうから乗るとしたら同じ列車だろうから。
だって2時間前の電車が動いてないんだぜ?
「もしもし、ひなたか?」
『ブフォーーー! も、もし……もし。バハァーーー!』
ダメだ、風の音で全然聞こえん。
電話を切ってメールで連絡をとる。
『今どこだ? 梶木駅か?』
とメッセージを書いて送信するもなかなか完了できない。
よっぽど電波が悪いのか?
数分後、送信完了するとこれまた十分後ぐらいに返事が来る。
ダイヤル回線ですか?
ひなたからはこう返事が返ってきた。
『今、梶木です。真島も動いてないですよね?』
やはりそうか。
俺が同じ状況だということを伝え、「中止にするか?」とメールで提案したが、ひなたは断固として「博多にいきます!」と宣言した。
いや、明日でよくね? と思ってしまう俺だった。
~30分後~
奇跡的に電車が真島駅に到着するというアナウンスが流れた。
その時はもう既に改札口で待っているのは俺だけだった。
切符を自動改札機に通して、博多方面のホームへと降りる。
すると凄まじい雨風がまたしても襲ってくる。
傘はぶっ壊れたので邪魔なだけだ。
ホームにあったゴミ箱に捨ててやった。
ようやく来た列車はものすご~くゆっくりとホームへ入ってきた。
おじいちゃんかよ。
どうにかして車内に入るとガラッガラで席は座り放題。
わぁい!
ぼく、ひとりだけだぁ♪
なんてガキみたいな思考へと頭がバグり出す。
真島から列車がこれまたゆっくりと出発する。
ホームを出てもその速度は全然上がらない。
徒歩か? ってレベルだよ。
真島から梶木までは二駅で5分ぐらいの時間なのだが、こんなよちよち運転なのだ。
30分はかかった。
梶木駅に着くと俺と同様にびしょびしょに濡れた現役JKこと赤坂 ひなたが同じ車両に入ってくる。
一人だけね。
「あっ新宮センパイ!」
荒れ狂った天候とは違い、彼女の表情は日本晴れのようだ。
満面の笑みで手を振る。
迷彩柄のミニスカにタンクトップとキャミソールを重ね着している。
小麦色に焼けた素肌が露わになっている。
びちょびちょに濡れているオプション付き。
「おう、来れたか……」
なぜか彼女の姿を見るなりため息が漏れた。
だって博多駅に行ってなにすんの?
どんたくもやれんだろうし、果たして無事に帰れるのか。
「あ、なんで私のこと見てため息つくんです?」
頬を膨らますひなた。
「悪い悪い、この天気じゃな」
そういいながらとりあえず空いている隣りの席をポンポンと叩き、誘導する。
ひなたは「私みたいなピチピチJKとデートなんですよ!」と文句を垂れながらちゃっかり隣りに座る。
どうでもいいことなんだが、互いにパンツまで濡れているだろうから、自然と座っているモケットもびしょびしょだ。
JRがかわいそう。
そしてまたよちよち運転が始まる。
列車が動きだしたことを確認して、ひなたに問う。
「なあ今日ところでどんたくやるのか?」
「やるみたいですよ」
ファッ!?
死人が出やしないか。
博多どんたくというのは福岡を代表するお祭りの一つだ。
個人的にはどんたくには何の思い入れは何もない。
歴史なんぞはよくわからんが、素人が歩行者天国でパレードしてるって認識だからな。
まあ若いJKがミニスカなどで行進する姿は嫌いじゃない。
「マジかよ……」
「そりゃやるでしょうよ。一年に一回のお祭りですよ? みんなこの日のために練習したんですから!」
文字通り、命がけじゃん。
祭りで死ぬなよ。
ハッピーエンドであれ。
「解せないな…」
1時間もかかったのち、やっとのことで博多駅に着く。
圧倒的人気を誇るJR博多シティだが、今日ばかりは人っ子一人いない。
災害レベルで草。
「誰もいませんね……」
「だろうな」
改札口を出たところで、液晶モニターにこう書かれていた。
『本日の博多どんたくは中止となりました』
「ええ!? せっかく来たのに!」
顎が外れるぐらい大きな口を開けて驚くひなた。
いや、当たり前だろ。
「どうする、帰るか?」
というか帰りの電車、動いてないよね。
するとひなたは何を思ったのか、俺の左腕を強く掴むと「行きますよ!」と顔を真っ赤にして叫んだ。
細い女の子の腕とは思えないぐらいの強い力だ。
俺は引きずられるように引っ張られる。
ミハイルまではないが俺よりは力があるな。
さすが水泳部の姫。
「どこに行くんだよ……」
「そんなの博多駅なんだからどこでも遊べるでしょ!」
ひなたはそうは言うが、JR博多シティのお土産店や飲食店も軒並み臨時休業のお知らせが……。
それを見るなり、ひなたは「まだまだ他にも店があるんだから!」と俺を引きずり回す。
なにこのアホみたいな取材?
そう言うと俺はリュックサックを背負い、スニーカーを履く。
珍しく一階の玄関には妹のかなでと母さんが見送りに来ていた。
「タクくん…本当に行く気? 電車も動いてないかもよ」
滅多なことじゃ動じない母さんがここまで心配するとは…今回の台風が凄まじいことを表している。
「おにーさま! 死なないで!」
かなでに至っては泣きながら俺の腕を掴む。
「死なないよ、たかが台風だろ? 新聞配達している方がヤバイんだぞ?」
ソースは俺。
バイクが倒れるほどの強風だぞ。しかも生身なんだから。
ガチで死ぬ危険性考えたら、配達しているほうが危ない。
「でも、せめて死ぬ前に、かなでで童貞を捨ててくださいな!」
そう言って、無駄にデカい乳を押し当ててくるJC。
鳥肌立ってきた。
「人を死ぬ前提で見送るんじゃない!」
俺は少し乱暴にかなでを振り切ると立ち上がった。
「あ……おにーさま」
「じゃ、行ってくる」
雨傘を持って玄関をあけた瞬間だった。
暴風で扉が吹っ飛び、右側の外壁にガンッと当たった。
「うわ……」
風と共に激しい雨粒がビシビシと頬にあたる。
「タクくん、真島駅まで歩けないんじゃない?」
「これぐらい……いつものことだ」
なんか俺も死ぬ覚悟をしつつある。
こんなところでまだ死にたくない。
直木賞と芥川賞取ってから死にたい。
「おにーさま、生きてかえっておくんなまし……」
まるで戦場に出向く武将に声をかける妹君だな。
「お、おう」
自信ない声で呟くと開きっぱなしの扉を無理やり閉めて、自宅をあとにした。
家から最寄りの真島駅までは普段なら5分とかからない近距離なのだが、今日は違った。
傘をさして歩きだすがものの数秒でぶっ壊れ、既にびしょびしょ。
迫りくる強い風が、前へと進む俺の足を邪魔する。
「死んでたまるかぁ!」
なぜか俺はブチギレていた。
新聞配達でもこういうことはよくある。
バイクのエンジンが起動しなくなったり、倒れて新聞紙がぐちゃぐちゃになって、「あーもうどうにでもしやがれ!」と自暴自棄になるのだ。
だって天候だから仕方ないよなって。
真島駅にやっとのことで着いた。
徒歩で20分。
あれ、おかしいな。
俺ん家、少し遠くなった?
エスカレーターに乗り、二階で乗車拳を買う。
改札口にはたくさんの人だかりができており、駅員のアナウンスがひっきりなしに流れている。
ダイヤが大幅に遅れており、現在の時間は『10:12』なのだが、二時間前の列車が未だに到着していないそうだ。
「マジかよ…」
思わず絶句する俺氏。
周りに立っていた人たちを眺めると大半がスーツを着たサラリーマンばかりだった。
「もう職場に電話して休むわ」
「これ行っても帰れないだろ」
「台風の中で……ハァハァ。濡れたキミが、‟ソニック”がス・テ・キ」
いや最後の歪んだ撮り鉄だろ。ちな『ソニック』てのは九州の特急列車ね。
一応、赤坂 ひなたに電話してみた。
彼女も真島駅から近い梶木駅にいるだろうから乗るとしたら同じ列車だろうから。
だって2時間前の電車が動いてないんだぜ?
「もしもし、ひなたか?」
『ブフォーーー! も、もし……もし。バハァーーー!』
ダメだ、風の音で全然聞こえん。
電話を切ってメールで連絡をとる。
『今どこだ? 梶木駅か?』
とメッセージを書いて送信するもなかなか完了できない。
よっぽど電波が悪いのか?
数分後、送信完了するとこれまた十分後ぐらいに返事が来る。
ダイヤル回線ですか?
ひなたからはこう返事が返ってきた。
『今、梶木です。真島も動いてないですよね?』
やはりそうか。
俺が同じ状況だということを伝え、「中止にするか?」とメールで提案したが、ひなたは断固として「博多にいきます!」と宣言した。
いや、明日でよくね? と思ってしまう俺だった。
~30分後~
奇跡的に電車が真島駅に到着するというアナウンスが流れた。
その時はもう既に改札口で待っているのは俺だけだった。
切符を自動改札機に通して、博多方面のホームへと降りる。
すると凄まじい雨風がまたしても襲ってくる。
傘はぶっ壊れたので邪魔なだけだ。
ホームにあったゴミ箱に捨ててやった。
ようやく来た列車はものすご~くゆっくりとホームへ入ってきた。
おじいちゃんかよ。
どうにかして車内に入るとガラッガラで席は座り放題。
わぁい!
ぼく、ひとりだけだぁ♪
なんてガキみたいな思考へと頭がバグり出す。
真島から列車がこれまたゆっくりと出発する。
ホームを出てもその速度は全然上がらない。
徒歩か? ってレベルだよ。
真島から梶木までは二駅で5分ぐらいの時間なのだが、こんなよちよち運転なのだ。
30分はかかった。
梶木駅に着くと俺と同様にびしょびしょに濡れた現役JKこと赤坂 ひなたが同じ車両に入ってくる。
一人だけね。
「あっ新宮センパイ!」
荒れ狂った天候とは違い、彼女の表情は日本晴れのようだ。
満面の笑みで手を振る。
迷彩柄のミニスカにタンクトップとキャミソールを重ね着している。
小麦色に焼けた素肌が露わになっている。
びちょびちょに濡れているオプション付き。
「おう、来れたか……」
なぜか彼女の姿を見るなりため息が漏れた。
だって博多駅に行ってなにすんの?
どんたくもやれんだろうし、果たして無事に帰れるのか。
「あ、なんで私のこと見てため息つくんです?」
頬を膨らますひなた。
「悪い悪い、この天気じゃな」
そういいながらとりあえず空いている隣りの席をポンポンと叩き、誘導する。
ひなたは「私みたいなピチピチJKとデートなんですよ!」と文句を垂れながらちゃっかり隣りに座る。
どうでもいいことなんだが、互いにパンツまで濡れているだろうから、自然と座っているモケットもびしょびしょだ。
JRがかわいそう。
そしてまたよちよち運転が始まる。
列車が動きだしたことを確認して、ひなたに問う。
「なあ今日ところでどんたくやるのか?」
「やるみたいですよ」
ファッ!?
死人が出やしないか。
博多どんたくというのは福岡を代表するお祭りの一つだ。
個人的にはどんたくには何の思い入れは何もない。
歴史なんぞはよくわからんが、素人が歩行者天国でパレードしてるって認識だからな。
まあ若いJKがミニスカなどで行進する姿は嫌いじゃない。
「マジかよ……」
「そりゃやるでしょうよ。一年に一回のお祭りですよ? みんなこの日のために練習したんですから!」
文字通り、命がけじゃん。
祭りで死ぬなよ。
ハッピーエンドであれ。
「解せないな…」
1時間もかかったのち、やっとのことで博多駅に着く。
圧倒的人気を誇るJR博多シティだが、今日ばかりは人っ子一人いない。
災害レベルで草。
「誰もいませんね……」
「だろうな」
改札口を出たところで、液晶モニターにこう書かれていた。
『本日の博多どんたくは中止となりました』
「ええ!? せっかく来たのに!」
顎が外れるぐらい大きな口を開けて驚くひなた。
いや、当たり前だろ。
「どうする、帰るか?」
というか帰りの電車、動いてないよね。
するとひなたは何を思ったのか、俺の左腕を強く掴むと「行きますよ!」と顔を真っ赤にして叫んだ。
細い女の子の腕とは思えないぐらいの強い力だ。
俺は引きずられるように引っ張られる。
ミハイルまではないが俺よりは力があるな。
さすが水泳部の姫。
「どこに行くんだよ……」
「そんなの博多駅なんだからどこでも遊べるでしょ!」
ひなたはそうは言うが、JR博多シティのお土産店や飲食店も軒並み臨時休業のお知らせが……。
それを見るなり、ひなたは「まだまだ他にも店があるんだから!」と俺を引きずり回す。
なにこのアホみたいな取材?
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