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第十三章 パーティスクール

フリースクール

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 ミハイルと自称芸能人の長浜 あすかはケンカしたかと思えば、なぜか意気投合していた。

「このアンナって子紹介できないかしら?」
「え、どうして?」
 嫌な予感。

「この子、本当に芸能人向きな顔だわ、アタシの『もつ鍋水炊きガールズ』に入れたいわね、ハーフ枠は今空席だもの」
 そんな地下アイドルにアンナをくれてやるか。
「む、無理だよ。アンナは田舎の子で遠いし、内気な子だし……」
 どこがだよ! ストーカー大好きでアグレッシブな子じゃないか。

「そうかしら? アタシにはけっこう芯の強い子に見えるわ」
 当たってます。
「とにかく、アンナは芸能活動とか興味ねーから!」
 顔を真っ赤にして恥ずかしがるミハイル。


 ここは少し助け船を出しておくか。
「長浜、とりあえず、その辺にしておいてくれないか?」
「はぁ? なんであんたに名前で呼ばれないといけないのよ!」
 てめぇが何回も自己紹介をするから嫌でも覚えただんだ、バカヤロー。

「じゃあアレか、名無しか? それともジェーン・ドゥと呼べばいいか?」
「それって死人の呼び方でしょう!」
 察しがいいね。
「だいたいあなたたちの名前は? 聞いてないわよ!」
 お前が自己主張が激しすぎるから人の話を聞かないんだろう。


「俺は新宮 琢人。んでこっちの金髪っ子が古賀 ミハイルだよ」
 やる気ゼロで自己紹介。
「覚えておいてあげたわ!」
 なんでこうも上から目線なんだよ。

 そうこうしているうちに始業のチャイムが鳴る。

「お、一時間目が始まるぞ」
「あら、もうそんな時間? じゃあアタシは帰るわね」
 ファッ!?


「お前、何しに来たんだよ! まだ授業受けてないだろが!」
「はぁ、バッカじゃない!」
 ふてぶてしく肩まで下りた長い髪を手ではらう。

「言ったでしょ! アタシはトップアイドルの長浜 あすかよ! 今から仕事に決まってんじゃない。一般人のあんたたちとは住んでいる世界が違うのよ!」
「長浜、お前。そんなんでよく一ツ橋にいられるな、単位取れているか?」
「単位? そんなもん芸能活動に必要?」
 質問を質問で返されたよ。
 その通り、芸能活動には必要ない、けど学生としては必要じゃん。


「待て、お前。今いくつだ?」
「そんなこともしらないの! 長浜 あすかでググリなさいよ!」
 クソが! めんどくせーなこいつ。
 俺は言われた通り、スマホで検索する。
 奇跡的にヒットした。

「あ、俺より一つ下か」
 つまり17歳。
 本来なら高校2年生の年齢だ。
「そうよ! まだピチピチのセブンティーンなんだからね!」
 ググる必要あった?


「お前はいつから一ツ橋に入学している?」
「ググりなさいよ!」
 そんな個人情報までネットに出てたら大問題だろ。

「仕方ないわね、2年前かしら? 芸能活動しながら高校生やれるって聞いて入ったのよ」
「なるほどな」
 話を続けていると思いだしたかのように、腕時計を見て慌てだす長浜。

「もうやだ! あんたがバカだから説明してやってたらこんな時間! 今日は生中継が入ってんだから、アタシはもう行くわよ!」
「ああ、なんかすまんな」
 俺は悪くない。


「じゃあお昼の12時ごろ、ネットでも見れるからこのトップアイドルのご尊顔を拝見しなさいよね!」
 お前は何様だ!
「ま、見れたらな」
「はあ、急がし急がし」
 とボヤきながら慌てて長浜は去っていった。


 取り残されたミハイルに視線をやると、床とにらめっこしながら何やらブツブツと呟いている。
「どうした? もう授業始まってるからいこうぜ?」
 するとミハイルは困った顔をして、俺にこう言った。
「芸能人ってラブコメの取材になるのかな? アンナに芸能人すすめたほうがいい?」
 なに真に受けてんだよ、こいつ。

「やめとけ、アンナには向いてない。確かに長浜より可愛いことは認めるが、アンナは優しい子だからな。あれだけ自己主張の激しい人間じゃなきゃ務まらんよ」
「だ、だよな☆ アンナはタクトで忙しいし」
 うん、俺も忙しいよ。

 俺たちは急いで、教室へ戻った。


 一時間目の授業は英語。
 教壇には既に中年の女性教師が立っていた。
 少し太っていて、眉毛がキリッとした表情から気の強さが現れていた。
「あなたたち! もうチャイムなってたでしょ!」
「すんません」
 一応、頭を下げておく。
 なるほど、他の教師と違い、けっこうまともな人だなと思えた。

 一ツ橋高校は単位制なので、出席はカードで自分の名を書き、それを終業後に教師に渡すことでスクリーングとして成り立つ。
 だが、実際は授業の途中からヤンキーとかが平気で入ってきても教師はほぼ必ずといって、苦笑いしては出席カードを手渡す。
 それが例え授業が終わる5分前でもだ。
 真面目にやっている俺たちからするとバカみたいに思えてくる。


「さ、席に座って」
「はい」
「ちっす」
 俺とミハイルはピリッとした空気の中、気まずそうに自分の席に座る。
 教室に座っていたヤンキーたちもどこかいつもと違う様子だ。

 いつもならもっとだらしない格好で駄弁っていたり、平気でスマホを触ったり、授業を真面目にうける姿を見ないのに、皆が真面目に教科書を開いてノートまで出している。
 それだけこの教師は厳しいということか?

「はい、では、エブリワン? ハワユー?」
 なにそのへったくそな英語。

「「「アイムファイン!」」」

 クラス全員で叫ぶ。
 なんだろう、真面目に授業やっているんだけど、幼児向けの英会話教室レベルに感じる。

「イエス、イエース! では教科書を開いてください」
 教師は嬉しそうに話す。
 教科書を開くと俺は驚きで口が開いたまま、言葉を失う。
「今日はアッポーとアンットゥについて勉強しましょう」
 小学生以下じゃねーか!

「「「はーい!」」」
 そこは日本語かよ!

「では、ミスター古賀? 英語でリンゴは?」
 バカにしてんのか?
 ミハイルは少しうろたえながら席を立つ。

「ど、どうしよう、タクト」
 かなり困っているミハイルくん(15歳)
「わかるだろ?」
 俺はミハイルがそこまでバカだと信じたくない。

「ミスター古賀? ワカラナイデスカァ?」
 なんでお前が外国人風な日本語してんの。

「えーと、アップルジュース?」
 おしい!
 信じた俺が浅はかでした。
 さすがヴィッキーちゃんの弟。

「ノンノー! 正解はアッポーです」
「あ、そっか。アッポーだったのか……」
 なんか違くね?

 それからしばらく俺は低次元な英会話をただ黙って聞いていた。
 ここは高校じゃなくて、幼稚園じゃないですかね?

 チャイムが鳴ると、ミハイルは胸を撫でおろしていた。
「むずかしかったよ……タクト」
「そうか、大変だったな」
 バカで。

 左に座っていた北神 ほのかが俺に話しかける。
「ねぇ、あすかちゃんと話してたの?」
 目をキラキラと輝かせるほのか。

「話してた……というかあいつが一方的に喋り倒した感じかな」
「すごいねぇ、芸能人が同じ高校にいるなんて!」
 俺は今日初めて知ったよ、長浜 あすかって芸能人のことを。
 ウィキペディアに登録されているぐらいのガチオタがいることも。

「そうか? あいつただのローカルタレントだろ?」
「けっこう有名だよ? あすかちゃんって」
 少し不満げなほのか。

「じゃああいつの出てる番組ってなんだ?」
「えっと、深夜にやっているやつで『ボインボイン』ってのがあってね……」
 すごく卑猥な番組に聞こえる。

「なあ、長浜って水着でテレビに出てんのか?」
 心配になってくる。
「違うよ! ただのバラエティー番組」
「へぇ、深夜なら俺は寝ているから観たことないな。ミハイルは知っているか?」
「オレ? オレは毎日ネッキーとかデブリのDVDばっか観ているからテレビは興味ないかな」
 そうだったね、君はやることなすこと全部可愛いもんね。

「二人とも酷くない? 福岡で有名な子なのに……」
 福岡限定の時点で有名とは言えないような。

「ま、昼に生中継やるとか言ってたからあとで観てみるか」
「ホント? じゃあお昼ご飯食べながら3人で観ようね」
「オレも観るの?」
 ミハイルは超興味なさそう。
 まあ俺もすごくどうでもいい。
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