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第十三章 パーティスクール

アイドル、長浜 あすか

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 俺の小便は止まることなく、トップアイドルの長浜 あすかちゃんに放尿行為を見つめ続けられるという羞恥プレイは続行中だ。

「アタシは福岡でも……いや九州で一番有名なアイドルなのよ!」
 まだ言うか、知らんのだから仕方ないだろう。
 トップアイドルなのに九州限定なんすね。
 観光客の方にお土産としていいんじゃないですか?


「あのな、長浜だったか? 俺はお前をテレビやネットで見たことなもない、芸能人と言えばタケちゃんぐらいのビッグネームを出されないとピンと来ないな」
 そう言うと、長浜は更にブチギレる。
「はぁ? タケちゃんとかBIG3じゃん!」
 うむ、いい子だ。

「お前が福岡を歩くとして何人が芸能人として把握できる? 身内である一ツ橋や近所のおばさんぐらいじゃないか?」
「言わせておけば……じゃあ一回芸能人やってみなさいよ!」
 なんでそうなる?
 俺はただの作家だよ。

 というか、小便止まらないな。

 その時だった。
「なにしてんだよ! お前!」
 男子トイレに入ってきたもう一人の女子……じゃなかったミハイルさん。
 顔を真っ赤にして激おこぷんぷん丸じゃん。

「アタシ? アタシはトップアイドルの長浜 あすかよ!」
 こいつ、いちいち自己紹介したがるよな。
 よっぽど売れたいんだろう。
「そんなこと聞いてないだろ! ここは男子トイレだぞ!」
 ミハイルにしては実に正論だ。
「関係ないわよ、芸能人はどこにいようと芸能人でいられるんだから」
 なんか芸能人がみんなブラックな人に見えてくる発言だ。


「オレが言いたいのは、その……タクトの…お、おしっこ中になにしてんだって言いたいんだよ!」
 叫びながら照れてやんの。
 そう言えば、こいつとは風呂まで入った仲だが、局部を見られたのは初めてだった。
 いやん。
「フン、アタシは悪くないわよ! この男が勝手におしっこしているんじゃない」
 酷い言い様だ。俺の人権はどこにいったんだ。


 ミハイルが長浜とケンカしてくれている間、おかげさまで小便がやっと終わり、チャックを閉める。
「なあお前ら、トイレに用がないなら出てけよ」
 すると二人は息ぴったりで答えた。
「「あるよ!」」
 じゃあ用をたせよ!

「だいたい、この女、変態じゃん! タクトの……その……お、おち、おちん……」
 最後までは言えずにトイレの床ちゃんとにらめっこしてるよ、可愛いヤツだ。
「アタシはアイドルでもあって女優もやってんのよ! そんじょそこらの男の裸を見てもなんとも思わないわ!」
 芸能人ならのぞきしてもいいってことですか。やっぱ変態じゃん。
 俺は呆れてハンカチを咥えながら手を洗う。

 その間も、後ろで二人のバトルは続く。

「タクトはオレのダチなんだ! お前なんかアイドルのくせに女らしくないし、全然可愛くないぞ!」
「言ったわね、アタシはこの前『福岡JKコンテスト』でも優勝したこともあるのよ! つまり全福岡民が認めた可愛さよ!」
 今知ったよ、そんな犯罪めいたコンテスト。
 というか、福岡にこだわるやつだ。郷土愛があるんだな。

「なんだそれ?」
 ああ、ミハイルくん。その言葉が一番ダメージデカいと思うな。
「知らないの!? なんであの男もあなたもアタシのことを知らないのよ! こんなに可愛いのに!」
 自己主張が激しいな。もうお腹いっぱい。

 俺は手を拭きながら、あほらしいと思いながら彼女と彼の口論を見守っていた。

「じゃあタクト本人に聞けよ! お前が可愛いかを!」
 ちょ、なにこっちに話を振ってんだよ。
「それはいい考えね」
 便乗すんな。

「タクト、こいつ可愛いか?」
 新鮮な質問ですね。
 だが、そう言われても困る。
 正直美人な部類なのだろうが、それよりも気の強さが先んじていて、見ていてうんざりする。

「それは見た目だけで決めればいいのか?」
「何を言ってんのよ、全部よ! ルックスも内面も!」
 ねぇ、会ったのついさっきだよ。
 そんな一時間も会話したことないのに、内面も見えるとかメンタリストじゃん。

「トータルでか? なら……フツー」
「……」
 黙り込む長浜。
 涙目で鼻をすすっている。
 傷つけちゃったかな、てへぺろ。
「ほら見ろ、タクトは嘘をつけないヤツだからな」
 なぜお前が自慢げに語る。


「ただ、顔は可愛いんじゃないのか? まあ黙ってればの話だがな」
 一応フォローしておく。
 まあお世辞は嫌いだが、ウソは言ってないので。

「可愛い……」
 目を丸くして俺の方を見つめる長浜。
 意外だったようだ。かなり驚いている。
「あくまで見た目だけだよ」
「そ、そう……」
 珍しくしおらしくなっちゃって、顔を赤く染めて視線を落とす。


「タクト! お、お前、なに言ってんだよ!」
 今度はミハイルがキレちゃった。
「なにが? ミハイルが言えっていったんだろ? 率直な感想を述べたにすぎん」
 黙っていれば可愛いということは、人格を否定していることでもあるんすけどね。

「だからって女の子に可愛い……とか、告白じゃんか!」
「え?」
 そうなの? 誰も好きとか言ってないじゃん。
「タクトにはアンナがいるだろ! アンナより……ひっぐ、可愛いのかよ!」
 今度はあなたが泣き出すんですか?
 この学校、情緒不安定な方が多いですね。

「はぁ……今はアンナは関係ないだろ」
「あるよ! タクトのアンナとあの女、どっちが可愛いんだよ!」
 通訳すると「オレと長浜、どっちが可愛いか」ってことですよね。
 こんなところでも俺は公開処刑にあうのか。


 俺は呆れながらも答えてやった。
「それは俺の個人的な趣味でいいんだな?」
「う、うん……タクトの好みとかタイプとかってことだもんな」
 言いながらどこか不安気なミハイル。

「ま、俺はアンナの方が可愛いな。見た目も天使だし、優しいし、遊んでいて楽しいし、料理も上手いし、なんだって俺好みの女の子だし」
「タクトぉ☆」
 涙を流しながら両手を合わせて喜ぶ。
 ってか、トイレの中でなにを言わすんだよ。
 女の子の前で。

 それを聞いていた長浜がすかさず、話に割り込む。
「なんですって!? 芸能人のアタシより可愛い子がいるの?」
 めっちゃキレてる。
 まあこんだけ芸能人にコンプレックスを抱いているのなら当然か。

「そうだ、タクトには可愛い彼女がいるんだぞ☆」
 ない胸をはるな、女装男子めが。
「証拠を見せなさい! 写真とかないの?」
 俺に詰め寄る長浜。
 ちょっと近くね? 主張が激しい子だってのはわかってんだけど、至近距離で見つめられるとちょっと照れちゃう。
 それからよく見ると長浜って胸がデカいんだな、キモッ。

「見せてやれよ、タクト」
 なぜか完全勝利UCと化すミハイルくん。
「さあ早く見せなさい!」
 なんで上から目線なんだよ、こいつの年っていくつだ?

「わかったよ」
 俺はジーンズのポケットからスマホを取り出して、以前アンナとプリクラで撮った画像を長浜に見せてやった。
 すると長浜は肩を震わせて、顔を真っ赤にしていた。
「なによこれ……ハーフとかチート級に可愛いじゃない!」
 あれ、なにこのデジャブ。
 いつだったか、どこかのボーイッシュJKがアンナを見た時に反応したコメントに似ているような。
 ああ、赤坂 ひなたちゃんか。

「ふ、ふふ……ど、どうだ!? 可愛いだろ?」
 言いながらめっちゃ嬉しそうじゃん、ミハイルさん兼アンナちゃん。
 これで満足ですか?
「ええ、芸能人レベルで可愛いわ……」
 認めるんかい。
「で、でもハーフってことは言っちゃダメだぞ。その子はハーフで小さなころからその事で辛い思いしてたんだからな」
 急に辛い過去を暴露するハーフさん。
 だから以前、北神 ほのかにハーフであることにキレていたのか。
 納得である。


「でも、ハーフってことは誇っていいんじゃないの?」
「ど、どうして?」
「人間誰だって、ハーフじゃない? 他人同士が結婚して子供を産めばハーフよ。今の時代、俗に言うハーフはルックスや身体能力、全てにおいて私たち日本人からしたらすごい人たちよ」
 先生みたいに語ってて草。
 道徳の授業かな。
「あなたは生んでくれたお母さんに感謝すべきよ」
「そ、そうだよな……」
 
 激しいケンカしたと思ったら、急に友情が芽生えだしたよ。
 忙しいやつらだ。
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