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第十三章 パーティスクール

恋の敵は友達

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「答えろ! あの可愛いハーフ美人は誰なんだ!? 付き合っているのかよ!」
 福間 相馬は鬼の形相で俺に迫る。
 なんだ、こいつ。
 女装したミハイルに恋でもしたか?

「付き合ってはいないよ……彼女は俺のビジネスパートナーだ」
 俺がそう答えると福間は更に激昂した。
「んだと!? セフレってことかよ!」
 いやそういうお仕事じゃないよ。
「あのな……彼女はちょっと特別なんだ」
「特別ってことは赤坂は遊びってことかよ!」
 うーん、なんか言い訳する度に話がこんがらがってくるな。

「そういうことじゃない、ひなたとも別にラブホテルで何かをしたわけじゃない。アンナも同様だ」
「アンナちゃんていうのかよ!」
 いや、お前にちゃん付けされるのはちとムカつく。
「とにかく、ラブホテルに入ったのは事実だが、赤坂は事故で、アンナは仕事の……ことかな?」
 自分で言っておいて、なぜか疑問形。
「はぁ? 仕事でラブホとかアンナちゃんはそう言う店の子かよ?」
 おい、アンナに謝れよ。

 福間は俺の答えに納得することはせず、一向に怒りが治まる気配がない。
 互いに睨みあって、奥歯に力を入れる。
 
 その時だった。

「ここにいたのか、タクト!」
 ヤベッ、当のご本人登場しちゃった。

「ミハイル……」
「教室で待っているって言ったんじゃんか! ずっと待ってたのに!」
 めっさ怒ってはる。
 寂しがり屋なんだな。

 ずかずかと教室に入ると俺の手を掴む。
 それを見た福間が止めに入る。
「おい、なんだお前! 俺は今、新宮に話があるんだ!」
 言われて、ミハイルは福間を鋭い眼光で睨みつける。
 俺に見せたこともないような顔つきだ。

「あぁ? 誰だよ、お前」
 ミハイルくん、それ一番いっちゃダメなヤツだよ。
「俺は三ツ橋高校の福間だ!」
「だから?」
 冷めきった声で凄む。
 その間、俺の手を握り締めたままだが。

「あのな、こいつは俺の彼女に手を出したんだよ!」
 ちょっと待って語弊が生まれます。
「ええ!? お前のカノジョにタクトが手を出したって!?」
 口を大きく開けて、信じられないと言った顔で俺を見る。
 酷くない?

「どういうことだよ! タクト、お前にはアンナがいるだろ!」
 はぁ……もっとめんどくさい事になったよ。
 ミハイルの怒りがこっちに向いちゃった。
「だろ? こいつはアンナちゃんがいるのに、俺の彼女、赤坂に手を出したんだよ!」
 便乗する福間。
 流れが変わってしまったよ。

「いや、ちょっと待ってよ、お前ら……」
 ミハイルは握っていた俺の手をバシッと叩くように手を離す。
「説明しろ、タクト!」
「あのな、俺は福間が強引にひなたをラブホテルに連れ込もうとしたのを阻止したに過ぎない」
 この説明、何回するの?
「違う! 合意のもとだろ!」
 お前はまだ犯罪を犯したいのか。

「ん? ひなたをタクトが助けた……?」
 首をかしげるミハイル。
「そうだ、その時に福間が……」
 言いかけて、ミハイルの顔色が曇り出す。
「殴った」
 俺の代わりに答える。

 時すでに遅し、彼の拳はグッと力強く握られ、俺に背を向ける。
 ミハイルの背中からは見えないはずの地獄のような赤く燃え上がった炎が見える。
 気のせいか、金色の髪がざわざわと揺れ動く。

「お前か! タクトを殴ったヤツはぁ!」
 ギロッと睨みつける。
 その姿は俺がミハイルと初めて出会った入学式の時のような剣幕。
 彼本来の姿、ヤンキーそのものだ。
 ケンカを売っている。

「ああ!? あれは新宮が悪いんだ! 俺の邪魔したから……」
「うるせー! オレのタクトに手を出しといて、タダで帰すかよ、ボコボコにしてやる!」
 退学するぞ、ミハイル。
 止めた方がよさそうだな。

「はん、お前みたいな中性的なヤツがこの水泳部エースの俺にケンカ売るのかよ?」
 福間は指をポキポキと鳴らし、どこからでもかかっこていと言わんばかりに挑発する。
 確かに福間の方がミハイルより身長や体型は遥かに超える。
 だが、ミハイルも見た目にそぐわずかなりの怪力だ。

「お前みたいなもやし野郎、ワンパンだ!」
 久しぶりに聞いたな、ミハイルのおすすめのメニュー。
 キムチの素で作るもやしだろ?

「誰がもやしだ! だいたい、ミハイルだっけか? お前になんで関係あるんだよ?」
 まあ正論だよな。
「は? オレはタクトの唯一のダチだから……」
 唯一とか言うな。ぼっちが目立つだろ。

「ダチってこんなヤリ●ンがか? ミハイルも友達を選べよ」
「お前にタクトのなにがわかる!?」
 あれ、ケンカするんじゃなかったの……。
 なんか話が俺のことだけになっているよ?
 ひなたがかわいそう。

 そこへモブDK達もヤジを飛ばす。
「そうだぜ? 新宮は福間くんの女に手を出しといて、ハーフ美人が本命らしいし」
「だべよ、水泳部の姫をホテルに連れ込んで、次の日にはめちゃんこ可愛い子としっぽりだべ」
 おいおい、お前らもアンナを褒めてない?
 水泳部の姫が置き去りじゃん。

「え……美人? 可愛い?」
 ミハイルはカチンコチンに固まってしまった。
「そうさ、あいつらの言う通り、新宮は赤坂とラブホテルに行ったくせに翌日にはハーフで美人で可愛くて、妖精みたいな女の子と仲良くしてたんだ!」
 力強い口調でミハイルに抗議しているようだが、実質は彼自身を褒めまくっている。
「よ、妖精……」
 あらあら、耐性が少ないせいか、顔を真っ赤にして床ちゃんがお友達になっちゃったよ。

「妖精なんてもんじゃない! 天使だよ! 芸能人なんて目じゃないぐらい可愛かった!」
 その言葉さ、ひなたに使ってやれよ。
「そ、そんなこと……ないだろ?」
 ブツブツと小さく床ちゃんとお話中。
「いや、あるね! 俺はずっと福岡に住んでるけど、あんな美人みたことない!」
 ねぇ、ひなたとアンナ、どっちが好きなの?

「……」
 黙り込んで顔を真っ赤にさせるミハイル。
 恥ずかしいったら、ありゃしないよな。
 女装しといて、現役DKにここまで褒められるなんて。
 目の前に本人がいるのに、気がついてないってのも奇跡と言うべきか、ただのバカと言うべきか。

「俺がもし赤坂を好きになる前にアンナちゃんと出会ってたら、恋してたかもしらんぜ……」
 拳を作ってどこか悔し気に語る福間。
 現役JKが女装男子に負けちゃったよ。

「お、お前ら……」
 ミハイルは身体をガタガタと震わせている。
「言わせておけば」
 ん? キレるんかな?
 暴力する前に俺が止めに入るか。
 はーめんどくさ。

「あの、ミハイル。もうやめてやったら……」
 俺がそう言った時だった。

「お前ら、すっごくいいヤツらだな☆」
 満面の笑顔で福間の手を両手で握るミハイルさん。
「え……」
 絶句する福間。

「アンナのことを褒めてくれてありがとな☆ あいつ、俺のいとこなんだよ☆」
 照れ笑いして、頬をかく。
「お前のいとこだったのか」
 納得したらダメだよ、福間くん。
「そうなんだ! だからこれからもタクトとアンナのことを見守ってくれよ☆」
 ちょっとなに勝手に話を盛り上げてんの?
「ああ、赤坂に手を出さないってんなら、別に構わんけど……」
 おいおい、さっきまでの怒りはどこへ消えたんだ。
「大丈夫! 福間、タクトはアンナにぞっこんだから、ひなたに手は出さないよ、絶対に!」
 俺の意思ってどこに行ったんだろう。


「そっか……じゃあ、ひなたはラブホテルで何もされてないのかな?」
 いや、恋愛相談始まっちゃったよ。
「ないない! タクトに限ってそんな度胸ないよ☆」
 酷いな、俺も男なんだけど。
「だよな……俺にワンパンで倒れるクソ弱い男だし」
「そうそう! オレがいないとタクトは生きていけないし」
 お前らなに結託してんだよ。
「オレ、福間とひなたの恋愛をめっちゃ応援するよ! なにかあったら手伝うぜ☆」
 ニカッと白い歯を見せて、親指を立てる。

「ミハイル、いいやつだな、お前。一ツ橋を差別していた自分が恥ずかしいよ」

 気がつけば、モブDK二人も涙ながらに頷いていた。
 ああ、優しい世界だ。
 俺だけのぞいて。
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