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第十二章 遊園地はハプニングだらけ

お土産でセンスが問われる

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 アンナはボリキュアショーを十二分に楽しんだ。
 ショーのあとは握手会や撮影会が全員に行われる。
 幼い子供と親で長蛇の列が出来ている。
 それにも俺とアンナは並んだ。
 
「きゃあ☆ ボリハッピーだぁ☆」
 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶミニスカ女子(♂)
 可愛いんだけど痛いよ。
「ボリキュア、本当に好きなんだな」
 俺は呆れた顔でアンナを見つめる。
「だって、15周年だよ☆」
 生後間もなく見だしたの?
「ふーん、だから今期キャラだけじゃなく各シーズンの主役も登場しているわけか?」
 なんだかお金の匂いがプンプンするな。
 大人の策略って怖い。

「うん☆ だから今度15周年記念の劇場版観に行こうね☆」
「え、それはちょっと……」
 俺って別にアニメとか好き嫌いする方じゃないけど、劇場まで足を運ぶほどガチオタじゃないんだよ。
 
「なんで? 楽しいよ、ボリキュアの劇場版」
 不思議そうに首を傾げる。
「アンナは毎年観ているのか?」
「もちろんだよ☆ 年に2回はあるでしょ?」
 そうなの? 知らんかった。
 アンナさんも大友さんの仲間じゃないですか。

「へぇ……」
 ちょっとアンナの趣味にドン引き。
「だから行こうね、取材も兼ねて☆」
 それ、取材になるのかな?
 ラブコメ要素ある?

 ふと前の列に目をやった。
 真っ黒に日焼けしていて、望遠レンズ搭載の高そうなカメラを首からかけている。
 随分、気合の入ったお父さんだな。
 しかし、それにしてはちと若い。
 そこで他のお父さん方と比較してみると違和感を覚えた。
 よく見ると子供を連れていない。

「あ……」
 俺はすぐに察した。
 大友くんか。

 何よりおかしいのが、両腕に恐らく子供用のボリキュア、仮装グッズをつけていた。
 リストバンドのように利用しているが、悪い意味で目立っている。
 そして、頭には玩具のプラスチックで出来たカチューシャ。しかも電池でピンクに光ってやがる。
 
 ガチ勢じゃん。
 こんな紳士が親子連れと並んでいるのか……。
 別に悪い事じゃないんだけど、なんだかな。
 泣けてくる。

 列がどんどんステージに近づいていくと、そのオタは黙ってカメラを構えた。
 アンナは俺の隣りで「きゃあ! ブラック~」と叫んでいる。
 言わば陽キャのオタだな。

 前列のオタの番になると、その紳士は急にマシンガントークを繰り広げる。
「あ、鈴木さん! お疲れ様です! 夕方の回も観ます! 可愛いっす!」
 え? 誰だよ、鈴木さんって。
 ボリブラックだろ? 夢を壊しちゃダメだよ。
「佐藤さんも! 輝いてました! パネェっす! マジ卍っす!」
 そう言って、次々とボリキュア達と握手していく。
 中身の人たちも彼を分かっている体で、黙って頷く。
 どうやら常連の客らしい。

 そして、ついに俺たちの番になった。
「きゃあ、ブラック、ギュウしてぇ~」
 アンナは図々しくも女装キャラを活かして、ボリブラックと抱擁を楽しむ。
 セクハラじゃん。
 俺は仕方ないので隣りのボリホワイトと握手する。
「あ、初代が至高です」
 一応、俺の想いだけは伝えておいた。
 すると、ホワイトも何かを察したのか、うんうんと頷いてくれた。

 そして、握手会を終えたアンナは満足そうに笑っていた。
 ま、アンナが喜んでくれるなら俺は何でもいいけど。

「はぁ、楽しかったぁ☆」
「まあ俺一人だったら経験できないことだよな」
「でしょ? 取材になったよね☆」
 なってない気がする。

 スマホを見れば、時刻は『15;45』
 けっこう長居できたな、小さな遊園地だが。

 最後に観覧車に乗って帰ることにした。

 そんなに大きな観覧車ではない。すぐに一周を終えそうだ。
 だが、アンナはルンルン気分で乗り込む。

 観覧車の中へ入ると互いに向き合うように、座る。
「ねぇ、タッくん」
「ん?」
「今日は楽しかった?」
「ま、まあまあかな」
 カオスだったし。
「そっか☆ ならよかった。また来ようね、二人で☆」
 夕焼けに照らされたアンナの白い肌がオレンジがかる。
 グリーンアイズの瞳が少し潤んでいた。

 可愛い。素直にそう思えた。
「そうだな、また二人で来よう」
 互いに見つめあい、観覧車がてっぺんに昇るまで、余韻に浸る。
 ほぼ、景色なんて観てないぐらい、見つめあっていた。

「タッくん、次のデートはどこに取材する?」
「うーん、どこがいいかな? ラブコメの王道たる場所がわからん」
 アンナもちょっと考え込んでしまう。
「ラブコメ……福岡でしょ……若者、カップル」
 それ、全部リア充が似合うやつじゃん。
 俺たち野郎二人でなにやってんの?

「そうだ! 天神なんてどう?」
 意外だった。
「天神? あんなところにラブコメ要素なんてあるか?」
 だってリア充の街じゃん。
「あるよ! アンナはあんまり行かないからわかんないけど、テレビとか雑誌にも度々取材されているでしょ?」
 それがリア充の証拠じゃん。
「なるほど……まあ俺は仕事でしか、行かないからなぁ」
 いい思い出がないんだよ。
「じゃあ、タッくんも似たもの同士だね☆」
 あのさ、ちょいちょい同じグループに入れないでくれる?
 俺は女装なんてしないから。

「今度は天神で決定!」
「わ、わかったよ……」
 次の取材場所が決まったと同時に観覧車はちょうどてっぺんになっていた。
 梶木浜かじきはまが一望出来た。
 海が見える。天気も良かったせいか、梶木浜から海の中道までよく見える。
「キレイ」
 アンナは景色に見とれていた。
 俺はこういうものにあまり感動しない。
 だが、彼女といる空間ならば、別だ。
 全てが美しく見える。
 

 観覧車が下に戻ってくると、俺たちは園内の出口へと向かった。
 と、その前にお土産コーナーへ。

 かじきかえんのお土産は10年前に来た時とは違い、公式キャラのビートくんを差し置いて、バルバニアファミリーに牛耳られていた。
 仕方あるまい、天下のバルバニアファミリーなのだから。
 それを見て、アンナは「きゃあ! カワイイ~」と真っ先に売り場へと突っ込んでいく。
 ちゃんと赤い大きなカゴを持って。
 いっぱい買うつもりなんだろうな。

 アンナはバルちゃんやニアくんの限定フィギュアや人形の服や家などを次々とかごへぶち込む。
 あれ? この雰囲気、どこかで似たような光景を見たような……。
 そうか、変態JKの北神 ほのかの同人誌狩りと同じだ。
 だが、アンナの方が可愛い趣味だし、見ていてしんどくない。

「タッくんはおうちの人に買わないの?」
 ふとアンナから質問される。
「いや、うちの人間はバルバニアなんて似合わないよ。それにバルちゃんとニアくんに迷惑がかかる」
「どういこと?」
 だって人形つかって、変なことをさせるもん、あの親子は。

「まあアンナは知らなくていいことだよ」
「そう? でもお菓子ぐらい買っていけば?」
 アンナはバルバニアのイラストで包装された可愛らしいクッキーを俺に見せる。
「ふむ、クッキーか。まあこれなら有害ではないな」
「有害? おいしいよ、これ?」
 違うんだ、そう意味じゃないんだよ。
 公式に有害なんだよ、うちの母と妹は。
 どうせ二次創作にネタとして使いやがるから。

「おいしいならそれにするよ」
 俺は半ばどうでもいいと思っていた。というか超どうでもいい。
 あいつらのお土産は腐りきった同人で十分。

「じゃあアンナも同じの買おうっと。ミーシャちゃんにクッキーあげるんだ☆」
 それ、自分プレゼントじゃん。
 一番悲しいよ。

 アンナは山ほどバルバニアグッズをカゴに入れるとレジへ並んだ。
 対して俺はクッキーを一つ。
 
 店員がアンナのカゴをレジ打ちしていくと恐ろしい金額に。
「合計で3万5千円になります」
 たっか! 払えるの?
「はい、現金で」
 アンナはごく当たり前のように福沢諭吉を4人も出す。
 いや、デュエルカードじゃないんだから。

「アンナ、そんなに金持ってきてたのか?」
「うん☆ 貯金おろしておいたの☆」
 さすがです。

 会計を済ますと、俺とアンナは仲良く梶木駅へ向かった。
「楽しかったねぇ☆」
 ニッコリと微笑むアンナ。
 可愛いやつだ。
 しかし、手に山ほどバルバニアのビニール袋を持っているのが痛い。

 重たくないの? だが、アンナは中身が普通の彼女じゃないので余裕で持ってましたとさ。
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