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第十一章 腐女子の乱

ブッ飛びJK

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 俺って何か悪いことでもしたのだろうか?
 罰でも当たったのだろうか?
 そうか、二人も連日で女の子をラブホテルに入るというリア充イベントをクリアしたせいか。
 分不相応なことをしたため、神は言っている。「お前は根暗オタクだろうが!」だと。
 お告げじゃ。
 わしにオタクの神が降臨なさったのじゃー!

「ねぇ、新宮くん。こっちなんかどう? 抜けるよね?」
 隣りを見れば、眼鏡を光らす変態さんが一人。
 クッソエロい同人誌持ってはしゃいでいる。
 表紙は触手でぐちゃぐちゃにされたロリっぽいヒロイン。
 お巡りさん、こっちです。
「北神、抜くって何を抜くんだよ?」
 一応聞いてみる。
「そりゃ、自家発電のことでしょ♪」
 笑顔がまぶしい。
 なんて清々しいほどの変態発言。
 こいつが男だったらマブダチになれたかもしらん。
 だが、女だ!

 その証拠に成人向け同人誌(男向け)に女子が一人混じっていることで、売り場の紳士たちが困ってらっしゃる。
 なんというか、汗臭いキモオタの周りに咲く一輪の花……といったアホな表現がふさわしい。
 だって、こういうところって本当に独特の臭いがするんだよ。
 みんな必死におかずになることだけ考えて、商品を選んでいるから、なんつーの?
 男性ホルモン? フェロモン? わきが? 
 超くせーんだよ。
 だから俺はあまり好まない、というか、ネットで十分だろ。

「新宮くんはエロ同人買わないの?」
 その言葉を聞いてか、周りの男性陣はスタコラサッサーと逃げていった。
「北神、もっと声のトーンを落とそうぜ」
 紳士たちが可哀そうだ、同じ男として。
「なんで? 好きなものに熱中することって大事じゃない?」
 その真剣な眼差し、カッコイイです。
 ですが、TPOって知りません?
「言いたいことはわかる……が、お前は女だろう? ここは男性向け売り場だぞ」
「それって男女差別じゃない?」
 正論だが、なんか違う。
「いや、差別ではなくてな……俺が言いたいのは」
 言いかけたところで、北神は自身の手で俺の口を塞ぐ。
 石鹸の甘い香りがしてちょっぴり嬉しい。

「新宮くん、皆まで言うな」
「は?」
「私は可愛い女の子でもイケるし、可愛い男の子でもイケるんだよ!」
 突然のバイセクシャルをカミングアウト。
 記者会見ならどっか他でやれ。
「言っている意味が分からん」
「だって、可愛ければ性別とか関係なくない!?」
 話し方に熱がこもる。
 俺にグイッと顔を近づける。
 北神……黙ってたら可愛いのにな。

「お前は腐女子なんじゃないのか?」
「ええ、BLは大好物! でも百合も大好物!」
 キンモッ!
「じゃあノーマルな恋愛ものは?」
「なにそれ、おいしいの?」
「それは知らん」
 未経験の俺に言わすなや!
「だからさっきから言っているでしょ? 可愛さが重要なの。新宮くんだって可愛いければ、男の子でも好きになるかもしれないじゃない」
 言われて、なんか胸焼けおこしそう。

「そ、それはない!」
 焦って話したせいで声が裏返る。
「ええ……わかんないよ~ 恋愛なんて惚れたら負けでしょ。掘られてもね♪」
 サラッと酷いことぬかすな!

「さ、この階は一通り済んだわね。じゃあ次言ってみよう!」
 北神はかごから溢れんばかりのエロ同人誌を持ってレジへと向かう。
 その後ろ姿は正に猛者だった。
 まるでモンスターをハンティングする大剣使いのよう。
 
 俺はタケちゃんの同人誌を一冊手に取ると彼女に続いてレジへ向かった。
 レジ前は平日の昼間ということもあってか空いていた。
 カウンター上に『今月のオススメ!』と大きなポップが貼られていた。

『真剣十代、ヤリ場! らめぇ、お兄ちゃん! ボクは男の娘だよぉ~』
 というタイトル。

 そう言えば、かなでのやつ。
 昨日は俺がラブホテルから帰って怒ってたもんな……よし、おみやげに買うか。
 という思考に至る兄の俺もブッ飛んでいると再認識する。

「すいません、この同人誌、一つください」
「あざーす! 二つで1200円です」
 支払いを済ませるとデカいキャリーバッグをカラカラと押してくる北神が待っていた。
 どこに隠してたんだ? そんな大きなものを。

「あれぇ、新宮くんって男の娘で抜くの?」
 抜かねーよ!
「これは妹のお土産だよ」
「え……」
 絶句する北神。
 そりゃそうだな、どこの妹がエロ同人の男の娘で喜ぶんだって話だよ。

 黙って俯く。
「北神……その……うちの家はだな」
 言葉が見つからない。
「……いこう…」
「え?」
「最高じゃない! 新宮くんの妹さん!」
「はぁ!?」
 思わずアホな声が出てしまった。

「で、読み専? 書き専?」
 食いつき方、半端ない。
 鼻息も荒いし、やはりキモいなこの女。

「確か将来はエロゲを作りたい……とか言ってたな」
 ちな受験を控えたJCだけどな。
「かぁ~ 志高いね、妹さん! 私もエロ漫画家目指してるんだ♪」
 なに言ってんだ、こいつ。
「どっちの?」
 百合か、BLか、男性向けか。
「全部!」
 はぁ……どこもかしこも変態ばかりだよ!

 俺たちはエスカレーターで3階に上がり、女性向けの売り場につく。

「さあ一狩り行こうぜ!」
 親指を立てる北神。
 こいつ、入学式で初めて会った時はいい子だと思ってたのになあ。
 やはりあれだ。三ツ橋高校の福間が言っていたように、通信制高校の一ツ橋はろくなやつがいないな。
 あれ、俺も入っているじゃん。
 まあ皆色々と事情があるから、通信制という特殊な環境で勉強しているだろうから。
 こいつも変態だけどなにかしら理由があるんだろうけど。
 ただ同じレベルでは見られたくない。

「狩るもなにも俺はBLなんぞ、買わんぞ?」
 その時だった。
 スマホからベルが鳴る。
 電話に出ると鼻息の荒い母さんの声が……。

『タクくん、今どこ!?』
 何やら焦っている様子だ。
「どうした、母さん。今天神だよ」
『あのね、お客さんと話してたんだけど、新作のBL同人が熱いらしいのよ!』
「は、はぁ……」
『だからね、買ってきて!』
 こんの腐れ外道が!
「わかったよ、んでタイトルは?」
 俺ってば超親孝行。

『さすが我が息子ね』
 うるせー。
『タイトルはメールで送っておくわ!』
 そう言うとブチッと電話を切られた。

 すぐにメールが送られてきた。

『俺のハッテン場はヤリ目だらけ』

「酷いタイトルだ……」
「どうしたの?」
 北神が一連のやり取りを見て、ログインしてくる。
「いやな、うちの母親はBL好きで同人買ってこいって」
「なんですって!?」
 口を大きく開く北神。
 かなり驚いた様子だ。
 さすがの北神もここまで変態一家だとドン引きか……。

「新宮くん!」
「え?」
「君はサラブレッドよ」
「あぁ!?」
 柄にもなくオラッてしまった。

「最高の家庭環境ね!」
 その立てた親指をへし折ってやりたい。
「さ、お母さまのBL同人、一緒に探そうぜ!」
「北神……お前ってそんなキャラだったか?」
 本当、こいつ。黙ってればいいやつなんだけどな。

「私は産まれた時からこんな感じよ♪」
 絶対ウソだろ。
 その家庭、機能不全家族だろ?
 
「ねぇ、新宮くん……このあとちょっとお茶しない?」
 なぜかモジモジとする北神。
 可愛いところもあるのね。
「別に構わんが?」
「じゃあ、同人買ってエロゲ買って、エロフィギュア買って、エロポスター買ってからにしましょ!」
「……」

 そこまでするぅ?
 俺はこのあと吐き気を感じながら、北神の買い物に付き合わされた。
 なにをやっているんだろう、俺。
 
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