上 下
69 / 490
第十章 反逆の男の娘

ボタンを押すのをためらいがち…

しおりを挟む
 俺は昨日の今日で博多駅に舞い戻っていた。
 一体何回、博多にくれば気が済むんだ?

 初デートのときのように黒田節の像の前で待つ。
 遅い……。
 待ち合わせ時間は10時なんだが。
 かれこれ、30分も待っている。
 なぜミハイルのときは俺より1時間ぐらい早くついているストーカー仕様なのに、アンナのときはこんなに時間がかかるんだ?

「お、お待たせ!」
「……」
 思わず見とれてしまった。

 オフショルダーのブラウスにチェック柄のプリーツミニスカート。
 前回会った時よりもアンナの白く透き通った素肌が、自然と目に入る。
 ドキドキが止まらない。
 
「どうしたの? タッくん?」
 首をかしげて俺の顔をのぞきこむ。

「いや……可愛いなって、思って」
「ホント? この服、タッくんが嫌いじゃないかって心配だったんだぁ」
 そっちじゃないって。
 おめーさんだよ。

「じゃ、じゃあ行こうか?」
「うん☆ ところでどこにいくの?」
 い、言えね~
 ラブホだよ☆ とでもいえばいいのか?

「そうだな……まあ個室だ」
 間違ってはいないぞ、俺。
「個室? ご飯屋さん? カラオケとか?」
 健全すぎて草。

「着いてからのお楽しみだ」
「ふーん」
 アンナは何も知らない。
 いや、知らなくてもいいことを知ろうとしているのだ。
 ねーちゃんのヴィッキーちゃんにバレたら殺されそう。

 俺はアンナと一緒に例の場所へ向かった。

 前回、ひなたと行ったときは俺からラブホに誘ったわけではないので、システムなどまったくわからん。
 初心者。
 わたし……はじめてなの。

 ラブホテルの前につくと、アンナの顔は真っ青になっていた。
「これって……」
「ああ、ラブ……ホテルだ」
「そ、そうだったんだ……」
 ドン引きじゃないですか。

「誤解するなよ、アンナ。俺はこの前、ひなたというJKを助けて、気絶していたところを介抱するために担ぎ込まれたにすぎない。なにもしていないぞ?」
 アンナが顔をしかめる。
「ひなた?」
 ちょっと、アンナさん? 顔がオコだよ? 可愛い顔しているけどさ。
「ああ、この前助けたJKだよ。俺の通っている一ツ橋高校の全日制コースの生徒だ」
「そうじゃなくて、なんで下の名前?」
 声が冷たい!

「いや……赤坂 ひなたって言うんだがな。彼女が下の名前で呼べと言うんだ。なんでもひなたは俺のラブコメ作品の取材対象になりたいそうだ」
 俺がそう言うと、アンナは黙ってうつむく。
 元気がないようには思えない。
 冷たい風が彼女の美しい金色の髪を揺らす。
 拳を作り、なにかを決意したように見える。

「許さない……アンナのタッくんを……」
 俺の勘違いだとは思うが、彼女の目から燃え盛る炎を感じた。

「いく!」
「へ?」
「ひなたっていう子がタッくんのはじめてを奪っていいわけがない!」
 その言い方だと誤解されません?
 俺、まだ童貞ですよ。キスもしたことないのに。

「さ、早く入ろう!」
 アンナは俺の手を強く握りしめる。
 嬉しいんだが、握力よ。痛すぎる。
 こういうところは男だよな。

「ちょ、ちょっと待て。アンナ」
「なに?」
 目、目が怖いって。
「わかっているのか? ラブホテルだぞ? 俺とアンナはまだ出会って2回目だ。初回から取材するには早すぎないか?」
 だって2回目でヤッちゃうビッチってことだぜ?

「なにか問題ある?」
 サイコパスじゃん。
 俺の意思は?
「さ、早く入りましょ☆」
「は、はい……」
 俺は彼女の圧に耐え切れず、強引にラブホテルの門をくぐった。

 中に入ると異様な空気が漂っていた。
 なんというか、ムンムンした感じ?
 熱気を感じる。
 それに換気されてないのか、嫌な臭いがする。
 俗に言うイカ臭いってやつ?

 アンナを見ると勢いで入ったはいいが、やはり緊張していて、縮こまっている。
 ガッチガチじゃん。

「大丈夫か、アンナ? やはり出ようか?」
「だ、だいじょうぶ……だよ?」
 額から汗が滝のように流れているんだが。
「チェックインしましょ……」
「ふむ…」
 合意のないホテルへの連れ込みはタブーと聞くが、これはアンナの許可をもらったと思っていいのだろうか?

 入口近くにタッチパネルがあり、部屋の番号と室内の写真が表示されていた。
 明るく光っている部屋が空いているようで、暗くなっているところは使用中……ということか。
 まあ、昼間から元気ねぇ~

 空いている部屋は1つのみ。
 一番上の階でなにやら、豪華な部屋だ。
 ベッドもダブルベッドが二つもあり、ジャグジー、スロット機、大型テレビ完備。
 ちょっとしたホテルより豪華じゃん。
 値段を見ると一万円……。
 マジかよ! ふっざけんなよ。
 貯金下ろしといてよかったぁ。

 俺はボタンを押して、少し奥にある受付に向かった。
 受付の人間は見えず、スモークガラスによって従業員の顔も俺たちの顔も互いに確認できないようになっている。
 どうしていいか、わからず突っ立っているとガラスの向こうから声をかけられた。
「一万円になります」
 ガラスの下の部分から手がニョキッと出てきて、トレイが雑に出される。
 感じ悪いな。
「領収書もらえます?」
「はぁ? ないですよ、そんなもん」
 ま、マジかよ。領収書は自分で書いてしまえ!
 一万円も払えるか。

 俺は支払いを済ませ、アンナと共にエレベーターへ向かう。
 一番上の階は6階。
 最上階だ。

 エレベーターが開いたとき、やはり前回のように別のカップルと鉢合わせする。
 一人は中年のおっさん。パートナーには不釣り合いの若いお姉さん。
 脂ののった中年はかなりダサい。
 対してお姉さんはタイトなミニスカで戦闘力が高い。
 夫婦じゃないな……いけない関係じゃね?

「おっと、ごめんね」
 ニヤつくおっさん。
 そう言うと、お姉さんの肩を抱いて立ち去ろうとする。
 だが、すれ違いざま、隣にいたアンナを見て、舌なめずりしていた。
 キモッ!
 だが、こいつは男だぞ?

 俺とアンナはエレベーターに乗り、最上階のボタンを押す。
 アンナはラブホテルに入ってから無言を貫いている。
 顔を真っ赤にしてうつむいているのだ。
 そりゃそうだろ、勢いだもんな。

「本当にいいのか? アンナ」
 再度、確認する。
 あとから文句を言われたら、困るしな。
「い、いいよ……タッくんの好きなことは全部、好き…だから」
 俺がいつラブホテルを好きって言ったかね?
「そうか…」
 
 チンッ! とベルが鳴り、目的地についたお知らせを受ける。

 6階につくと、前回とは違い、廊下が短いことが確認できた。
 そのことから一万円という高額な意味を一瞬で理解する。
 この部屋、いやこの階を貸し切り状態なのだ。
 広大な敷地を全部、俺たちが一万円で借りたのだ。
 所謂、VIPルームとかいうやつだな。

 扉の上の表札がチカチカと点灯している。
「来いよぉ 早くやっちまえよ~」とでも言いたげだな。

 俺はドアノブに手を回した。
 扉を開き、固まっているアンナを見つめる。
「さ、入ろう」
「うん……」
 入るときと状態が逆転してしまったな。
 こういうところは俺が率先してやってあげないと。

 あれ? 俺、アンナのことをガチで女の子扱いしてない?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

二十歳の同人女子と十七歳の女装男子

クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。 ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。 後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。 しかも彼は、三織のマンガのファンだという。 思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。 自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。

歩みだした男の娘

かきこき太郎
ライト文芸
男子大学生の君島海人は日々悩んでいた。変わりたい一心で上京してきたにもかかわらず、変わらない生活を送り続けていた。そんなある日、とある動画サイトで見た動画で彼の心に触れるものが生まれる。 それは、女装だった。男である自分が女性のふりをすることに変化ができるとかすかに希望を感じていた。 女装を続けある日、外出女装に出てみた深夜、一人の女子高生と出会う。彼女との出会いは運命なのか、まだわからないが彼女は女装をする人が大好物なのであった。

カジュアルセックスチェンジ

フロイライン
恋愛
一流企業に勤める吉岡智は、ふとした事からニューハーフとして生きることとなり、順風満帆だった人生が大幅に狂い出す。

おじさんとショタと、たまに女装

味噌村 幸太郎
恋愛
 キャッチコピー 「もう、男の子(娘)じゃないと興奮できない……」  アラサーで独身男性の黒崎 翔は、エロマンガ原作者で貧乏人。  ある日、住んでいるアパートの隣りに、美人で優しい巨乳の人妻が引っ越してきた。  同い年ということもあって、仲良くなれそうだと思ったら……。  黒猫のような小動物に遮られる。 「母ちゃんを、おかずにすんなよ!」  そう叫ぶのは、その人妻よりもかなり背の低い少女。  肌が小麦色に焼けていて、艶のあるショートヘア。  それよりも象徴的なのは、その大きな瞳。  ピンク色のワンピースを着ているし、てっきり女の子だと思ったら……。  母親である人妻が「こぉら、航太」と注意する。    その名前に衝撃を覚える翔、そして母親を守ろうと敵視する航太。  すれ違いから始まる、日常系ラブコメ。 (女装は少なめかもしれません……)

処理中です...