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第九章 スランプ作家

替え玉一杯は無料!

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「ふ~ん、ふ~ん♪」
 鼻歌交じりで赤坂 ひなたは洗面所で着替えている。
 もちろん、ドアは閉めてあるのだが……。

 なんか気分は童貞を捨てた感がある。
 事後というか……背徳感がパネェ。

「お待たせしました!」
 勢いよく引き戸を開く。
 あーら不思議、立派なリアルJKの出来上がり!
 相変わらずの校則違反しまくりなミニ丈。
 このJKが先ほどまで俺の股間とリンクしていたとは……(服の上からだが)
 思わず生唾ゴックン!

「じゃ、じゃあ、帰るか」
 俺の身体は回復しつつあった。
 少しの頭痛が残っていたが、赤坂から鎮痛剤をもらい、効きはじめたのだろう。

 まさかこの俺が制服を着たJKとラブホに入るとはな……。
 確かに取材の一つになるだろう。
 だが、相手が赤坂というのが引っかかる。

「どうしたんですか? センパイ?」
「い、いや……別に」
 なんとなく、頬が熱くなる。
「変なセンパイ」

 赤坂にホテルの支払いを聞くと「入るときに払った」という。
 金額を聞き、俺が財布から野口英世さんを数枚渡す。
 なかなか彼女は受け取ろうとしなかった。
 理由を尋ねると「貸しにしておきます」と答える。
 
 なんでじゃろ?


「本当にいいのか?」
「はい。今度、センパイと取材できる日が楽しみです♪」
「え?」
「だって私も取材対象の一人じゃないですか~」
 笑顔がこわっ!
「そ、そうか……」

 俺と赤坂はホテルの部屋から出る。
 細い廊下を真っすぐ歩くとエレベーターが見えた。
 歩きながらいたる所に扉が配置されていることに気がつく。
 各部屋の上には番号が割り振って有り、ナンバープレートが点灯している。
 見たところ、俺たちを含めてこの階は満室のようだった。

 そんなにおせっせしたいか!?

 エレベーターのボタンを押し、なんとなくドキドキする。
 赤坂をチラ見すると、彼女も同様に頬を赤らめている。
 きっと俺を助けたい一心で、ラブホに入ったのだろう。
 帰るときの恥なんざ、頭になかったんだろうな。

 チンッ!

 とエレベーターがご到着。

「あっ……」
 全く知らないカップルだった。
 大人しそうな若い女性と、ひ弱そうな男。

 特に男の方は赤坂が制服を着用しているせいもあって、「変なものを見てしまった」という顔で驚いていた。
 互いにすれ違いざまに「すみません」と会釈し、エレベーターを出入りする。

 というか、俺たちが出たばかりなのに、もう入室するのか?
 ラブホってそんなに回転率高いの?
 儲かりそう……よし起業しよう!

 ラブホから出ると、『先ほど』の現場に舞い戻った。
 福間と赤坂が揉めていた道路だ。
 アスファルトに目をやると、俺の血痕がわずかに残っていた。


「腹減らないか?」
「あ、そう……ですね」
 別に腹が減っていたわけじゃない。
 ただ、なんとなく気まずい雰囲気から逃げたかったんだ。

 めんどくさいので、俺の行きつけの店にする。
 ラブホの目の前のラーメン屋、『博多亭』
 というか、元々ここで一杯食べていくつもりだったからな。

「ここでいいか?」
「え……はじめてなのに、ラーメン?」
 ラーメンじゃ不満ってか!

「なんだ? 赤坂は豚骨ラーメン食べたことないのか?」
「ありますよ! 博多っ子なら食べるに決まっているじゃないですか!」
 ならば、純情であれ!

「じゃあいいだろ?」
「いいですけど……もっとムードが……」
 ぼそぼそと喋るので、俺はめんどくさくなってきた。

「なら帰るか?」
「あっ、待って! 食べます!」
「あー言えばこう言うヤツだな」
「センパイって女子に冷たくないですか?」
「別に」
「いじわる!」

 ~10分後~

「うーん、ここのラーメン、おいしいですねぇ♪」
 満面の笑みでラーメンをすする赤坂。
 さっきのムード重視発言はどうした?
 良い顔でラーメン食いやがって。
 なんだか、紹介した俺まで嬉しくなっちゃうだろ。
 
「フッ、この天才が見つけた秘境だからな」
「そこセンパイが自慢するところですか? 素直にこのお店のラーメンが美味しいって分かち合えばいいのに……」
 ええ、強要されたくない。

「あ、餃子も食べたくなってきちゃった」
「食えばいいだろ?」
「だって……」
 なぜか頬を赤らめる。

「大将! 餃子を一つ!」
「ヘイ、ありがとうございます!」
 俺が頼み終えると赤坂は不服そうな顔をする。

「どうした?」
「女の子が餃子を食べるときはもっと慎重にしてください!」
「なんで?」
「ホンット! センパイってデリカシーがないんですね」
 なにそれ? 美味しいの?

「いいですか? 餃子を食べたらニンニクの匂いがつくでしょ?」
「だったらどうした? ラーメンにもニンニクをたっぷり入れたらうまいぞ?」
 そう言って、俺は近くにあった下ろしニンニクをラーメンへ大量にぶち込む。
「はぁ……センパイに言った私がバカでした」

「ヘイ! 餃子お待ち!」
 店の大将が俺たちのテーブルに餃子を置く。

「うわぁ! 美味しそう!」
 怒ったり、喜んだり、忙しいやつだな。

「ところで赤坂」
「はい? なんでしょ?」
「お前の家はどこだ?」
「ブッ!」
 吹き出す赤坂。麺と汁が俺の顔にブッ掛かる。

「きったねぇな!」
「げほっげほっ! だってセンパイ……うちに…来たいんでしょ?」
「アホか」
 俺は持っていたタケノブルーのハンカチで顔を拭く。

「もう遅いだろ? 送るっていってんだ」
「え……どうして?」
 目を丸くして箸を止める。

「そりゃ、お前が女の子だからな……」
 ラーメンがうまい! うまい!
「女の……子……」
 絶句している赤坂を無視して、俺は大将に「替え玉、バリカタで!」と注文追加。

「ズルいですよ……こんなときだけ女の子扱いなんて……」
 なにをモジモジしとるか? 麺が伸びるぞ。

「別に。俺はこう見えて紳士だからな。マナーだろ?」
「私はそんな扱いされたことないですから……」
 そうか、こいつも曲がったことが大嫌いな性格だったな。
 まあこんな可愛げのないボーイッシュなJKは女の子扱いされないのも理解できる。

「誰と比較しているのか知らんが、俺は赤坂を女の子として対応している」
 言いながらも、大将が湯切りで持ってきたホカホカの替え玉をスタンバイ!
 替え玉をスープに入れてもらい、ズルズルとすする。
 やっぱうめえわ、この店。

「赤坂っていうのやめてください……女の子として扱ってくれるなら、下の名前で」
 口に手をやり、頬を赤らめる。
「え?」
「あの……ひなたって呼んでください!」
 いきなり叫ぶので、ラーメンを吹き出しそうになってしまった。

「りょ、了解……ところで、早くラーメンを食べろ。伸びるぞ」
「あっ、勿体なか!」
 そこで博多弁使うかね……。

 俺と赤坂……じゃなかった。ひなたはこのあとめちゃくちゃ替え玉しまくった。
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