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第八章 ミハイルの家族

しめはチャンポンで

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「さあ食え! 坊主」
「あ、いただきます……」
 目の前にあるのはグツグツと音をあげる鍋。
 博多名物、もつ鍋。
 なんで、暖かくなってきたというか、暑くなりつつある春に?
 こういうのは冬に食うのがうまいと思うんだが……。

 リビングには年季の入った大きなローテーブルがある。
 傷やはがれかけのシールがチラホラと……。
 たぶん、ミハイルが幼いころから使っているんだと思う。

 ヴィクトリアはあぐらをかき、ストロング缶片手にニカッと歯を見せて笑う。
 ほぼオヤジじゃん。
 ショーパンをはいているんだが、サイズが小さすぎてパンツが『はみパン』しているよ……。
 タンクトップもゆるゆるで、ブラジャー丸見え。着ている意味あんの?ってなる。
「坊主、お前も酒を飲め!」
「いや……俺、まだ未成年っすよ?」
「ち、つまんねーやつだな」
 そこは守ろうぜ?

「タクト、乾杯しようぜ☆」
 俺とミハイルは仲良く、並んで座っている。
 気のせいか、いつも以上にミハイルとの距離が近い。
 太ももがピッタリとくっつけてくるから、それ以上のサービスを期待してしまう。

「ああ」
 俺の右手にはアイスコーヒー。ミハイルはいちごミルク。
 グラスとグラスが音を立てて、宴会のベルが鳴る。

「「「かんぱーい!」」」
 ヴィクトリアは宙にストロング缶を挙げている。

「ところで、ミハイル。お前、どうやって酒を買えたんだ?」
「え? ふつーに買ってきたけど?」
 くわえ箸は良くないぞ、ミハイル。

「どうやって? お前はまだ未成年だろ。年齢確認はどうした?」
「は? そんなもん、毎回やってねーよ?」
 なん……だと!?

「バカヤロー! 私たちの『ダンリブ』だぞ! 顔パスだ、んなもん」
 ヴィクトリアは一気にストロング缶を飲み干すと、新しい缶を開ける。

「いやいや、ミハイルは15歳ですよ?」
「なに言ってんだ、坊主。ヒック……生まれてからこの方、席内で育ってんだ。あたいが成人してるのを『ダンリブ』も知っているから問題ねーの」
 問題大ありだ、バカヤロー! ダンリブに謝れ!

「でもですね……」
「しつけーやつだな。ヒック、いいか? あたいの店は生まれる前からオープンしている。席内じゃ、ちょっとした老舗なんだよ……ダンリブより歴史が古いっつーの!」
 つまりコミュティとして、連携が取れていると言いたいのか?
「なるほど……しかし、ヴィクトリアさんが買いにいけば問題ないのでは?」
「ヴィッキーちゃんって言えったろ、坊主!」
「す、すんません! ヴィッキーちゃん!」
 怖いやつにちゃん付けできるかよ……。

「うし。ヴィッキーちゃんは毎日パティシエやって疲れているから、ミーシャはお使いするのは当然にゃの☆」
 そして、また新しいストロング缶を開けるヴィクトリア。
 ちなみに500ミリ、リットルのサイズ。
 それをジュースのように飲むおねーちゃん。

「オレのねーちゃん、優しいだろ☆」
 わざわざもつ鍋をよそうミハイル。
 あーた、気を使える子だったのね。

「ありがと、ミハイル」
 小皿を受け取ると、彼は嬉しそうに笑う。

「なあ……坊主」
 俺とミハイルのやり取りを不機嫌そうに睨むヴィクトリア。

「は、はい! なんでしょう?」

「お前、ミーシャとどういう関係だ?」
 なにそれ? 結婚前の親父発言じゃん。

「えっと……俺とミハイルは……」
「ダチだよな☆」
 なぜか俺の腕にくっつくミハイル。
 ちょっと、やめてくれる?
 今の流れだと変な関係に見られるじゃん。

「ダチ……ねぇ……」
 ストロング缶を一気飲みすると、今度はウイスキーをグラスに注いだ。

「ねーちゃん、タクトっていいやつだろ☆」
「ふーむ……あたいはまだ坊主とはダチじゃねーからな」
 いや、オタクとダチになる必要性あります?

「よし、こうしよう! 坊主と野球拳して、あたいに勝ったらダチとして認めてやる!」
 いやいや、根本的に間違っているし、セクハラだし。

「絶対に負けるなよ! タクト!」
 なんか拳つくって「センパイ、ファイト!」みたいな熱意がすごい。

「まかせろ、ミハイル」
「言ったな、坊主。てめぇの『ぞうさん』を丸見えにしてやんよ!」
 卑猥なお姉さんだな、もう!


 ~10分後~

「ねーちゃん、もう許して!」
 泣き叫ぶミハイル。
「うるさい! ミーシャは黙ってろ!」
 既にウイスキーはグラスではなく、瓶を直で飲んでいるヴィクトリア。

「もうやめにしましょうよ……ヴィッキーちゃん」
「ああ!?」
 凄んでも無駄だよ。今のあんたの姿。

「ねーちゃん、もうパンツだけじゃん!」
 そうそう今のあんた、セクハラってレベルじゃねーぞ!
 パンティ一枚で重たそうなおっぱいがぶらんぶらん……。
 
「やかましい! まだ最後がある!」
 見たくないし、誰も得しないよ。この勝負。

「「ジャンケン、ポン!」」

「だぁ~、なんでそんなに強いんだ、坊主!」
 知らねぇよ、あんたが酔っぱらってからじゃね?

「しゃーねー、あたいの全部を見せてやんよ!」
 と言って、パンティに手をかけるヴィクトリア。
「ダメだよ、ねーちゃん!」
 それを必死に止めにかかる弟。
 健気だ……そして、グッジョブ!

「離せ、ミーシャ! 勝負に負けたらルールは守らんと気がすまん!」
「そんなこと守らなくていいよ、ねーちゃん」
 こんな家庭じゃまともに育つわけないよな……。

「あたいの名が廃るんだよ!」
 なにをこだわっているんだ。
「すんません、なにが言いたいんです?」
「あたいは『それいけ! ダイコン号』の総長なんだよ!」
「……」
 お前が犯人か!

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