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第七章 パニックパニック!

恋愛取材

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 俺は淫乱痴女教師、宗像先生により、下校することを強制停止された。
 なぜかミハイルも一緒だ。
 そして未だ白目で泡を吹いている白金もだ。

 宗像先生は気絶した白金を、ぬいぐるみのように片手で抱えると「ついてこい」と事務所まで案内した。
 一ツ橋高校の事務所には、奥に簡易面談室なるものがある。
 といっても、つい立もなく、事務所に入った者からは丸見えで丸聞こえ。
 プライバシーなんてもんはない。
 所々、破れた一人掛けのソファーが二つ。テーブルを挟んで反対側には二人掛けのソファーが一つ。
 今日はもう下校時間もあってか、事務所には俺たち4人だけだ。

 宗像先生は、乱暴に白金を床に投げ捨てる。

「げふっ!」
 
 衝撃でやっと目が覚める白金。
 ひどい起こし方だ。

 宗像先生はそれを見て舌打ちし、棚から賞味期限の表示も曖昧になりつつあるインスタントコーヒーの瓶を手に取った。

「お前ら、砂糖とミルクはいるか?」
「あ、俺はいらねーっす」
 以前飲んだらクソまずかったし、いろんな意味で怖いので。

「なんだと? 新宮……この美人教師のコーヒーが飲めないってか?」
 顔、顔! 生徒を見る目じゃねーよ。
 睨みつけるとか、どこの虐待教師だ。

「あ、俺はブラックで……」
「よろしい♪」
 その微笑み、脅しですよね。

「古賀はどうする?」
「オレはミルクも砂糖もたっぷりで☆」
「古賀は素直でいい子だなぁ♪ 甘ーくておいしいカフェオレをつくってやるぞ」
 センセー、カフェオレの意味わかってます?

「あいだだ……蘭ちゃん、わたぢも同じのお願い……」
 白金は地面を這いつくばって、一人掛けのソファーまでどうにか辿り着いた。

「日葵。お前は水だ。生徒でもなければ、客人でもあるまい」
 正式名称、不法侵入者だろ。
「蘭ちゃんのアホ」
 

 ~数分後~

「で? なにしにきた。日葵」
 宗像先生は白金の隣りのソファーに座り、まずそうなコーヒーをすする。
「なにって、私はお仕事だよ、蘭ちゃん」
「仕事……。ああ、新宮のことか?」
「打ち合わせだってば」
 いや、打ち合わせする場所を考えろよ。

「はぁ……日葵。お前は仮にも一ツ橋の卒業生だろが。生徒たちの見本になるような、大人の行動をとれ。いつまでも在校生気取りでいるな」
 至極、真っ当な意見だが、宗像先生から言われるとなんかムカつく。

「じゃ、さっさと終わらせろ……」
 ため息をつくと、宗像先生はスマホを取り出した。
 おいおい、お前が俺たちを事務所に呼んだ理由はなんなんだよ。
 ネットサーフィンするぐらいなら帰らせろよ。
 わかった! この女、寂しいんだろ。
 俺たちが帰ると、事務所でも家でも一人きりのアラサーだからな。


「では、DOセンセイ! プロットを拝見してもいいですか?」
「む……それがまだキャラ作りの途中で未完成なんだ」
 俺はミハイルの横顔をチラッと見た。
 ミハイルは得体の知れないコーヒーをおいしそうに飲んでいる。

「あら、筆の早いセンセイにしては珍しいですね。未完成でもいいので見せてください」
「か、構わんが……今度、白金と二人きりで打ち合わせじゃダメか?」
 額に汗が滲む。

「なんでです?」
 白金はキョトンとした顔でたずねる。

「もったいぶるな、新宮!」
 そこへ暴力教師がログイン。
 入ってくんなよ、一生スマホとお友達でいろよ。

「そうだよ、タクト!」
 ミハイルまで。しかもめっさ顔を真っ赤にしている。
 どこが怒るポイントだったの?

「この女子小学生とそんなに二人きりになりたいのかよ!」
 ダンッとテーブルを拳で叩く。
「ミハイル、勘違いするなよ。白金はこう見えて成人しているんだ」
「ウソだ! こんな大人みたことないもん!」
 ダダをこねるんじゃありません。

「失礼な! この白金 日葵ちゃんはれっきとしたレディーですよ」
 自分で自分のことを、ちゃん付けしてる時点で精神面が成人できてないな。
「まあ日葵は、体形がガキなのは見ての通りだ。こんなちっぱい女、放っておけ。それより新宮。なぜお前の小説を出さない? あれか、18禁の作品か?」
 ファッ!

「俺の作品はライトノベルです! ライトな作品じゃなくなってますよ」
「じゃあなんだ? 北神がほざいていたBLとかいうやつか?」
 くっ、宗像先生も腐りはじめたのか!
「違いますよ。俺のは真っ当なライトノベル」
「ジャンルは?」
「ら、ラブコメ……」

「……」
 なぜ沈黙する宗像女史よ。

「蘭ちゃん、今回、センセイが一ツ橋高校に入学した理由は知ってる?」
「は? 勉強だろ?」
 そうか、この人は知らなかったのか。俺の入学動機。

「違うよ、蘭ちゃん。センセイが初挑戦するラブコメ……でも、作家『DO・助兵衛』先生は取材しないと書けないタイプなのよ~」
 白金は『うちの子ダメなのよ~』みたいな世間話のように話す。
 かっぺムカつく!

「なに? じゃあ新宮は恋愛を体験しに一ツ橋高校に入学したのか?」
 宗像先生……そんなに大きな口開けて驚かないでくださいよ。
 俺に恋愛経験ないのが、おもしろいですか?

「タクトは取材対象がいるもんな☆」
 ミハイルが割って入る。
 こいつ……アンナのことは筒抜け設定なのか?

「なにを言っているんだ? ミハイル」
 俺が問い返すと、ミハイルは「あっ!」と声を出して、小さな唇を両手でふさいだ。
 誤算だったらしい。
 まったく。
「なにか知っているのか? 古賀」
 宗像先生の目つきが鋭くなる。
 ミハイルはガクブル、こうかはばつぐんだ!

「あ、あの……オレのいとこがタクトに恋愛を教えてくれるらしくて……」
 ファッ!
 アンナはそこまで言ってないぞ。
 墓穴を掘りすぎているぞ!
「ほう、古賀のいとこか……可愛いのか?」
 ニヤリと笑うと宗像先生のターゲットはミハイルへ向けられた。
「た、たぶん……」
 だって自分のことだもんな。

「センセイ! そんな話聞いてませんよ!」
 思わず身を乗り出す担当編集。
「お、落ち着け! まだ取材すると決まったわけじゃない相手なんだ……」
「なにをいうんだ、タクト! アンナは本気だぞ!」

「「アンナ?」」
 宗像先生と白金は息がピッタリ。
 見知らぬ女性の名前を聞いて、二人は目を合わせる。
 無言で「知っているか?」と問いたいのだ。

「古賀 アンナ……それがオレのいとこっす」
「ミ、ミハイル」
 もう知らねえぞ、俺は。

「よし。恋愛を許そう……」
 お前はどっから目線なんだよ、宗像。
「業務連絡です! 必ず恋愛を成就させてください!」
 その時ばかりは、白金の目は真っ直ぐだった。
 だからさ、その取材対象も彼女候補も男なんだってば。
 この隣りにいるやつ……。

「良かったな、タクト☆」
 なにを嬉しそうに笑ってやがんだ。
 可愛いな、ちくしょう!
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