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第四章 オタク訪問
しばしの別れ
しおりを挟む俺とミハイルは二人仲良く『朝帰り』した。
自転車を壁に立てかけて、裏口から自宅に足を踏み入れれば、そびえたつ2つの影。
「なにしてたの~ お兄様? ミーシャちゃん?」
不敵な笑みを浮かべるかなで。
「ホント~ 二人で夜中にナニをしていたのかしら?」
BL本を片手になにをいっているんだ、琴音母さん。
「な、なんでもないぞ!」
「「え~ ないわ~」」
かなでと母さんは、お互いの顔で『ねぇ』とうなづきあう。
「おばちゃん、かなでちゃん! オレがタクトを待っていただけだよ……仕事から」
「仕事ねぇ~」
「お外で待つ必要ありますか? ミーシャちゃん♪」
「そ、それは……」
もう勘弁してやってくれよ、変態母娘どもが。
「ミーシャちゃん。せっかくだから、朝ご飯食べていきなさい」
母さんは痛いBLエプロンをかけると、二階にあがった。
追うように妹のかなでも階段へと足を運ばせる。
しかし、なぜか俺たちへ笑顔で親指を立てている。
意味不明ないいねボタン。
「さあ朝飯でも食うか、ミハイル」
「う、うん」
なんか事後のような、ぎこちなさだな……。
ただコーヒーを飲んだだけなんだが?
「ところでミハイル」
靴を脱ぎ、階段前の『玄関』で訊ねる。
「なんだ? タクト」
ミハイルも二階へとあがる。
「その……かなでと『パジャマパーティー』なるものはしたのか?」
「うん、ちょー楽しかったぞ☆」
普通の妹のパジャマパーティなら、安心なのだが……。
「一体なにをしていたんだ?」
リビングのテーブルに腰をかける。
「んとっ……なんか女の格好した男の子がいて……」
ミハイルは口に人差し指をあて、視線は天井。
なにかを思い出しているようだ。
「ちょっと待て……それって『かなでのゲーム』か?」
「そうだよ? なんか女みたいな男の子がヒロインのラブストーリーだった」
「……」
なんてことをしてくれたんだ、妹よ!
「すまない……ミハイル。妹に代わって兄の俺が謝る」
深々と頭を垂れる。テーブルにゴツンとあたるほどだ。
「な、なんで謝るんだよ? けっこうその……エッチなシーンがたくさんだったけど、かなでちゃんの趣味だもんな。オレはいいと思うぞ☆」
か、神だ……JCがエロゲをやっている時点で、人生積んでいるのに……。
なんて心広い御方なんじゃ……。
「クッ……ミハイル。礼を言うぞ」
「ど、どういうこと?」
「あれも一応女なのでな……」
なんかちょっと泣けてきた。
「ミーシャちゃん!!!」
張本人がキタコレ。
「かなで。お前『パジャマパーティ』したそうだな?」
「ええ、しましたけど」
「初めて家にあがる友人に、貴様はなんてことをしてくれたんだ?」
「なんのことです? かなではただ自分の趣味をミーシャちゃんと分かち合いたいだけですわ」
分かち合っちゃダメなの!
「さあ、朝ご飯の登場よ!」
今日の朝ご飯は母さんお手製のホットサンドだ。
「召し上がれ♪」
「「「いただきまーす」」」
俺、ミハイル、かなでの三人はそろって手をあわせる。
ホットサンドはレタス、厚切りベーコン、きゅうり、薄焼き卵と具だくさんだ。
パンをギュッと潰すように、握って頬張る。
かじった反対側からケチャップとマヨネーズが、皿の上にポタポタと零れ落ちた。
ミハイルに目をやると、小さな口でリスがどんぐりをかじるように食べている。
顎も細いため、食べづらそうだ。
「はむっ……うぐっ、うぐっ、んん…」
なんで、この人の租借音はこんなにもいやらしく聞こえるんですかね?
食事を終えると、母さんが「ミーシャちゃんを駅まで送りなさい」と命令。
ま、命令されなくても、俺も送るつもりだったが。
真島商店街を抜け、すぐに真島駅が見えてくる。
とぼとぼと二人して歩く。
心なしか、ミハイルは元気がなさそうだ。
「なあタクト」
「ん? どうした?」
「タクトのL●NE……教えて」
「すまん、俺はL●NEはやらないんだ」
「そ、そっか……」
肩を落とすミハイル。
既に俺たちは駅の改札口の前だ。
「じゃ、じゃあ電話番号かメルアドは?」
「それなら構わんぞ?」
「じゃあ、交換しよ!」
すぐさまスマホを差し出すミハイル。
「そんなに焦らんでも、俺のアドレス帳が増えることはないぞ? 家族と職場以外は誰も登録してないしな」
事実である。
「オレがはじめてなんだな!?」
妙に食い気味だな。
「まあそうなるな」
「そ、そっか……」
なぜ笑う?
お前のアドレス帳も家族だけか?
俺は人生で初めて友達とかいう生き物、存在と連絡先を交換した。
「じゃあ、帰ったらすぐ電話すっからな!」
「え……」
「あとでな☆」
ミハイルは満面の笑みで、駅のホームへと去っていく。
途中、何度も振り返っては、俺に手を振っている。
しかし、俺も彼が電車に乗るまで見守っていた。
胸に穴があいたような感覚だ。
これは……さびしいのか……。
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