上 下
29 / 490
第四章 オタク訪問

かなでの秘密

しおりを挟む

 なんだかんだあって、俺のクラスメイト……。
 古賀 ミハイルは、初見のお友達の家に図々しくも晩御飯まで食べることとなった。
 まあこの件については我が母である新宮しんぐう 琴音ことねさんと妹のかなでの陰謀といえよう。


 4角形のテーブルには、母さんお手製の野菜ギョウザ、からあげ、トマトがふんだんに使われたスライスサラダ。
 俺とミハイルは仲良く隣りに座る。
 反対側に、母さんとかなでがニコニコと笑いながら、俺たちを見つめている。
 何やら嬉しそうだ。
 確かに、俺がこの家に知人や友人を連れてきたことは、あまり経験のないことであった。

「じゃあ、ミーシャちゃんとおにーさまの出会いに、かんぱーい♪」
 かなでがオレンジジュースを手にグラスをかかげる。
 と、同時にキモイおっぱいがプルプル震えて、かっぺムカつく。
「フッフ~ フッフ~ ミーシャちゃんも一緒に!」
 母さん、あんたまでちゃん付けかよ……。
 ちな、母さんはハイボール。

「あ、あの、かんぱい!」
 釣られるようにミハイルもグラスでご挨拶。
 ミハイルが選んだ飲み物は、アイスココア。

「タクト? どうした?」
 10センチほどの至近距離で俺を見つめるな!
 お前のエメラルドグリーンさんが、キラキラと輝いて、チューしたくなるんだよ(怒)
「んん……なにが?」
 平静を装う。
 俺が選んだのは『いつもの』アイスコーヒーだ。
 真島商店街の馴染みの喫茶店から購入している逸品だ。

「タクトもかんぱいしろよ☆」
 え? ここミハイルさんのおうちでしたっけ?
「ああ……かんぱーい(やるきゼロ)」

「「「かんぱーい」」」

「美味しいですわ~♪」
 といつつ、ゲップを豪快にするかなで。
「くわぁ~! このためのBLよねぇ」
 いや、母さんはいつもボーイズでラブラブしているじゃないですか。
「フゥ、おいし……」
 ミハイルさんたら、男のくせしてグラスを大事そうに両手で持っちゃったりして……。
 これって、ほぼほぼ女の子のしぐさなんすけど?

「しかし、古賀……お前、親御さんに連絡しなくていいのか?」
「オレ……父ちゃんと母ちゃんは死んでっからさ……」
 あ、これは地雷を踏んでしまったな。
 謝罪せねば。

「すまない、古賀……他意はない。謝罪する」
 律儀に頭を下げると、ミハイルが両手を振って慌てだす。
「な、なんでタクトがあやまんだよ! も、もう昔の話だからさ……」
 俺はこの時、一瞬にして思い出した。
 一ツ橋高校の宗像先生にクレームに行った際のこと。

『お前みたいな親御さんが二人そろって健在なのが当たり前……ってのが恵まれているんだ』

 こういうことか……ヤンキーにもヤンキーなりの事情があったのか。


「うう……ミーシャちゃん、かわいそうです!」
 泣きじゃくるかなで。
「私のこと『ママ』って呼んでいいのよ?」
 泣いてなくない? あんたのママってさ、BLのだろ?

「あ、あの、3人とも、ほんとーに気をつかわないで……オレはまだねーちゃんがいっからさ☆」
 健気にも笑顔でその場をおさめようとするミハイルに、俺は胸が痛む。
「ミハイル。お姉さんがお前を育てているのか?」
「ああ、ねーちゃんはすっげーんだぞ。オレより12歳年上でちょーかっこいいんだ」
 ちょーアホそうな姉上と認識できました。
「なるほど……つまり親代わりということか」
 ミハイルはこう見えて、苦労人というわけだ。

「かなで。そのお姉さまとお会いしたいですわ♪」
 まったく何を言いだすのやら。
「そうねぇ、タクくん。あなた今度ミーシャちゃん家にお母さんのお菓子を持っていてちょうだい」
 目を細くして笑う母さん。
 こういうときの琴音さんときたら『いかなったらBL書かせるぞ、オラァ』の意思表示である。
 そんな創作活動まっぴらごめんだ。

「了解したよ……」
「なっ! タクト……オレん家に、遊びに来たいの……?」
 おい、今度はテーブルというか『琴音さんのからあげ』がお友達になっているぞ。
「まあ興味はあるな」
「そ、そうか! やくそくな!」
 小学生かよ。

「ところでタクトのとーちゃんってまだ帰ってこないのか?」

「「「……」」」

「ん? どうしたんだ? みんな」
 首をかしげるミハイル。

 忘れていたあの男のことを……。
 新宮 六弦しんぐう ろくげん。これが俺の最悪のはじまりである。
 
「あいつか……死んだよ」
「そ、そうなの!? ……わりぃ、タクトん家もそっか……」
 泣いてはる。泣いてはるよ、ミハイルさんったら。
 あんな男のために。

「ちょっと、タクくん? 六さんはまだ生きてますよ?」
 微笑みが怖い。これは『オラァ! BLじゃボケェ!』と言いたいのである。
「そうです! おっ父様はかなでのヒーローですよ? 絶対におっ父様は死にません! おにーさまが一番知っているくせに……」
 いつになく寂しげな顔をするかなで。
「すまん、悪のりがすぎた。ミハイル、六弦とかいう父は生きているぞ」
 どこかでな。
「そ、そっかぁ……よかったぁ」
 胸を抑えて安堵している。
 え? ミハイルのとーちゃんだったの?

「つーかさ、ヒーローってどういうこと?」
 くっ! かなでの馬鹿者が!
 あんなやつを英雄と呼称するのは間違っているのに。

「それはですね……お父様、新宮 六弦は私を助けてくれたからですわ!」
 説明になってないぞ、かなで。
「どーいうこと?」
 ミハイルは脳内が8ビットぐらいしか処理能力がない。
 かわいそうだ。

「つまりはだな、ミハイル……実は、かなでという妹はな。六弦がよそから拾ってきた『もらい子』だ」
 俺のその一言に今までにみたいことのない表情。
 目を見開いて、大口を開けている。

「じゃ、じゃあ……かなでちゃんは他人の子なのか!?」
 なぜか俺の両肩をつかみ、激しく揺さぶる。
 そんなに揺さぶらないでぇ、俺はまだ首が座ってないの~
「そうだ、かなでは震災で孤児になり、そこを六弦とかいうバカが助けにはいったんだ」
「じゃ、じゃあ、タクトとかなでちゃんは血が通ってないのか!?」
 襟元をつかむミハイル。
 なにこれ、ほぼほぼ恫喝じゃないですか。

「そういうことですわ♪ だから私とおにーさまはイケナイ関係もアリということですね♪」
 サラッとキモイことをぬかしやがって。
「タクト……おまえ。かなでちゃんと何べん、風呂はいった!?」
 顔真っ赤にしてるぅ~ しかめっ面だし。こ、怖すぎ。
「し、知らん」
「ウソだっ!」
「いやですわ……この前も入ったじゃないですか~ おにーさま♪」
「……」
 沈黙するミハイル。

「ち、違うぞ? ミハイル。あの日もあいつが勝手に入ってきたんだ……お、俺にやましい気持ちは一切ないぞ」
「許さない!」
 え? 絶対に?

「まあまあ、ミーシャちゃん。なんなら今日は泊まっていけばどうかしら? お風呂も沸かすから、おっとこのこ同士仲良く入りなさい」
「か、母さん!?」
「許す☆」
 めっさ笑顔ですやん、白い歯が芸能人みたい。
「かなでも入っていいですか!?」

「「絶対にダメ!」」

 この時ばかりは、俺とミハイルの息がピッタリでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

トリビアのイズミ 「小学6年生の男児は、女児用のパンツをはくと100%勃起する」

九拾七
大衆娯楽
かつての人気テレビ番組をオマージュしたものです。 現代ではありえない倫理観なのでご注意を。

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

二十歳の同人女子と十七歳の女装男子

クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。 ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。 後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。 しかも彼は、三織のマンガのファンだという。 思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。 自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

処理中です...