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第三章 はじめてのがっこう
おひるごはん(挿絵あり)
しおりを挟む地獄のような授業は一旦、休憩。
そうおひるごはん!
まってましたぁ~
こちとら、十七歳の育ち盛りだからね。
おまけに夜中に新聞も配達しているわけだ。
腹なんて減りまくりだわな。
「いっただきま~す!」
律儀に弁当箱の前で手を合わせる。
左を見ると、眼鏡女子の北神ほのかが、黄色の小さな小さな弁当箱を机の上に出している。
え? マジでそれで足りるの?
俺、いやなんだよね。食事をちゃんと人前でできないヤツってさ。
だってあれだよ。食事をするってのはその人の家柄がでるわけよ。
作法だのなんだの……女の子は食事の時が一番、地が出るってね!
まあ別に俺もそんなに作法的には良い方ではないのだが。
しかし、あれだな。
この一ツ橋高校も中々にブッ飛んだ高校だというのが、よくわかる。
喫煙OK、レポートも丸写し、教師もアホ。
そして現状もだ。
俺や北神みたいな非リア充、つまり真面目なやつら……しかも女子のみ!
が、弁当を持参していて、それ以外の奴らはみんな外食に出た。
赤井駅近隣の定食屋やショッピングモールで昼食をとるのだろう。
それはリア充グループだけではなく、非リア充の男子共も同様だ。
今の教室内は俺と数人の女子だけという、とてもさびしいというか、うらやましい環境と言えるね。
ハーレム、ひゃっほ~い!
しかし、どこでもイレギュラーはいるものだ。
右だよ、右。
ムスッとした顔して、座っているのさ。
例の女男のヤンキー、古賀 ミハイル。
「フン」
飯も食わず、何をイラついているんだ。
ダイエット中か?
「なんかこういうの。久しぶりでテンションあがるよね♪」
嬉しそうに笑う、北神 ほのか。
「そうか? 正直、ひと段落しただけで、このあとの授業は体育だぞ?」
「あ……私、苦手なんだよね」
くわえ箸よくないぞ、北神。
「まあなんだ、適当にやればいいだろ」
「でも、体育の指導って宗像先生なんでしょ?」
ファッ!
「あのババアが!?」
「なんか、宗像先生って本当は日本史の先生みたいだけど……人が足りない? とか」
いやいや、どんだけ貧乏なんだよ、この学校。
「そうか……」
「チッ」
なぜそこで舌打ちする? ミハイル。
「あれ? 古賀くんは弁当食べないの?」
気にかける北神。
「ほ、ほのかには……関係ないだろ」
ミハイルさんまで下の名前で呼ぶの!?
「ごめんなさい……朝のこと、まだ気にしてるの?」
例のミハイルがハーフってことさね。
「なんのことだよ?」
「え……だって……」
「北神、放っておけ。こいつはあれだ。いわゆる中二病全盛期なのだよ」
「それって差別じゃ……」
可哀そうこの子……みたいな顔する北神。
「ちゅーにびょう? なんだそれ?」
やはり理解できていない。かわいそうなミハイルちゃん。
「中二病っていうのはね。えっと、私も詳しくないけど、思春期とか反抗期とかに起こりやすい心境の変化みたいな?」
北神センセイ! 教えなくていいから!
「日本語で話せよな」
いや、話しているだろ。
「とりあえず、古賀。外でメシ食ったらどうだ?」
俺の問いに、ミハイルは顔を赤くしてそっぽ向く。
「べ、別にタクトにはかんけーねぇじゃん……」
「おい、体育が次にあるんだ。空腹はよくないぞ」
「そ、そうだよ……」
それって『何章』の話? 北神。
野獣的なやつは、どこかでコソコソ話してあげてください。
「お財布忘れたんだよ……」
「なるほどな」
俺が納得すると、彼は頬を赤くして机とにらめっこ。
「つまり、お前は金がなくて、俺たちの弁当を食っている様を眺めているわけだな」
「べ、別に見たくて見てるわけじゃないってば……」
「お腹すかない?」
「す、すいてないよ……」
いや、めっちゃグーグーいっているよ。
「おい、古賀。俺のお手製弁当をわけてやる」
「はぁ? なんでタクトが作った弁当なんて!?」
「新宮くん、優しい」
フッ、これぞ琢人マジック。
やさしさと見せかけて女の子にアピールしておく。
「別にいらないって!」
「いいから食え、味は上手くも不味くもない。なぜなら、卵焼き以外、俺は作れん。その他は全部冷食だ」
「はぁ? タクト。マジでいってんのかよ」
ミハイルは俺の料理下手がよっぽど気になるのか、食い入るように顔を寄せる。
2つのグリーンアイズがキラキラと光り輝く。
いやぁ、女だったらな……ときめくんだろうけど。
「そうだ。俺は料理が全くできん」
「ハハハ! 料理できないとか、ダッサ☆」
今日はじめて見る笑顔だな!
「それで、タクトは他に作れないの?」
「ああ、卵焼きだけはプロレベルだ」
「え~ どれどれ……」
北神が身を乗り出して、俺の弁当箱をのぞき込む。
ちょっと北神さん、横乳。ひじぱいしているんすけど。
「うわっ! ホント、焼き方が超きれい」
「だろ? 俺は卵焼きだけを極めて早十年、もうあれだな。お店出せるレベルだぞ」
「ダッセ、他にもレパートリー増やせよな」
ミハイルからそんなワードが出るとは……。
「いいから、お前も食え」
弁当箱をミハイルの机に移す。
「やっ、マジでいらないって……」
「なぜそう頑なに拒む?」
そしてまた顔を赤らめて、今度は俺の弁当箱が友達と追加されたか。
「正直、悪いって思うんだよ。タクトの分が減るだろ……」
「構わん。今の行為を止めることで、古賀が体育中に倒れてしまう方が俺は嫌だ」
ミハイルは目を丸くして、俺を見つめる。
エメラルドグリーンの瞳が輝く。
うわぁ、キスしてぇ……。
「もういい!」
そう言って弁当箱を取り上げた。
「あ……」
ミハイルは取り上げられた弁当箱を名残惜しそうに、目で追う。
「こうなったら強硬手段だ」
俺は箸で卵焼きを掴むと、ミハイルの口元まで持ってきた。
「ほれ、食え」
「なっ!」
顔を真っ赤にさせて、にらめっこ。
これってなんの罰ゲーム?
「いいから、早く食え。級友としての命令だ」
「わ、わかったよ……」
そう言うと、ミハイルは小さな薄紅の唇で、俺の卵焼きを頬張る。
なにこれ? 超かわいいんですけど。
あれだよ……あのグラビアアイドルとかのアメとかアイスとかペロペロしてるやつ、あるじゃん。
疑似てきなやつ。
そっくりなんだよね。
しかも、こいつの口は女の北神より小さいくてさ。
「んぐっ、んぐっ……」と食べ方が小動物みたいでめっちゃ可愛い。
しかも、卵焼きを食べ終えたあと、箸に唾液の糸まで垂らすといういやらしさ。
こいつは女だったら相当やばい女だったろうな。
「うまっ……」
「だろ?」
「ああ! すごくうまい! こんなうまい卵焼き食ったの初めてだ!」
そういうミハイルは子供のように「もっとくれくれ」と口を開いている。
やべっ、別のものを入れたくなる。
「ほれ、今度は白飯と一緒にくえ」
「うん」
いや、めっさ素直じゃないすか。古賀さん。
「今度は冷食なんてどうだ?」
「いやだ! 卵焼きがいい」
駄々をこねるんじゃありません! 好き嫌いする子はダメですよ。
「わ、わかった……そんなに気に入ったか?」
「うん! 大好きになった!」
それって俺のこと? いや、違うよね。違ってください。
「ほれ、これで最後だ」
「うん☆」
ミハイルは結局、俺の卵焼きを全部平らげてしまった。
ちくしょー! でもいいもん見られたから許してやろう。
「その、悪かったよ……」
「何がだ?」
「タクトの弁当、食べちゃってさ……」
なんかいたずらしたあとの子供みたいに落ち込んでるな。
「別に構わん。俺がやりたくてやっただけだ」
「そ、そっかぁ☆」
おいおい、お前また机と友達になっているぞ。
「尊い……」
「「は?」」
俺とミハイルは思わず、息がピッタリになってしまう。
北神 ほのかは頬に手を当て、うっとりと俺たちを見つめている。
「な、なんのことだ? 北神」
「お二人の関係が……」
「ほのか。なにを言っているんだ!?」
席を立ちあがるミハイル。
「だって、男子と男子が『お口あ~ん』なんて中々見られるものじゃないもん……」
こいつは『あっち』サイドだったのか。
「ほのか? 具合でも悪いのか?」
くっ! やはり、リア充のミハイルでは理解できまい。
「いいか、古賀。北神は今、悦に入っている」
「えつ? なんか楽しいことでもあったのか?」
「つまりだな……この北神 ほのかというJKは腐っている」
「え? く、くさってんの!?」
そんな真顔で心配せんでも……もう手遅れだろ。
「ほ、保健室に連れていこっか?」
急に取り乱すミハイル。
「落ち着け。腐っているという意味が違う。こいつは女として腐っているのだ」
「え?」
「はぁ、尊い……ステキ」
この高校は、やはりどいつこいつもアホばかりだな。
「古賀、ちょっと待ってろ。すぐに食べ終わる」
「なんで?」
「お前は知らない方がいい」
残りの弁当をかっこむと、リュック片手に立ち上がる。
「次は体育だ。古賀も早くいこう」
「でも……ほのかの様子が」
「気にするな。あいつにとって俺たちはご褒美なんだよ」
「なんの?」
「尊い……」
そう言いながら、俺たちを腐った目でみつめる北神。
クッ! こんなところにも生息していたのか。
「早く逃げるぞ、古賀」
ミハイルの細い腕を引っ張って、教室を出る。
廊下に出たところで、「すまんな」と一応あやまっておく。
「べ、べつに……」
だからなんでそんなに顔を真っ赤にしているんだ?
「さあ、武道館に向かうぞ」
「あ……待ってよ」
非リア充の俺とリア充のミハイル。
決して相容れない関係だと思っていたのに、まさか初日でここまで関わるとはな。
まあ手を繋いで感触は悪くなかったけどね。
小学校の遠足以来でしたけどね!
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