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第一章 俺にしか女に見えない男の娘

赤髪のギャルとハゲ

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「おまえ! もういっぺんいってみろ!」
 少女のような少年は顔を真っ赤にして激昂している。

「だから、かわいいって思ったことが何が悪いんだ?」
「この……」
 拳を振りかざしたその瞬間だった。


「ミーシャ、こんなことでなにやってんのよ♪」
「おいおい、ミハイル。お前、初日からケンカかよ? 退学すんぞ」


 片方は赤色に染め上げた長い髪を右側で1つに結んだミニスカギャル。
 スカートの丈がミニすぎる。
 床に腰を下ろしている俺からはチラチラと言うよりはパンモロだ。

 もう片方は対照的に髪の毛一本もないスキンヘッド。ガチムチなマッチョで老け顔。
 四十代ぐらいに見える。

「ミハイル、こいつ。ヤンキーじゃねーだろ? ダメじゃないか。カタギに手出しちゃ……」
 カタギってあんた……。
「うるせー! こ、こいつはオレのことを……」
「なんだ? ケンカでも売られたのか? そんなヤツには見えんけど」
「それはその……」
 と言って顔を赤らめる。
 いやもう男と分かったからには、俺は萌えないよ。

「あんちゃん、大丈夫かい? ほら」
 と言って、俺に手を差し出す。
 あれなにこのデジャブ。なんか今日で2回目じゃない、手を貸されるのって?

「あ、ありがとうございます……」
「ハハハ、敬語なんていらねーよ。タメ口でいいっての!」
 そう豪快に笑うハゲは頼もしささえ感じる。
「いや、でも年上の方は敬ないとですね……」
 俺がそう言うと赤髪ギャルが吹き出す。
「年上って! あんたこそ、年いくつ?」
 お前がタメ口かい!

「俺は十七だけど」
「あーしもこのハゲも十七だよ」
 と言って腹を抱えて笑っている。
「リキ。あんたがハゲてるからだよ!」
 いや、ハゲは関係なくて老け顔のせいだと思いますけどね。
「ああ? ハゲてねーよ! 俺は剃ってるって言ったろが!」
 タコがゆでダコになる……。
 心中お察しいたします。

「まあいいや、俺は千鳥ちどり りき。そんでこっちのバカ女は花鶴はなづる ここあ。そんでお前さんは?」
 いや聞いてもないし、なんなの。この身勝手な暴力からの自己紹介タイム。
 あのパンチはヤンキーになるための通過儀礼なの? 俺、ヤンキーとかなりたくないよ?

「俺は新宮。新宮しんぐう  琢人たくとです」
「だからタメでいいってんだろ」
 そう言って俺の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回す。
「はぁ……」
 俺のセンサーではハゲの千鳥がコミュ力、2万5千。
 ギャルの花鶴が3万といったことろか。

「ねぇ、琢人ってさ。オタクでしょ?」
 花鶴はニタニタと意地悪そうな顔で俺を見る。
 てか、女子に初めて下の名前で呼ばれたわ。惚れちゃいそう。
「まあオタクとは自覚しているな」
「じゃあさ、今度からオタッキーね」
「それ悪口だろ。やめろ、断る」
「ダメダメ、もうあーしは決めたんだからさ♪」
 決めたんだからさ♪ じゃねー。返せよ、俺の純情。

「いや、俺もオタッキーには反対だな」
 なんか嫌な予感。
「俺が思うにオタクで琢人だろ? タクオでいいだろ?」
 よくねー。なんかもっとランク下がっている気がする。
「人の外見で遊ぶな。怒るぞ」
「ハハハ、お前。いい度胸してんな」
「それはこっちのセリフだ」
 なぜ俺は非リア充でありながら、ヤンキーやギャルとトークをしているのだろう。
 こいつらのコミュ力は半端ない。その力が要因か。

「そうだ、肝心のこいつを忘れてたぜ。タクオを殴った張本人」
「……」
 未だ女男は顔を赤らめて、うつむいている。

「おい、ミハイル。自己紹介して仲直りしろよ?」
「そうだよ、ミーシャ。オタッキーもこれからウチらと同じ高校じゃん」
 いや、一括りにしないで。

「……」
「しゃーねーな」
 そう言うと、千鳥は女男の頭を無理やり、下げさせる。
「悪かったな、こいつの名前は古賀こが ミハイルってんだ。年は俺らより二個下でまだ十五。これから三年間よろしくな!」
「……」
 黙ってうつむいている。
 こいつもコミュ障なのか?

 咳払いして、改めて挨拶した。
「俺にも不手際があったかもしれない(知らんけど)。その事については謝罪する」
「いいってことよ!」
「そうそう、あーしらクラスメイトじゃん!」
 コミュ力たっけー。
「とりあえず、よろしく」
 依然として古賀 ミハイルは顔を赤らめたまま、床を見ている。
 床が友達なのかな?
 笑う千鳥と手まで振ってくれる花鶴を残して俺は教室に戻った。
 そこでやっと気がついた。

「トイレ、行き忘れた……」
 こうして、俺の最低最悪の入学式。
 高校生活がはじまったのだ。
 

 一ツ橋高校を後にした俺は駅のホームでクソ編集部の『ロリババア』に電話した。
 忘れているかも知らんが、一応俺はライトノベル作家。
『ロリババア』とはこの動物園(一ツ橋高校)を薦めた張本人であり、凶悪犯だ。
 怒りでスマホを持つ手が震えていた。
 しばらくベル音が聞こえはするが、一向に出ない。

「クソ、あのロリババアめ!」

 俺はメール作成画面に移り『クソ編集、騙しやがったな』と送る。
 するとすぐに返信があり『センセイ、ご入学おめでとうございます! センセイが高校とか、草生える』とあった。
 電話を無視したことにイラついた俺は『お前の身体(特に股間)には草は生えないだろ?』とディスる。

 よし、明日にでも退学しよう。
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