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玉子と卵
①
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カロルのおいたから一週間。
彼女は謹慎中のため、マリナは平和に過ごしていた。
面倒がって受けていなかったハンターランクのアップ試験にもすすんで受けに行くほど、マリナの心は穏やかである。
毎食、誰の邪魔も仕事の面倒事も入ってこない、至福の時間を過ごせているからかもしれない。
そんなマリナは、今日も会議前にいつものブランチを済ませようと食堂へ。
前日に食べ損ねようが、休日明けだろうが、結局いつもの時間にご飯を食べるのがマリナであった。
今日も賑わう食堂で、マリナの視線は相変わらず“本日のメニュー”と書かれた黒板一択。
しかも珍しく凝視だ。
黒板に穴でも開けるのではないかというほど、マリナはとある言葉を見つめていた。
“オムライス”キターーーーッ!!
何でも作れて全てが美味しい物を提供する食堂のマスターが、唯一出さないメニュー“オムライス”。
食堂の料理人はマスターだけではないが、責任者はマルセルマスターか副マスターのおネエさまだ。
彼らは休みを交代で取るのだが、そのマルセルが休みの日で更に玉子が大量に入荷された週にしか食べられないおネエさま特製オムライス。
マルセルには悪いが、マリナの一番の好物であったりする。
月に一回食べられるかどうかのため、余計に食べたくなるのだ。
今週良いことばかり起きているマリナは、早速オムライスを頼み、カウンター前で待つ。
目に見えてウキウキしている彼女は、カウンターに手を添えて体が左右にふわふわと揺れている。
いつもの野郎共は既にノックアウトだ。
そんな野郎共とマリナに冷めた目を寄越しながら、アツアツのオムライスが乗ったトレーを差し出したダニエラ。
彼女の武骨な手なのに繊細な仕草で差し出されたオムライスは、マリナにとって輝く宝の山である。
マリナの目はキラキラを通り越してギラッギラに輝いていた。
目から光線が出そうな勢いのマリナは、ふと気になったことを厨房へ戻ろうとする背に聞いた。
「ネエさん。ついこの間もオムライスでしたよね? 私的に嬉しいけど」
「ん? ああ、珍しいタマゴが手に入ったのよ」
「珍しいタマゴ? コレ、いつものコッコのオムライスじゃないの?」
「ええ。ロック鳥のタマゴよ。マルセルが大量に貰ってきたの」
「……どこから?」
「さあね?」
ロック鳥の卵は硬い。
文字通り“岩鳥”なのだが、成体自体は他の魔物より少し皮膚が固いだけで済む。
では何故“岩”がつくのか。
それは、彼らのタマゴが岩並みに大きいし硬いからだ。
生まれたばかりの人の子ほどの大きさで、落としても割れないタマゴ。
とてつもなく美味しいのだが、なんせ割れない。
そのため一般では流通していないし、高価だ。
あのタマゴ……硬かったよね?
含みのある物言いをしたダニエラの“貰ってきた”発言よりも“どうやって割ったのか”が気になってしまい、マリナは思わずダニエラと出来立てのオムライスを交互に見ていた。
見てないで食べなさいと瘤を貰うまで、ダニエラを見つめていたのだ。
頭に瘤、手には特製オムライスを携えて、いつもと同じように隅に座るマリナ。
彼女の顔はギラギラな瞳に瘤が痛いのか涙まで浮かべているものだから、ギラギラが更にパワーアップしているようにも見える。
窓辺の光が銀髪に反射して顔周りを明るくしているので、ギラギラな朱の瞳をこれでもかと強調させているようにも見えて、目に痛いなと思ったダニエラは急いで厨房へと引っ込んでいた。
他の野郎共にこれ以上被害者が増えようとも、ダニエラには関係ない。
彼女は特製のオムライスを淡々と作るだけだ。
そんなダニエラとは反対に、黄色の山を黙々と口へ運ぶマリナをじっと見つめる子もいる。
ギルド入り口から見つめる黒い瞳にも気づかず、マリナはオムライスを堪能できて満足気な表情でお茶を啜っていた。
頭の瘤も治さずに。
◇
今日の会議室は、この間とは真逆。
マリナが瘤を治してから入室した時には、現在業務中の者とアドルフ以外全員揃っていた。
業務内容が少し特殊な事が多い王都ギルドは、万年ギリギリの人数でギルドを回している。
ギリギリの人数と言っても、誰かが休みに入っても回せるくらいにはいる。
それでも他のギルドよりも人数は少ないのだ。
その王都ギルドに明日から新卒が入るため、本日より社員寮へ入寮するのだ。
今はその顔合わせということになる。
昨年試験合格者はいたが少数過ぎて、先に地方へ回されたため入らなかった新人。
それが、今年は二人も入ってくるらしい。
嬉しいことに男女一人ずつ。
外受付は救助目的が多いため男女関係なく配属されるが、男性が多かったりする。
あの試験に合格しても、大概が救助活動の無い内受付を希望するからだ。
マリナは体を動かす方が好きなため、外受付を希望した数少ない女性の内の一人。
というより、女で外を希望したのは初代受付についた人と彼女だけだったりする。
また、男性陣は花形の騎士科を希望する者が多いため、中々ギルド職員になりたがらない。
職員希望者は怪我等を理由にハンターから転職する人が多いのもあるし、女性陣が内勤務を希望するから男では内勤務になれなかったりするのもある。
素材マニアや解体マニアは、悲しいことに内には配属されず外勤務になってしまうので、各々救助活動中に勝手に収集したり捌いたりしていたりする。
――そしてミランに怒られるまでが大概セットである。
今回の二人は果たしてどちらを選ぶのか。
まあ、どちらを選ぶにしても試用期間中は両方の業務に携わるため、希望は関係なかったりするのだが。
ミランが新人二人について簡単に説明していると、二人を連れたアドルフが入ってきた。
こちらは先程まで、ギルド長室で簡単に説明を受けてきたようだ。
「じゃあ、簡単に自己紹介してください」
ミランに促され、女の子の方がズイッと前に一歩出る。
彼女の黒い瞳は、何故かマリナをじっと見ている。
当のマリナは、先程食べたオムライスが次はいつ食べられるだろうとボケッと考えていた。
「救助隊育成科卒のエメリーヌです。ギルド内受付を希望します。マリナさんには負けませんッ」
「「「…………」」」
急激に現実へと引き戻されたマリナは、全く状況を理解できていない。
そもそも、この場にいるエメリーヌ以外全員よくわかっていない。
何故いきなりマリナに?
マリナは彼女に何かしたのか?
いや、していたらこんな空気にはなっていない。
では何故?
を脳内で繰り返している。
頼れるミラン副長の頭にも疑問符が並ぶ中、この空気をブッた斬ったのは、長いピンクブロンドの髪を手で払うエメリーヌに、隠れるような位置にいたもう一人の新人だった。
怖いもの知らずの新人なのか、緊張しすぎて状況を理解していないのか。
多分後者だと思われる彼は、エメリーヌの長い髪を避けるようにヌルッと出てきた。
「……ぼぼ、ぼっくは、ブレーズでづ! きぼっ希望はっ、で、できれば……ぃたいっが、ししした、いですぅ……」
「「「…………」」」
カミカミに噛みまくったブレーズは、手先をずっとモジモジさせている。
希望配属も何かわからず。
彼も一応学院卒なのだが、彼の言動を見るに不安しかない一同。
何故かマリナに宣戦布告するエメリーヌに、優秀さをどこかへ忘れてきたかのようなブレーズ。
前途多難過ぎる新人二人に、流石のミランも眉間に手を当てている。
そんな中マリナは、良いことが続いたのはやはり悪いことの前触れであったのだと、一人肩を落としていた。
彼女は謹慎中のため、マリナは平和に過ごしていた。
面倒がって受けていなかったハンターランクのアップ試験にもすすんで受けに行くほど、マリナの心は穏やかである。
毎食、誰の邪魔も仕事の面倒事も入ってこない、至福の時間を過ごせているからかもしれない。
そんなマリナは、今日も会議前にいつものブランチを済ませようと食堂へ。
前日に食べ損ねようが、休日明けだろうが、結局いつもの時間にご飯を食べるのがマリナであった。
今日も賑わう食堂で、マリナの視線は相変わらず“本日のメニュー”と書かれた黒板一択。
しかも珍しく凝視だ。
黒板に穴でも開けるのではないかというほど、マリナはとある言葉を見つめていた。
“オムライス”キターーーーッ!!
何でも作れて全てが美味しい物を提供する食堂のマスターが、唯一出さないメニュー“オムライス”。
食堂の料理人はマスターだけではないが、責任者はマルセルマスターか副マスターのおネエさまだ。
彼らは休みを交代で取るのだが、そのマルセルが休みの日で更に玉子が大量に入荷された週にしか食べられないおネエさま特製オムライス。
マルセルには悪いが、マリナの一番の好物であったりする。
月に一回食べられるかどうかのため、余計に食べたくなるのだ。
今週良いことばかり起きているマリナは、早速オムライスを頼み、カウンター前で待つ。
目に見えてウキウキしている彼女は、カウンターに手を添えて体が左右にふわふわと揺れている。
いつもの野郎共は既にノックアウトだ。
そんな野郎共とマリナに冷めた目を寄越しながら、アツアツのオムライスが乗ったトレーを差し出したダニエラ。
彼女の武骨な手なのに繊細な仕草で差し出されたオムライスは、マリナにとって輝く宝の山である。
マリナの目はキラキラを通り越してギラッギラに輝いていた。
目から光線が出そうな勢いのマリナは、ふと気になったことを厨房へ戻ろうとする背に聞いた。
「ネエさん。ついこの間もオムライスでしたよね? 私的に嬉しいけど」
「ん? ああ、珍しいタマゴが手に入ったのよ」
「珍しいタマゴ? コレ、いつものコッコのオムライスじゃないの?」
「ええ。ロック鳥のタマゴよ。マルセルが大量に貰ってきたの」
「……どこから?」
「さあね?」
ロック鳥の卵は硬い。
文字通り“岩鳥”なのだが、成体自体は他の魔物より少し皮膚が固いだけで済む。
では何故“岩”がつくのか。
それは、彼らのタマゴが岩並みに大きいし硬いからだ。
生まれたばかりの人の子ほどの大きさで、落としても割れないタマゴ。
とてつもなく美味しいのだが、なんせ割れない。
そのため一般では流通していないし、高価だ。
あのタマゴ……硬かったよね?
含みのある物言いをしたダニエラの“貰ってきた”発言よりも“どうやって割ったのか”が気になってしまい、マリナは思わずダニエラと出来立てのオムライスを交互に見ていた。
見てないで食べなさいと瘤を貰うまで、ダニエラを見つめていたのだ。
頭に瘤、手には特製オムライスを携えて、いつもと同じように隅に座るマリナ。
彼女の顔はギラギラな瞳に瘤が痛いのか涙まで浮かべているものだから、ギラギラが更にパワーアップしているようにも見える。
窓辺の光が銀髪に反射して顔周りを明るくしているので、ギラギラな朱の瞳をこれでもかと強調させているようにも見えて、目に痛いなと思ったダニエラは急いで厨房へと引っ込んでいた。
他の野郎共にこれ以上被害者が増えようとも、ダニエラには関係ない。
彼女は特製のオムライスを淡々と作るだけだ。
そんなダニエラとは反対に、黄色の山を黙々と口へ運ぶマリナをじっと見つめる子もいる。
ギルド入り口から見つめる黒い瞳にも気づかず、マリナはオムライスを堪能できて満足気な表情でお茶を啜っていた。
頭の瘤も治さずに。
◇
今日の会議室は、この間とは真逆。
マリナが瘤を治してから入室した時には、現在業務中の者とアドルフ以外全員揃っていた。
業務内容が少し特殊な事が多い王都ギルドは、万年ギリギリの人数でギルドを回している。
ギリギリの人数と言っても、誰かが休みに入っても回せるくらいにはいる。
それでも他のギルドよりも人数は少ないのだ。
その王都ギルドに明日から新卒が入るため、本日より社員寮へ入寮するのだ。
今はその顔合わせということになる。
昨年試験合格者はいたが少数過ぎて、先に地方へ回されたため入らなかった新人。
それが、今年は二人も入ってくるらしい。
嬉しいことに男女一人ずつ。
外受付は救助目的が多いため男女関係なく配属されるが、男性が多かったりする。
あの試験に合格しても、大概が救助活動の無い内受付を希望するからだ。
マリナは体を動かす方が好きなため、外受付を希望した数少ない女性の内の一人。
というより、女で外を希望したのは初代受付についた人と彼女だけだったりする。
また、男性陣は花形の騎士科を希望する者が多いため、中々ギルド職員になりたがらない。
職員希望者は怪我等を理由にハンターから転職する人が多いのもあるし、女性陣が内勤務を希望するから男では内勤務になれなかったりするのもある。
素材マニアや解体マニアは、悲しいことに内には配属されず外勤務になってしまうので、各々救助活動中に勝手に収集したり捌いたりしていたりする。
――そしてミランに怒られるまでが大概セットである。
今回の二人は果たしてどちらを選ぶのか。
まあ、どちらを選ぶにしても試用期間中は両方の業務に携わるため、希望は関係なかったりするのだが。
ミランが新人二人について簡単に説明していると、二人を連れたアドルフが入ってきた。
こちらは先程まで、ギルド長室で簡単に説明を受けてきたようだ。
「じゃあ、簡単に自己紹介してください」
ミランに促され、女の子の方がズイッと前に一歩出る。
彼女の黒い瞳は、何故かマリナをじっと見ている。
当のマリナは、先程食べたオムライスが次はいつ食べられるだろうとボケッと考えていた。
「救助隊育成科卒のエメリーヌです。ギルド内受付を希望します。マリナさんには負けませんッ」
「「「…………」」」
急激に現実へと引き戻されたマリナは、全く状況を理解できていない。
そもそも、この場にいるエメリーヌ以外全員よくわかっていない。
何故いきなりマリナに?
マリナは彼女に何かしたのか?
いや、していたらこんな空気にはなっていない。
では何故?
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頼れるミラン副長の頭にも疑問符が並ぶ中、この空気をブッた斬ったのは、長いピンクブロンドの髪を手で払うエメリーヌに、隠れるような位置にいたもう一人の新人だった。
怖いもの知らずの新人なのか、緊張しすぎて状況を理解していないのか。
多分後者だと思われる彼は、エメリーヌの長い髪を避けるようにヌルッと出てきた。
「……ぼぼ、ぼっくは、ブレーズでづ! きぼっ希望はっ、で、できれば……ぃたいっが、ししした、いですぅ……」
「「「…………」」」
カミカミに噛みまくったブレーズは、手先をずっとモジモジさせている。
希望配属も何かわからず。
彼も一応学院卒なのだが、彼の言動を見るに不安しかない一同。
何故かマリナに宣戦布告するエメリーヌに、優秀さをどこかへ忘れてきたかのようなブレーズ。
前途多難過ぎる新人二人に、流石のミランも眉間に手を当てている。
そんな中マリナは、良いことが続いたのはやはり悪いことの前触れであったのだと、一人肩を落としていた。
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