上 下
4 / 10

4

しおりを挟む
「「申し訳ございませんッ!!」」

 ……面白いですわね。客観的に見ると、とつきますがね。土下座する陛下方をポカンとした顔で見る四人。第二王子おバカにいたっては、顎が外れそうなほどお口が開いてそうですよ。

 陛下方の護衛たちも、警護優先もあるのでしょう。土下座とまでいきませんが膝をついているこの状況。まだ、おバカ方の理解は追い付いていないようですわ。



「ちっ、父上? なぜこ「この愚か者がッ!」

 陛下、この間のお茶会で「もうすぐ50も後半に差し掛かるから、足腰が……」って、王妃様と笑ってらしたのに。ものすごく機敏ですわね。わたくし、別に第二王子おバカの頭を押さえつけてほしいと言った覚えは……ああなるほど。

 陛下からわたくしの後ろに控えているイルザをさっと伺うと、用を済ませて戻ってきていたヨハナの手首を抑えているところでしたわ。わたくしも外交問題にはしたくはないので、陛下が押さえてくれてよかったですわ。陛下はそのままお話しされているようです。噴火前の火山といいますか、地震前の地鳴りといいますか。とにかく怒りが爆発寸前の陛下のお声は、第二王子おバカでも流石に無視できないようですの。

「…………と言ったのにッ! あれほどッ!!」
「ヒッ……ち、父上? な、ななんと?」
「あれほど! 皇女殿下・・・・のお手を煩わせるなと言いつけておったのにッ!!」
「こう、じょ……でんか? 父上? アイツは公女・・であって、皇女殿下で「大馬鹿者ッ!!」



 身体強化魔法でも使ったのかしら? 陛下の怒鳴り声とともに、コロコロと足元に転がってきましたわ。壁のカケラが。もちろん優秀な侍女たちが、わたくしの邪魔にならないところへ避けていますよ。おかげで武器をしまってくれたので、その点ではよかったわ。

 それにしても……おバカそのいちが壁にめり込んでいても、微動だにしない王太子殿下と護衛騎士たち。いろんな意味でスゴいわね。


 めり込んでしまわれた方は目を回していますし、他三名は驚いて尻餅をついていますので……周りに騎士たちも控えているので、邪魔には入らないでしょう。

 薄紅色の帝国紋・・・の入った扇を開き、ゆっくりと口を開いた。

「陛下。よろしいですか?」

 小さな声であっても、頭に怒りが上っていても、しっかりと聞き取っていただけたようで。慌てて振り向き、謝罪を口にされましたわ。

「皇女殿下! 此度は、愚息の非常識な行い、大変たいっっっへん申し訳ございませんッ!」
「陛下。わたくしも……この婚約には、あまり前向きではございませんでしたの。丁度よいのではありませんか? 婚約自体は、双方合意の上で白紙へ。わたくしの我が儘で留学はさせていただきましたので、他の外交条件はそのままでよろしくってよ」
「皇女殿下っ!」

 …………ものすごく拝みそうな勢いでキラキラした瞳を向けてきますが、それとこれとは別のお話もございますのよ? お年を召してからのご子息はさぞお可愛らしかったのでしょうが、矯正できなかった貴方にも……もちろん、責任を感じていらっしゃる王太子殿下にも期待していた分、残念ですわ。



 小さく息をつくと、おバカたち以外はビクッと肩が揺れましたわ。

「しかしですね? わたくし、どうしても理解できないことがありますの」
「なっなんでしょうか?」
「加護の名を持つ者はめずらしいので、『エアデ』とつく隣国の豊穣の地『エアデ国』の者であると勘違い・・・なさるのはわかりますが……そうであったとしても、他国でも『王候貴族』。なぜ、たかが平民・・にありもしないことでわたくしが・・・・・謝罪しなければならないのでしょう? ブルーム国では、平民の方が優位なのでしょうか?」
「そっそんことはッ!」
「愚かな弟は、何を学んでも右から左へ流れていたようで! どうか、ご容赦をッ」
「……貴方に発言を許していませんのよ、王太子殿下?」
「――っ! 申し訳ございませんっ」

 驚きのあまり、王太子殿下まで口を開き出してしまったわ。彼にしては、めずらしいわね。それほど手を焼いていたのでしょう、お可哀想に。平民に謝罪しろなど、階級重視のこの国でまさか王子が・・・口にするとは思わないわよね、普通。

 まあ婚約以外の外交関係は、もともと帝国側に有利なように組んでありますし。わたくしの我が儘での留学も、時期的にはほぼ終わりですし……。せっかくだから、お願い事でも聞いてもらおうかしら?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

処理中です...