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第一章 留学準備編
3.そして、また増えた
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クマゼミと対抗するかのようにアブラゼミまで一生懸命鳴くもんだから、耳に届く風がどんどん五月蝿さを増していく八月。外に出るだけで、お耳が渋滞です。
サラッとおわった終業式の次の日から始まった受験用の夏期講習という名の授業もおわり、なけなしの夏休みはお盆だけで。あっついし、頭の中が忙しい。
だから。
今の今まで完全に忘れていた説明会。
盆明けからの登校は、文化祭に向けてやからクラスごとに登校時間もかわる。その初日。
この日だけはどのクラスも、どのクラブも、活動はお昼までと決められていた。そう、忘れていた説明会があるから。機密事項だから、全員帰宅したのを確認したら始めるんやって。へえー、手がこんでますね。流石、機密事項。
あ、併設の短大にいたっては、今日は全館休館日で入れなくなってるらしい。警備のおっちゃんたちだけ出勤やって。あっつい中、おつかれさまでーす。
普段は外部の講師を招き3年生の受験対策が行われている視聴覚室によばれ、準備の間に四人でお昼ご飯を食べて待っているように言われた。
今日のお昼は、コンビニで買った菓子パン。カスタードが入った長方形の薄べったいパンにチョコソースがかかったやつね。昨日の夜無性に食べたくなって、お母さんにお昼買ってく宣言して今朝寄ってきた。そういえば、北海道に住んでる従姉妹が「こっちに無いから恋しい‼」とか言ってたっけ。関西しか売ってないんかな?
一個食べ終えて気持ち的に満足しながらいっしょに買ったコーヒー牛乳のストローを口にくわえていると、横からキレイなハンカチがのびてきた。うん?
「いずちゃん、ほっぺに付いてはるわ」
そう言ううしおに、頬をふかれた。待って! そのいい匂いがするキレイなハンカチでチョコソースふかないで‼
心の叫びもむなしく、キレイにふき取られて「これでええよ。ほら、かわいなったわ」って笑顔を向けられたんよ。
「……うしお! 洗って返させて~」
手をのばすが、スカす。ニッコニコでひょいひょいっとかわすうしお。「ええよ、気にせんで」って言いながら、めっちゃ遊ばれるうち。マジで洗って返すから‼ そこ! 二人とも笑ってないで助けて!
そんなことをしながら待っていると、時間もあっという間。
うちが洗って返すのをあきらめ、新しいの買って返すか⁉ って考えだした頃、みんなの親が集まっていた。うわ、お父さんまで来てるわ……。うしおと委員長のとこもご両親そろってる。なぎさのとこは、お母さんと上のお姉さんが来たんやね。かおりちゃんが連絡するとは言っていたけど、まさか各家から保護者二人もよぶとは思わんかったわ。
みんなで固まって座っていると、前方左のドアから前回軽く説明してくれた四人と校長先生まで来た! と思ったら、続いてなぜかもうすぐ帰国のはずのロクサーヌまでいっしょに入ってきた。知らない人二人連れて。また人増えてない? ていうか、なぜロクサーヌまで?
首をかしげているうちらをよそに、先生二人と校長先生まで手伝いながら前回のようにカーテンを閉めていく。高原さんとロクサーヌ、もう一人銀色? くらいうっすいけどキラキラ輝くプラチナブロンドの高原さんみたいな美女の三人以外、伊勢さんやもう一人の知らない外国の男性……よな? 女の人? なんか中性的な感じの美人さんまで手伝って、ドアの施錠まで確認してるわ。流石、機密事項(二回目)。
準備が終わったのか、先生たちは前の方へ戻っていくので、急いで広げていたお昼ご飯たちを片づけた。
「では、まず派遣員の方々のご紹介から!」
と、意気込むかおりちゃんがどこからか取り出したマイクを奪い、電源オフにした梅やんが「僕がやりますから」と主導権を取った。気にしていないというか、気づいていないかおりちゃんは喜んで「お願いします!」なんて言ってる……マジ心配。
梅やんから紹介されたのは、前回驚かされた高原さんと伊勢さんに加え、銀髪美女リュシエンヌさんと中性的な美人のアディさん――男性やったわ。リュシエンヌさんは「リュシーおねえさんでいいよ~」と言い、というよりも呼ばれたいらしい。もちろん、そう呼びます! 呼びたいです! もう一人のアディさんは、名前が長すぎて――大人ですら誰も覚えられんかったので、リュシーおねえさんが「アディはアディでいいわ」と言うのをみんなで賛成してん。
リュシーおねえさんと対になる黒髪美女がボソッと「あすか姐さんって呼ばれてみたい……」って言ったのは、髪をかき上げながら前回のおさらいから詳しく説明に入る伊勢さんの声によってかき消された。それまで無表情だったのに、伊勢さんが無視したのが堪えたのか……若干涙目になっているあすか姐さん。某CMの子犬みたいにウルウルしてて、めっちゃカワイイって思ったのは内緒。だって、カワイイあすか姐さん注視してたら、伊勢さんにめっちゃにらまれてんもん。……よそ見して、すみませんでした‼
うちにガン飛ばしてんのかっていうくらい眉をひそめる伊勢……氏って呼ぼう。もうなんか、ね? うん。その伊勢氏は、前回うちらに話してくれたおさらいがてら本題に移った。
よく似ている地球と異世界の惑星ティエラは、お互いに必要な物と不必要なものを交換することで、お互いの星の発展につなげようとした。その必要な物とは、地球では使われていない『魔力のもと(魔素)』のこと。地球は、この『魔素』を使って魔法を取り入れながら発展することを地球神たちが制御していたため、使われずにどんどん溜まっていく。地球自体の自力放出でも間に合わず、何回か魔力爆発が起こったこともあったほど――これが、実は氷河期を起こすインシデントのひとつだったり。
地球側は、なんとしても文明が滅ばぬよう魔力爆発を抑える必要があった。……ねえ、もしかして魔法を使える世界にもなってたってことよな? 某額に傷のあるメガネ少年がいる世界、みたいな感じに。
思考がお出かけしそうになっているうちを、伊勢氏は置いていく気満々に続けていく。
そんな地球に対して惑星ティエラ側は、科学の代わりに『魔素』を使った魔法を取り入れることによって惑星の発展へつなげてきた。ただ、ティエラだけで生まれてくる『魔素』の量は決まっているため、使えば使うほど無くなっていたしまう資源。発展していくには、まだまだ足りなかった。
「そこで! 数百年おきに行われる神たちの外交『天空議会』で、惑星外交官として交渉したのがみんなのリュシーおねえさんと、あすかちゃんなんですよ~」
……え? リュシーおねえさん、今なんかトンデモ発言しなかった?
それまで真剣に聞き入っていた保護者たちですらポカンとした表情を見せていたので、すかさずアディさんがフォローに入ってくれたんよ。そのフォロー内容にも驚いたけどさ。
「リュシエンヌ様。まだご自身が『ティエラの一柱』であることを、彼女たちに伝えていませんよ」
「……あれ? 言ってなかった?」
「はい」
「……わたしもまだ言ってない」
「あれ? そうなの?」
「うん……」
……今の会話だけでも充分なほど、説明にはなっていると思うけど。そっか、美人だと思ってたけど、神さまなら確かに美人やわ。うちのラノベ系からの発想力と、世界史とか神話の絵資料とかからのイメージ通りの神さまなら。神話とかに出てくる神さまの絵を描いた人、うちらの現状みたいに会ったことでもあるんかな? 絵では表せんくらい、望外の美しさよな。
またもぼけーっとあすか姐さんたちを見ていたせいか、伊勢氏にチラ見され……ため息をつかれた。え⁉ そんなにダメなん?
そんなことをしていたから――もあるけど、聞き逃したことを伊勢氏のせいにしておく! 伊勢氏のせいで聞き逃したので、隣の袖口をちょちょいっと引っぱる。もちろん、やさしいうしおさんはコソッと教えてくれた。
「リュシーおねえさんが『ティエラの神さま』で、留学先のアノー国担当して見守ってはるんやって。高原さんは、日本担当の神さまやて」
なるほど! うしおさん、ありがとうございます!
うちらのコッソリやけど、どう見てもバレてるやり取りがおわった後、アディさんが待ってましたと言わんばかりに続ける。アディさんって、振り回されるのに慣れてるんかな?
「リュシエンヌ様たちの真名は、内密になっているので控えます。人界に『神』として降臨されると――以前、やらかしてしまったことがあるので。今は『人型』になっていただいていますので、『人』として接してください」
どうやら、うちらが『留学』に使う『扉』が現れたときに――ちょっとやそっとじゃない、大騒ぎが起きたらしい。しかも巻きこまれたのは、国際会議に出ていた各国の首脳陣。それ、大丈夫やったん? その事件が起きたのは、ちょうどうちらが生まれた前後くらいらしいけど――お母さんの方を見ても首振ってる。知らんのか。いや、アディさんの話す感じやと『首脳陣以外知らない』が正解っぽいな。案の定、アディさんの補足によるとそうらしい。
「それは置いておくとして。魔素が必要な我々と、地球側のいらない魔素。利害は一致していたので、取り込み放出することに決まりました。その方法は『人と人を交換する』こと。どんなモノでも生まれたものには魔素を纏っているのですが、生態系などの関係から『同じモノ』として神さまが創られたのが『人間』でしたので」
そして異世界間留学が始まったらしい。現地に住む人が行き来して、魔素を惑星間で循環することになったんやって。うん、伊勢氏のムダに上手い図解にアディさんの説明でだいぶわかったと思う。
当初は、主要各国の政府によって短期少人数で様子を見ていた。効果が見られないと困るし、神さまに保障されようが安全かはわかんないから。結果的に効果も安全性も保障されたので、今回のティエラ側の短期留学を最後に、次年度から年単位の長期留学へ変更になったらしい。
そして留学に力を入れており、初期の短期留学チームの一人が馨英出身。さらに『扉』自体が校内に出現しているため、日本国内代表として選ばれたんやって。ソウデスカ。それ、うちじゃなくてもよかったやん……。
ちなみに。留学生の身元は、神さまとそれぞれの国(もしくは政府)に保障されている。もし留学中に移住を望んだら、神の名のもとに許可されるんやって。『神の名のもとに』っていうところはちがうけど、留学した先輩たちの話で『留学からそのまま移住した人』もいたな。この場合、国じゃなくて惑星移住になるけど。
「みなさんを選んで正解でした~。お約束通り、ご家族にもお話されていないようですね」
唐突に、リュシーおねえさんがビックリするほどの笑顔を向けてきた。え、ヤバそうな感じ?
「……もし、話してたら?」
「話したヤツの記憶は消されてたな。一応、機密事項だから」
「「怖っ⁉」」
恐る恐る聞いてくれた委員長とともに、伊勢氏の返事に反応しちゃった。いや、マジで怖いって‼
反射的に腕をさするうちらをよそに、伊勢氏は続ける。
「この間言ったように、留学先はアノー国にある六芒星学院高等教育部。商学科に入ることになった」
「慣れてもらうために、一つ下の新入学生とともに学んでもらうことになります。数学のみ、商学科の最終学年といっしょになりますが」
と、向こうの学院でサポートしてくれると約束してくれたアディさんが教えてくれた。なんか、アディさんならめっちゃサポートしてくれそう。アディ兄さんって呼んでいいかな? いいやんな?
「あれ? ロクサーヌも?」
不意に、委員長の口から出た疑問。そういえば、なんでいっしょにいるんか聞いてない。
その答えは――まさかの本人からやった。
「わたくし、実はアノー国からの留学でして。みなさまの留学先の錬金科に在籍しておりますの」
((((⁉))))
まさかの、さっき言ってたティエラ側の最後の短期留学生やった。マジっすか。ていうか、めっちゃ日本語流暢やん。
そのついでと言わんばかりに、アディ兄さんの口から出たのは……ホストファミリーが『貴族』。待って。『貴族』って今の時代、ヨーロッパでも王族関係しかおらんかったんじゃなかったっけ?
「……ホストファミリーが、なんで貴族か聞いても?」
「ああ、それはそうでしょう。あなた方の位置的には、異世界からの賓客。警備面など含めて、ある程度の力を持った方が選ばれた結果ですね」
当たり前ですよって言うアディ兄さんの笑顔が、ちょっと怖いって思ったのは内緒。ティエラでは国にもよるけれど、基本的に学院へ通うのは『貴族』がほとんどの世界らしい。ソウデスカ。
「え? でも、ロクサーヌのホストファミリーは?」
「海外やあちらの世界に比べて、日本ならそこまでしっかり警備は必要ありません。情報面を気にかけていれば、ある程度なら問題ないと選ばれました。あと、日本政府より身辺警護課も極秘でついていたので」
「「「「なるほど?」」」」
まだ頭の中の整理が整わないうちらに、手をたたきながら「そうそう!」とまさに今思い出したと言わんばかりなかおりちゃんの笑顔が輝く。めっちゃ嫌な予感。
「向こうはもちろん英語圏ではないので、耳慣れができません。NZ組のように帰国後耳慣れしてないといけないので、この音楽プレーヤーを渡します!」
そう言って、チョークの粉がつかないように着ている白衣のポケットから取り出したのは、某リンゴマークの音楽プレーヤー。ちなみに、今うちの制服ポケットに入ってるのはウォー〇マン。校則? 知ってる。内緒に決まってる。校内で使ってないからバレてないはずや。
「これをひとつずつ渡すので、しっかり覚えるまで聴いてきてください」
手渡されたプレーヤーを起動して、チラッと見たら……横から「どんなの?」って覗きこんできたお母さんまで黙った。これ、100は入ってるやんな? 課題用のリスニング問題に、海外ではやってる最新曲まで入ってますからねって言われても……かおりちゃん、欲しくないよ? これ。
こうして押しつけられた音楽プレーヤーのせいで、課題が増えただけの説明会はおわった。いらんわっ!
サラッとおわった終業式の次の日から始まった受験用の夏期講習という名の授業もおわり、なけなしの夏休みはお盆だけで。あっついし、頭の中が忙しい。
だから。
今の今まで完全に忘れていた説明会。
盆明けからの登校は、文化祭に向けてやからクラスごとに登校時間もかわる。その初日。
この日だけはどのクラスも、どのクラブも、活動はお昼までと決められていた。そう、忘れていた説明会があるから。機密事項だから、全員帰宅したのを確認したら始めるんやって。へえー、手がこんでますね。流石、機密事項。
あ、併設の短大にいたっては、今日は全館休館日で入れなくなってるらしい。警備のおっちゃんたちだけ出勤やって。あっつい中、おつかれさまでーす。
普段は外部の講師を招き3年生の受験対策が行われている視聴覚室によばれ、準備の間に四人でお昼ご飯を食べて待っているように言われた。
今日のお昼は、コンビニで買った菓子パン。カスタードが入った長方形の薄べったいパンにチョコソースがかかったやつね。昨日の夜無性に食べたくなって、お母さんにお昼買ってく宣言して今朝寄ってきた。そういえば、北海道に住んでる従姉妹が「こっちに無いから恋しい‼」とか言ってたっけ。関西しか売ってないんかな?
一個食べ終えて気持ち的に満足しながらいっしょに買ったコーヒー牛乳のストローを口にくわえていると、横からキレイなハンカチがのびてきた。うん?
「いずちゃん、ほっぺに付いてはるわ」
そう言ううしおに、頬をふかれた。待って! そのいい匂いがするキレイなハンカチでチョコソースふかないで‼
心の叫びもむなしく、キレイにふき取られて「これでええよ。ほら、かわいなったわ」って笑顔を向けられたんよ。
「……うしお! 洗って返させて~」
手をのばすが、スカす。ニッコニコでひょいひょいっとかわすうしお。「ええよ、気にせんで」って言いながら、めっちゃ遊ばれるうち。マジで洗って返すから‼ そこ! 二人とも笑ってないで助けて!
そんなことをしながら待っていると、時間もあっという間。
うちが洗って返すのをあきらめ、新しいの買って返すか⁉ って考えだした頃、みんなの親が集まっていた。うわ、お父さんまで来てるわ……。うしおと委員長のとこもご両親そろってる。なぎさのとこは、お母さんと上のお姉さんが来たんやね。かおりちゃんが連絡するとは言っていたけど、まさか各家から保護者二人もよぶとは思わんかったわ。
みんなで固まって座っていると、前方左のドアから前回軽く説明してくれた四人と校長先生まで来た! と思ったら、続いてなぜかもうすぐ帰国のはずのロクサーヌまでいっしょに入ってきた。知らない人二人連れて。また人増えてない? ていうか、なぜロクサーヌまで?
首をかしげているうちらをよそに、先生二人と校長先生まで手伝いながら前回のようにカーテンを閉めていく。高原さんとロクサーヌ、もう一人銀色? くらいうっすいけどキラキラ輝くプラチナブロンドの高原さんみたいな美女の三人以外、伊勢さんやもう一人の知らない外国の男性……よな? 女の人? なんか中性的な感じの美人さんまで手伝って、ドアの施錠まで確認してるわ。流石、機密事項(二回目)。
準備が終わったのか、先生たちは前の方へ戻っていくので、急いで広げていたお昼ご飯たちを片づけた。
「では、まず派遣員の方々のご紹介から!」
と、意気込むかおりちゃんがどこからか取り出したマイクを奪い、電源オフにした梅やんが「僕がやりますから」と主導権を取った。気にしていないというか、気づいていないかおりちゃんは喜んで「お願いします!」なんて言ってる……マジ心配。
梅やんから紹介されたのは、前回驚かされた高原さんと伊勢さんに加え、銀髪美女リュシエンヌさんと中性的な美人のアディさん――男性やったわ。リュシエンヌさんは「リュシーおねえさんでいいよ~」と言い、というよりも呼ばれたいらしい。もちろん、そう呼びます! 呼びたいです! もう一人のアディさんは、名前が長すぎて――大人ですら誰も覚えられんかったので、リュシーおねえさんが「アディはアディでいいわ」と言うのをみんなで賛成してん。
リュシーおねえさんと対になる黒髪美女がボソッと「あすか姐さんって呼ばれてみたい……」って言ったのは、髪をかき上げながら前回のおさらいから詳しく説明に入る伊勢さんの声によってかき消された。それまで無表情だったのに、伊勢さんが無視したのが堪えたのか……若干涙目になっているあすか姐さん。某CMの子犬みたいにウルウルしてて、めっちゃカワイイって思ったのは内緒。だって、カワイイあすか姐さん注視してたら、伊勢さんにめっちゃにらまれてんもん。……よそ見して、すみませんでした‼
うちにガン飛ばしてんのかっていうくらい眉をひそめる伊勢……氏って呼ぼう。もうなんか、ね? うん。その伊勢氏は、前回うちらに話してくれたおさらいがてら本題に移った。
よく似ている地球と異世界の惑星ティエラは、お互いに必要な物と不必要なものを交換することで、お互いの星の発展につなげようとした。その必要な物とは、地球では使われていない『魔力のもと(魔素)』のこと。地球は、この『魔素』を使って魔法を取り入れながら発展することを地球神たちが制御していたため、使われずにどんどん溜まっていく。地球自体の自力放出でも間に合わず、何回か魔力爆発が起こったこともあったほど――これが、実は氷河期を起こすインシデントのひとつだったり。
地球側は、なんとしても文明が滅ばぬよう魔力爆発を抑える必要があった。……ねえ、もしかして魔法を使える世界にもなってたってことよな? 某額に傷のあるメガネ少年がいる世界、みたいな感じに。
思考がお出かけしそうになっているうちを、伊勢氏は置いていく気満々に続けていく。
そんな地球に対して惑星ティエラ側は、科学の代わりに『魔素』を使った魔法を取り入れることによって惑星の発展へつなげてきた。ただ、ティエラだけで生まれてくる『魔素』の量は決まっているため、使えば使うほど無くなっていたしまう資源。発展していくには、まだまだ足りなかった。
「そこで! 数百年おきに行われる神たちの外交『天空議会』で、惑星外交官として交渉したのがみんなのリュシーおねえさんと、あすかちゃんなんですよ~」
……え? リュシーおねえさん、今なんかトンデモ発言しなかった?
それまで真剣に聞き入っていた保護者たちですらポカンとした表情を見せていたので、すかさずアディさんがフォローに入ってくれたんよ。そのフォロー内容にも驚いたけどさ。
「リュシエンヌ様。まだご自身が『ティエラの一柱』であることを、彼女たちに伝えていませんよ」
「……あれ? 言ってなかった?」
「はい」
「……わたしもまだ言ってない」
「あれ? そうなの?」
「うん……」
……今の会話だけでも充分なほど、説明にはなっていると思うけど。そっか、美人だと思ってたけど、神さまなら確かに美人やわ。うちのラノベ系からの発想力と、世界史とか神話の絵資料とかからのイメージ通りの神さまなら。神話とかに出てくる神さまの絵を描いた人、うちらの現状みたいに会ったことでもあるんかな? 絵では表せんくらい、望外の美しさよな。
またもぼけーっとあすか姐さんたちを見ていたせいか、伊勢氏にチラ見され……ため息をつかれた。え⁉ そんなにダメなん?
そんなことをしていたから――もあるけど、聞き逃したことを伊勢氏のせいにしておく! 伊勢氏のせいで聞き逃したので、隣の袖口をちょちょいっと引っぱる。もちろん、やさしいうしおさんはコソッと教えてくれた。
「リュシーおねえさんが『ティエラの神さま』で、留学先のアノー国担当して見守ってはるんやって。高原さんは、日本担当の神さまやて」
なるほど! うしおさん、ありがとうございます!
うちらのコッソリやけど、どう見てもバレてるやり取りがおわった後、アディさんが待ってましたと言わんばかりに続ける。アディさんって、振り回されるのに慣れてるんかな?
「リュシエンヌ様たちの真名は、内密になっているので控えます。人界に『神』として降臨されると――以前、やらかしてしまったことがあるので。今は『人型』になっていただいていますので、『人』として接してください」
どうやら、うちらが『留学』に使う『扉』が現れたときに――ちょっとやそっとじゃない、大騒ぎが起きたらしい。しかも巻きこまれたのは、国際会議に出ていた各国の首脳陣。それ、大丈夫やったん? その事件が起きたのは、ちょうどうちらが生まれた前後くらいらしいけど――お母さんの方を見ても首振ってる。知らんのか。いや、アディさんの話す感じやと『首脳陣以外知らない』が正解っぽいな。案の定、アディさんの補足によるとそうらしい。
「それは置いておくとして。魔素が必要な我々と、地球側のいらない魔素。利害は一致していたので、取り込み放出することに決まりました。その方法は『人と人を交換する』こと。どんなモノでも生まれたものには魔素を纏っているのですが、生態系などの関係から『同じモノ』として神さまが創られたのが『人間』でしたので」
そして異世界間留学が始まったらしい。現地に住む人が行き来して、魔素を惑星間で循環することになったんやって。うん、伊勢氏のムダに上手い図解にアディさんの説明でだいぶわかったと思う。
当初は、主要各国の政府によって短期少人数で様子を見ていた。効果が見られないと困るし、神さまに保障されようが安全かはわかんないから。結果的に効果も安全性も保障されたので、今回のティエラ側の短期留学を最後に、次年度から年単位の長期留学へ変更になったらしい。
そして留学に力を入れており、初期の短期留学チームの一人が馨英出身。さらに『扉』自体が校内に出現しているため、日本国内代表として選ばれたんやって。ソウデスカ。それ、うちじゃなくてもよかったやん……。
ちなみに。留学生の身元は、神さまとそれぞれの国(もしくは政府)に保障されている。もし留学中に移住を望んだら、神の名のもとに許可されるんやって。『神の名のもとに』っていうところはちがうけど、留学した先輩たちの話で『留学からそのまま移住した人』もいたな。この場合、国じゃなくて惑星移住になるけど。
「みなさんを選んで正解でした~。お約束通り、ご家族にもお話されていないようですね」
唐突に、リュシーおねえさんがビックリするほどの笑顔を向けてきた。え、ヤバそうな感じ?
「……もし、話してたら?」
「話したヤツの記憶は消されてたな。一応、機密事項だから」
「「怖っ⁉」」
恐る恐る聞いてくれた委員長とともに、伊勢氏の返事に反応しちゃった。いや、マジで怖いって‼
反射的に腕をさするうちらをよそに、伊勢氏は続ける。
「この間言ったように、留学先はアノー国にある六芒星学院高等教育部。商学科に入ることになった」
「慣れてもらうために、一つ下の新入学生とともに学んでもらうことになります。数学のみ、商学科の最終学年といっしょになりますが」
と、向こうの学院でサポートしてくれると約束してくれたアディさんが教えてくれた。なんか、アディさんならめっちゃサポートしてくれそう。アディ兄さんって呼んでいいかな? いいやんな?
「あれ? ロクサーヌも?」
不意に、委員長の口から出た疑問。そういえば、なんでいっしょにいるんか聞いてない。
その答えは――まさかの本人からやった。
「わたくし、実はアノー国からの留学でして。みなさまの留学先の錬金科に在籍しておりますの」
((((⁉))))
まさかの、さっき言ってたティエラ側の最後の短期留学生やった。マジっすか。ていうか、めっちゃ日本語流暢やん。
そのついでと言わんばかりに、アディ兄さんの口から出たのは……ホストファミリーが『貴族』。待って。『貴族』って今の時代、ヨーロッパでも王族関係しかおらんかったんじゃなかったっけ?
「……ホストファミリーが、なんで貴族か聞いても?」
「ああ、それはそうでしょう。あなた方の位置的には、異世界からの賓客。警備面など含めて、ある程度の力を持った方が選ばれた結果ですね」
当たり前ですよって言うアディ兄さんの笑顔が、ちょっと怖いって思ったのは内緒。ティエラでは国にもよるけれど、基本的に学院へ通うのは『貴族』がほとんどの世界らしい。ソウデスカ。
「え? でも、ロクサーヌのホストファミリーは?」
「海外やあちらの世界に比べて、日本ならそこまでしっかり警備は必要ありません。情報面を気にかけていれば、ある程度なら問題ないと選ばれました。あと、日本政府より身辺警護課も極秘でついていたので」
「「「「なるほど?」」」」
まだ頭の中の整理が整わないうちらに、手をたたきながら「そうそう!」とまさに今思い出したと言わんばかりなかおりちゃんの笑顔が輝く。めっちゃ嫌な予感。
「向こうはもちろん英語圏ではないので、耳慣れができません。NZ組のように帰国後耳慣れしてないといけないので、この音楽プレーヤーを渡します!」
そう言って、チョークの粉がつかないように着ている白衣のポケットから取り出したのは、某リンゴマークの音楽プレーヤー。ちなみに、今うちの制服ポケットに入ってるのはウォー〇マン。校則? 知ってる。内緒に決まってる。校内で使ってないからバレてないはずや。
「これをひとつずつ渡すので、しっかり覚えるまで聴いてきてください」
手渡されたプレーヤーを起動して、チラッと見たら……横から「どんなの?」って覗きこんできたお母さんまで黙った。これ、100は入ってるやんな? 課題用のリスニング問題に、海外ではやってる最新曲まで入ってますからねって言われても……かおりちゃん、欲しくないよ? これ。
こうして押しつけられた音楽プレーヤーのせいで、課題が増えただけの説明会はおわった。いらんわっ!
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