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最終章

1.新学期も料理三昧

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 予想外のマドレーヌ劇団結成のおかげであっという間に秋が過ぎ、思いがけず負ってしまった怪我のせいで大人しく読書をして過ごした冬季休暇。朝だけでもとこっそり厨房に立って、怒られた・・・・・・なんで報告するのよ。安静?にしたりリハビリしたりしていたのに、やっぱり完治まで一カ月以上かかってしまった――だから怒られたんだとは思う。だって、完治まで『料理したい欲求』を抑えられなかったんだもん!

 私がそうやって怒られている間に、アリスはまんまとベルナールと婚約したらしい。前世の感覚から、素で「あれ? 恋人じゃないんだ」って思ってしまった。まあ、どっちでもアリスが幸せなら結果オーライだし。いいか。

 そんなこんなで、途中リオ様の監視が入ったけど――領地にいた分、穏やかな冬期休暇を過ごした。



 まだ本格的な寒さが残る休暇明け。

 今日から再び学院のスタート、なんだけど。


「レティはあんなの・・・・気にせず、好きに料理していいからね?」
「・・・・・・はい」


 久しぶりの怖い笑顔・・・・全開のため、頷くしかない状況に陥った。あの、まだ学院に着いただけですよね? 休暇前の階段落ち未遂みすい以来、過保護が加速しているリオ様。どうやらマドレーヌ劇団に相当怒っているらしく、自分の目の届く範囲に私を置いておきたいそうで。学院内に公務ように設けられた執務室の隣の部屋を改造し、豪華なキッチンスペースを備え付けたリビングルームを作ったみたい。授業がないときはサロンでも図書館でもなく、ここに居ろということですね――うん、素直に従いましょう。また怒られたくないし。

 あ、『乙女ゲームあるある』の『生徒会』とかはありません。貴族の多いこの学院では、既に後継者教育として執務を行っている者も多く、生徒たち自身で自治なんてしていられない。なので『生徒会室』は無く、代わりに『執務室』として空き部屋を借り受けている生徒が多い。リオ様の執務室は、王家や公爵家の後継者が代々使っている部屋らしいです。そんな部屋、改造してよかったのかな・・・・・・。


 今期の試験は三年次の卒業試験しか無いし、冬前の後期試験で成績も問題なかったので無事進級できる私は、ヒーヒーわめきながらも頑張ったおかげでそこそこ良い成績をとれたアリスとともに、授業が終われば直ぐにここへ移動することになった。マドレーヌ劇団には正直会いたくないので、安全な場所の確保は大事だしね。リオ様には「何もしなくていい」とお墨付きをいただいたので、何もしません! 勝手に動いて怒られたくもないしね。お任せしておきましょう。



 そんなこんなで日々が過ぎ。リオ様いわく授業に出てない・・・・らしいマドレーヌたちとは授業でも会わないし、ディオン殿下の危機察知の鋭さのおかげで上手いこと劇団をかわしているので未だ会わず。みんなと和気あいあいと授業を受け、空き時間は好きに料理して過ごしてます! なんか、前よりノリノリで料理している気がするわ。


 ということで。私の代わりに色々やってくれている皆に、差し入れという名のお昼ご飯をほぼ毎日作っている。今日は、リオ様リクエストの『塩おむすびと玉子焼き』がメイン! 

 実はリオ様が私の料理で初めて食べたのが、『塩おむすびと玉子焼き』だったりする。あの時は婚約者に決まったばかりで・・・・・・お断りしたかったのもあって、あまり婚約者になった実感がなかったんだ。だから、週末にリオ様が『婚約者との交流のため』に屋敷に来ると思っていなくて――厨房に入り浸っている姿を見られた。多分、その前からバレていたんだろうけど、彼自身の目で見られたのは初めてだったらしい。見たこともないくらい目をまん丸にして、「本当に(料理)やってる・・・・・・」ってつぶやかれたのを覚えてるわ。そんなに驚かなくてもいいのにって思ったけど、ご令嬢・・・がいる場所ではなかったわと思い至り、何も言わずに差し出したのが――その時作っていた『塩おむすびと玉子焼き』。

 私も混乱していたんだろうな。王子殿下が毒見なしに・・・・・食べるなんてことないのに、そのまま渡すなんてね。まさか本当に食べるとも思っていなかったけど。


「口に入れてすぐ塩味が来たと思ったら、白米・・・・・・だけじゃないね。何だろう? 白米と何か・・の優しい甘味が口一杯に広がって――そこに鼻から抜ける香ばしい香りが美味しいね」


 と、私が塩おむすび作るときにこっそり入れてる何かこと『出汁だし』様を感じ取っていた。一口食べただけで。なんか、めちゃくちゃ悔しかったわ。あ、香ばしいのは隠してない方の香りづけとツヤ出し、ご飯の乾燥を防ぐために入れてるごま油。塩とごま油しかバレないと思ったのに・・・・・・ぐぬぬ。

 この時、塩味に合うように出汁とお砂糖の入った甘い玉子焼きを作っていたので、しょっぱいのと甘いのを体験したリオ様はいたく気に入りました――週一でリクエストするくらいに。わかる。しょっぱいのと甘いのを交互に食べると、お口の中が幸せでいっぱいよね。玉子焼きはちょっとだけ塩入れてるから、出汁とお砂糖の甘味が増してたし。


 今日もしょっぱいのと甘いのを皆で堪能たんのうするために、空間収納からお米とたまごを取り出す。あ、そうだ。今朝けさ、時季外れだけどって領地の島出身洗濯メイドちゃんにアルバのアスパラガスもらったんだった。緑ツバードって言って、北海道旅行でお土産に買った立派な白アスパラより一回り大きいんだよ。ちなみに、白いのは白ツバード。こっちでは農家さんだけでなく、薬草園にも緑ツバードはあるんだよ! 借りた薬草の本に載ってたわ、薬草としても使っているって。折角せっかくだから、緑ツバードのベーコン巻きでも作ろうかな? 確かここに――あったあった。この間、余ったオーク肉でベーコンにしておいたやつ。さて、皆が来るまでに作ってしまおう!




 こうして、周りの過保護たちにより思考回路がどんどん料理に行く私は、マドレーヌ劇団をすっかり忘れてリオ様とクロエ姉さまの卒業式典に出るのでした。
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