上 下
26 / 39
第三章

1.ヒロインになりたい件

しおりを挟む
 休み明け。学院へ足を踏み入れると、皆どこか浮き足立っているように感じられた。何か行事でもあったかな? 確認のため、横にいる先輩のアランくんとクロエに聞いてみた。あ、リオ様は珍しくジルベールと一緒に公務で欠席のため、お迎えにアランくんとクロエが来たの・・・・・・リオ様が居なくても、お迎えは強制でした。


「今日って、何か行事なんてあったかしら?」
「いいえ。今日から新学期で、今期の時間割をいただくくらいのはずよ・・・・・・授業も明日からだし」
「そうよね」


 何か考え込んで話に入ってこなかったアランくんが、「ああ!」とこぶしてのひらをたたいた。アルバこっちでも、ひらめいたときのポーズは同じなのね。


「そういえば、本日より転入する者がいると伺っております」
「・・・・・・アランくん。ここ、学院の中」
「あ、そうで――そうだった。まだ慣れま、ぅー・・・・・・慣れねえわ」


 ルシールさんとの交代で護衛騎士としてついていても、学院の中では普通に接してとの私のお願いに翻弄ほんろうされるアランくん。しょうがないよね? 今まで『先輩』として一緒に学院で勉強していたのに、『護衛騎士』として学院に行くと態度変わるなんて・・・・・・さみしいよね?

 クスクスと笑いあう私とクロエに、頬をポリポリとくアランくん。休暇中も代り映えしないメンバーだったが、学院に戻ったことで再び各科生徒としての生活が始まるための合図のように、笑いあっていた。

 ――そこに、突然やって来たピンク頭。え? ピンク?


「見つけたわ! 悪役令嬢レティシア!!」


 指さしながらそう叫んだ、初めて目にする少女。誰?っていうか、悪役令嬢・・・・?? もしかして、忘れていたあの・・展開復活?

 クロエと二人、顔を見合わせて固まってしまった。アランくんは私たちの少し前に出て、ピンク?との間に立ってくれた。ていうか、この世界に『ピンク』の頭いなかったと思うけど・・・・・・ストロベリーブロンドにしても、ピンクすぎるよね? というか、本当に誰?


「私がこの世界のヒロイン・・・・のマルレーヌよ!!」
「「「マレーヌ?」」」
「マレーヌよ! マレーヌ!!」


 フンスッ!って聞こえてきそうなくらい、顔を真っ赤にしたピンクのマレーヌ?は、勝手に来て勝手に怒って勝手に『ヒロイン宣言』してきた。あれ?ヒロインになりたいから髪が『ピンク』なの? 前世のゲームとかならわかるけど・・・・・・ん?もしかしてもなく、転生者よね?たぶん。

 私がマドレーヌ食べたいな・・・・・・なんて思いながらピンクについて考えている間に、クロエが相手してくれていた。


「それで、マヌケ・・ーヌ?さんでしたか? レティシア様を呼び捨てにされるなんて・・・・・・。何か御用なの?」


 くっクロエ姉さま! 眼が豚汁騎士科生見るときと同じです!! 『使えないゴミ』って目が物語ってます!! 戦闘モードに入りだしたクロエにビビった私は、そっとアランくんの真後ろに隠れる。ちょっと!アランくんまで何ビビってんの!?


「だから、マレーヌって言ってるでしょ!! いい? 悪役令嬢のアンタなんかには、ぜーったいに負けないんだから!! 私がヒロインよ!」


 クロエ姉さまの殺気を感じ取ることすらなくよくえるピンクのマドレーヌは、好きかって言って走り去っていった。何だったんだろう? それよりもこの後、爆発寸前のクロエ姉さまをしずめるほうが大変だった。わたわたしている私とクロエが暴走しないように腕を抑えているアランくんのもとに、少し遅れて本物の・・・ヒロインが登場した。クロエ姉さまをいくらでも持ち上げることができ――いや、命を懸けれる本物の・・・ヒロインアリスにより、クロエ姉さまのお怒りもしずまっていった。もうちょっと、早く来て欲しかった・・・・・・。

 遅れてきたディオン殿下とアメリーと一緒に講堂で新学期の説明を受け、どの授業を選択するのかをいつものサロンの一角で話し合った。まだまだ暑い日差しが差し込むサロンは、まばらに座る生徒たちの間を通り抜ける魔法調整された涼しい風でいっぱいだった。

 授業の話をしていると、空調の風と共に今朝のピンク頭の話が聞こえてきた。どうやら、ピンクのマドレーヌが今期の転入生らしい。えー・・・・・・面倒くさいことにならなきゃいいけど。ていうか、ピンクのマドレーヌか――チゴの実いちごのマドレーヌ、食べたいなぁ。

 いつも通り頭の中が平常運転で食べ物にそれだした私をよそに、皆の話はいつの間にか夏季休暇中のアリスのデートの話に移っていた。「それよりさぁ! ベルナール様がね?」とキャピキャピしながら話すアリスは、本物の・・・ヒロインが画面上で恋をしていた時と同じように愛らしく輝いていた。




 これ、マレーヌにヒロイン無理じゃない? もしかして、女神セラータ様が思い出させたのは、こんな奴が来るかもしれない――からの対策のため?なんじゃないかなって気もする・・・・・・。まぁそれより、あの頭の色・・・・・・すごく気になるわ。あとで、アリスにこそっと聞いてみよう。アルバの整髪料で何とかなるのかなぁ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

処理中です...