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5 平穏を望む私は、アウトローをどつきたい。

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「リシー!捕まえた!」
「!」

後方から華やかな塊が飛んできた。

確かに、お互いの愛称呼びを認め合いましたけどね・・・。

だからといって、学年も身分も違う公爵令嬢が背中から抱き着いて、覆いかぶさらないでください。
学年も身分も違う小市民には、迷惑以外、何物でもないからね!

目立つ。
しかも驚いて、皆さん凝視してる!

「時と場合と状況とか、身分とか、私の都合とかを考えてくれない?」

小さな声で話しかける。

「いいじゃない。リシーは固いわね~。私は全然気にしないわよ?」
「気にして。私の半分でいいから気にして!」

人目があるので、ひそひそと返す。

・・・私、身分制度を勘違いしてた。

誰もが、その身分に見合った節度ある行動をしなければならないと思っていた。
けど、そのルールに縛られるのは、そのルール内でしか生きられない人を生かすためのもので、アンタッチャブルな令嬢には関係ないことだった。

むしろ、この人をルールの枠にいれようものなら枠そのものをぶち壊すものだと理解した。

そして、ルールを破ったことの報復措置は弱い立場の人間が請け負うことになる。


どす黒い靄をまとったオーラというか、視線を感じる。
嫌がらせ集団からの悪意が立ち込めてる。

嫉妬ですか?
羨ましいなら、いつでも代わるのに。

あ、無理かぁ。
サフィーは好き嫌い激しいから。
なんか、ごめん。

口に出したら確実に炎上しそうなことを、胸の内でつぶやいていると、サフィーが耳元でこそこそと囁く。

「大丈夫よぉ。何か問題が起こっても、私が守ってあげるわよ?」

ありがたい迷惑だ。
間違いなく、状況悪化するし。
火のないところを大火事にされそうで怖い。

というか、今の火の元は間違いなくあなたです。

背中からおり、私の腕をとる。

「それより、今日のランチは一緒にしましょうね」

えっと、拒否権・・・

「食堂で待ってるからね」

ぱっと離れると、優雅に去っていく。

拒否権なし。
どっと疲れた。

「リリシーヌ様・・・サフィアス様とお親しいのですか?」

側にいたクラスメートがおずおずと尋ねてくる。
私の返事に周りも聞き耳を立てている。

私は曖昧に笑う。

「申し訳ありませんが、小用がありますの」

そそくさと、足早に立ち去った。


彼女のおかげで、私の目立たない平穏な日常生活が崩れていく。
平穏三か条が意味ないし。


サフィー、そろそろ一度、どついてもいいよね?

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