上 下
3 / 8

第2話 腕っ節の強い公爵令嬢。

しおりを挟む
「要件は分かっておるな、ファーナス」

 王城内、謁見の間。教会の大聖堂を思わせる荘厳な美しさ。王の周囲には大勢の側近たちが控えている。その部屋の最奥で、俺は王の前に跪いていた。

「もちろんでございます、陛下。早速これより、彼の地へと参ります」

 俺はキリリとした目つきで、王を見上げた。

「うむ。頼んだぞ。冒険者たちもダンジョンへと乗り込んでいるようだが、おそらく最下層へは辿り着けまい。いつものように見所がある者たちを募り、共に行くが良い。そなた一人でも充分なのはわかっているが、後進を育てる必要があるからな」

「はっ。心得ております。では」

 俺は立ち上がって頭を下げると、踵を返して謁見の間を後にした。目的地はアールアース。公爵の屋敷に寄ってから、冒険者ギルドへ行くとしよう。

 心の中で呪文を唱える「無言詠唱」で、長ったらしい呪文を素早く唱える。

転移テレポート

 一瞬で、公爵の屋敷前に到着した。門から屋敷の入り口まで、ズラリと使用人たちが並んでいる。すでに王から連絡を受けていたのだろう。

 うやうやしく頭を下げる使用人たちの間を通り、屋敷へと入る。入ってすぐのエントランスで、この屋敷の主人「ネグレド・アールアース公爵」が俺を出迎えた。

「ようこそおいでくださいました、大賢者ラー様。どうぞこちらへ」

 応接間にて接待を受けつつ、ダンジョンの被害などを確認する。

 現在はダンジョンが出現してから、おおよそ十時間程が経過。報告は冒険者から上がってきたらしい。

 好奇心旺盛なる冒険者たちは、すでにダンジョンの第15階層まで攻略済みで、今のところ死者は出ていない。付近の村は、騎士団と冒険者たちでどうにか守れているようだ。

 ならば魔王はいないだろう。もしも魔王がダンジョンの指揮を取っている場合、その被害は甚大なものになるからだ。

 おそらくいずれかの「将軍」が指揮をとり、ダンジョンに陣取っている筈だ。

「賢者様、実はお願いがございます。我が娘、セラの事なのですが......」

 公爵の話によると、セラはシャングリラの第一王子ルーデウスと婚約していた。だが、彼と不仲になって婚約を破棄されてしまったらしい。さらに悪い事に、ルーデウスには新たな恋人がおり、セラが彼女を毒殺しようとした、などと噂が立った。

「世間体を保つ為、修道院に入れたのですが......セラはそこを逃げ出し、あろうことか冒険者になってしまったのです。あれはきっとダンジョンに向かうつもりでしょう。ラー様、どうか娘を、守ってやっては頂けませんでしょうか」

 ネグレド公爵は、使用人に命じて宝石や金貨を用意した。

 ふふっ、なるほど......公爵令嬢で冒険者。面白い。

「お引き受けいたしましょう、閣下。セラ様は私が責任を持って、お守り致します」

 こうして俺は、冒険者ギルドでセラを見つけ、パーティを組んだ。彼女は初心者と言う事で中々パーティを組んでもらえず、路頭に迷っているところだった。

「ありがとうございます、賢者様! 私、きっとお役に立って見せます!」

 俺はセラの能力には一切期待していなかったし、戦わせる気もなかった。だが、彼女はグイグイと前衛に躍り出て、次々と敵を蹴散らしていった。

 レベルにそぐわない強さ。幼少の頃より培ったという武術の腕は、かなりのものだった。

 そういえば、セラ......どこかで聞いた名前だと思っていたが、最初のアバター選択時に、確かにその名前があった。生い立ちや顔も一致する。

 つまりあれか。選ばれなかったアバターは、NPCとして登場する。そういうシステムな訳ね。

 それなら強いのも納得がいく。もちろんファーナスには及ばないが、さすがプレイヤー用のキャラだと言えるだろう。

 そんな訳で、俺たちはダンジョンを最下層目指して突き進む。俺は恐れる事なくダンジョンを駆け抜けて行く、セラの背中を見つめていた。

 はっきり言ってセラはめちゃくちゃ可愛い。胸は小さいが、細身で顔も小さく、モデル体型だ。金色の髪に青い目。すぅっと長く伸びた鼻筋。形の良い唇。笑うと見える八重歯。屈託のない笑顔は、荒んだ俺の心を癒してくれる。とてもライバルを毒殺しようとした人物には見えない。

 はっきり言って好みだ。冒険が終わったら、飲みに誘ってみよう。

 セラのレベルは着実に上がって行った。俺のレベルは既に最高値だから上がる事は無い。

 だが俺たちは二人パーティ。パーティ内の取り分が二分割以上にならない為、経験値はガッポリ入る。

 冒険者が攻略済みの15階層より下に降りると、ぱったりと人に合わなくなった。それもそのはず。敵の強さが格段に違う。まぁ俺には雑魚だけど。

 ドロップアイテムや、宝箱からの拾得物は、全部セラに渡した。お陰で彼女は現在レベル50。武器や防具はレア武具で揃えているし、ステータスアップのアイテムも惜しみなく使った。もはやアールアースの冒険者で、彼女の右に出る者は居ない筈だ。

 だが40階層を超えると、流石に前衛一人ではきつくなってきた。

 悪魔族と呼ばれる巨大なモンスターがうろつく深層エリアは、高い天井に広い通路。古代遺跡のような作りで、人の顔を模したオブジェが所狭しと並べられている。不気味な唸り声も相まって、侵入者に恐怖心を植え付ける事この上なしだ。俺以外には。

 セラのダメージを受ける頻度が上がってきた。「治癒ヒーリング」をこまめにかけてはいるが、一撃が重い悪魔族のモンスターが相手では、クリティカルヒットをもらえば一撃で死ぬ危険もある。

 セラはまだまだ強くなる。だが彼女にはこの階層の敵は荷が重い。そろそろ休んでもらう頃合いかも知れない。

「きゃああああっ! 賢者様!」

 セラが悪魔族モンスター「ブラック・ジャイアント」に捕まった。手に握られ、食われそうになっている。

空刃エア・ブレイド

 俺は手のひらから真空の刃を繰り出し、ブラック・ジャイアントの腕を切り落とした。セナが握られた腕が、ドスンと落下する。

 そいつ以外にも二体のブラック・ジャイアントが地面を振動させながら集まってくる。

 腕を切り落とされた奴が、目を怒りで真っ赤に染めた。俺を踏みつぶそうと足を持ち上げ、一気に下ろして来る。俺は右手を上にあげ、ブラック・ジャイアントの足の裏にぴたりと当てた。

反射リフレクション

 ブラック・ジャイアントの踏み潰しのダメージは、俺に一切流れる事なく、奴自身に跳ね返る。

「グオオオオッ」

 足の骨を粉砕され、肉を飛び散らせながら「ブラック・ジャイアント」は後方に倒れこむ。残りの二体の攻撃も同様に「反射リフレクション」で跳ね返し、床に寝かせてやった。凄まじい轟音が鳴り響き、周囲が見えなくなる程の粉塵が巻き起こる。

重力場グラビティ・フィールド

 足を砕かれて身動き出来なくなった巨人達の体を、重力で押し潰してとどめを刺した。

「セラ、大丈夫か?」

 俺は切断された巨人の腕に駆け寄り、手に握られたままのセラを助け出した。

「もう、先に助けてくださいよ。凄く苦しかったんですから」

 セラは不機嫌そうに、プイっと顔を背ける。

「すまない。君なら平気かと思ってな」

 俺は助け出したセラを、グッと抱き寄せた。

「本当に、ごめん」

 スッと、素の言葉が出た。賢者っぽくない喋り方だった。だがセラはそれが嬉しかったようで、俺の胸に顔を擦り付けた。そして顔をあげ、ニコッと笑った。

「しょうがないから、許してあげます」

 その微笑みは、どんなモンスターからの一撃よりも重くて強力で......最高だった。

 絶対に彼女を失いたくない。そう思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

処理中です...