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第2話 腕っ節の強い公爵令嬢。
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「要件は分かっておるな、ファーナス」
王城内、謁見の間。教会の大聖堂を思わせる荘厳な美しさ。王の周囲には大勢の側近たちが控えている。その部屋の最奥で、俺は王の前に跪いていた。
「もちろんでございます、陛下。早速これより、彼の地へと参ります」
俺はキリリとした目つきで、王を見上げた。
「うむ。頼んだぞ。冒険者たちもダンジョンへと乗り込んでいるようだが、おそらく最下層へは辿り着けまい。いつものように見所がある者たちを募り、共に行くが良い。そなた一人でも充分なのはわかっているが、後進を育てる必要があるからな」
「はっ。心得ております。では」
俺は立ち上がって頭を下げると、踵を返して謁見の間を後にした。目的地はアールアース。公爵の屋敷に寄ってから、冒険者ギルドへ行くとしよう。
心の中で呪文を唱える「無言詠唱」で、長ったらしい呪文を素早く唱える。
「転移」
一瞬で、公爵の屋敷前に到着した。門から屋敷の入り口まで、ズラリと使用人たちが並んでいる。すでに王から連絡を受けていたのだろう。
うやうやしく頭を下げる使用人たちの間を通り、屋敷へと入る。入ってすぐのエントランスで、この屋敷の主人「ネグレド・アールアース公爵」が俺を出迎えた。
「ようこそおいでくださいました、大賢者ラー様。どうぞこちらへ」
応接間にて接待を受けつつ、ダンジョンの被害などを確認する。
現在はダンジョンが出現してから、おおよそ十時間程が経過。報告は冒険者から上がってきたらしい。
好奇心旺盛なる冒険者たちは、すでにダンジョンの第15階層まで攻略済みで、今のところ死者は出ていない。付近の村は、騎士団と冒険者たちでどうにか守れているようだ。
ならば魔王はいないだろう。もしも魔王がダンジョンの指揮を取っている場合、その被害は甚大なものになるからだ。
おそらくいずれかの「将軍」が指揮をとり、ダンジョンに陣取っている筈だ。
「賢者様、実はお願いがございます。我が娘、セラの事なのですが......」
公爵の話によると、セラはシャングリラの第一王子ルーデウスと婚約していた。だが、彼と不仲になって婚約を破棄されてしまったらしい。さらに悪い事に、ルーデウスには新たな恋人がおり、セラが彼女を毒殺しようとした、などと噂が立った。
「世間体を保つ為、修道院に入れたのですが......セラはそこを逃げ出し、あろうことか冒険者になってしまったのです。あれはきっとダンジョンに向かうつもりでしょう。ラー様、どうか娘を、守ってやっては頂けませんでしょうか」
ネグレド公爵は、使用人に命じて宝石や金貨を用意した。
ふふっ、なるほど......公爵令嬢で冒険者。面白い。
「お引き受けいたしましょう、閣下。セラ様は私が責任を持って、お守り致します」
こうして俺は、冒険者ギルドでセラを見つけ、パーティを組んだ。彼女は初心者と言う事で中々パーティを組んでもらえず、路頭に迷っているところだった。
「ありがとうございます、賢者様! 私、きっとお役に立って見せます!」
俺はセラの能力には一切期待していなかったし、戦わせる気もなかった。だが、彼女はグイグイと前衛に躍り出て、次々と敵を蹴散らしていった。
レベルにそぐわない強さ。幼少の頃より培ったという武術の腕は、かなりのものだった。
そういえば、セラ......どこかで聞いた名前だと思っていたが、最初のアバター選択時に、確かにその名前があった。生い立ちや顔も一致する。
つまりあれか。選ばれなかったアバターは、NPCとして登場する。そういうシステムな訳ね。
それなら強いのも納得がいく。もちろんファーナスには及ばないが、さすがプレイヤー用のキャラだと言えるだろう。
そんな訳で、俺たちはダンジョンを最下層目指して突き進む。俺は恐れる事なくダンジョンを駆け抜けて行く、セラの背中を見つめていた。
はっきり言ってセラはめちゃくちゃ可愛い。胸は小さいが、細身で顔も小さく、モデル体型だ。金色の髪に青い目。すぅっと長く伸びた鼻筋。形の良い唇。笑うと見える八重歯。屈託のない笑顔は、荒んだ俺の心を癒してくれる。とてもライバルを毒殺しようとした人物には見えない。
はっきり言って好みだ。冒険が終わったら、飲みに誘ってみよう。
セラのレベルは着実に上がって行った。俺のレベルは既に最高値だから上がる事は無い。
だが俺たちは二人パーティ。パーティ内の取り分が二分割以上にならない為、経験値はガッポリ入る。
冒険者が攻略済みの15階層より下に降りると、ぱったりと人に合わなくなった。それもそのはず。敵の強さが格段に違う。まぁ俺には雑魚だけど。
ドロップアイテムや、宝箱からの拾得物は、全部セラに渡した。お陰で彼女は現在レベル50。武器や防具はレア武具で揃えているし、ステータスアップのアイテムも惜しみなく使った。もはやアールアースの冒険者で、彼女の右に出る者は居ない筈だ。
だが40階層を超えると、流石に前衛一人ではきつくなってきた。
悪魔族と呼ばれる巨大なモンスターがうろつく深層エリアは、高い天井に広い通路。古代遺跡のような作りで、人の顔を模したオブジェが所狭しと並べられている。不気味な唸り声も相まって、侵入者に恐怖心を植え付ける事この上なしだ。俺以外には。
セラのダメージを受ける頻度が上がってきた。「治癒」をこまめにかけてはいるが、一撃が重い悪魔族のモンスターが相手では、クリティカルヒットをもらえば一撃で死ぬ危険もある。
セラはまだまだ強くなる。だが彼女にはこの階層の敵は荷が重い。そろそろ休んでもらう頃合いかも知れない。
「きゃああああっ! 賢者様!」
セラが悪魔族モンスター「ブラック・ジャイアント」に捕まった。手に握られ、食われそうになっている。
「空刃」
俺は手のひらから真空の刃を繰り出し、ブラック・ジャイアントの腕を切り落とした。セナが握られた腕が、ドスンと落下する。
そいつ以外にも二体のブラック・ジャイアントが地面を振動させながら集まってくる。
腕を切り落とされた奴が、目を怒りで真っ赤に染めた。俺を踏みつぶそうと足を持ち上げ、一気に下ろして来る。俺は右手を上にあげ、ブラック・ジャイアントの足の裏にぴたりと当てた。
「反射」
ブラック・ジャイアントの踏み潰しのダメージは、俺に一切流れる事なく、奴自身に跳ね返る。
「グオオオオッ」
足の骨を粉砕され、肉を飛び散らせながら「ブラック・ジャイアント」は後方に倒れこむ。残りの二体の攻撃も同様に「反射」で跳ね返し、床に寝かせてやった。凄まじい轟音が鳴り響き、周囲が見えなくなる程の粉塵が巻き起こる。
「重力場」
足を砕かれて身動き出来なくなった巨人達の体を、重力で押し潰してとどめを刺した。
「セラ、大丈夫か?」
俺は切断された巨人の腕に駆け寄り、手に握られたままのセラを助け出した。
「もう、先に助けてくださいよ。凄く苦しかったんですから」
セラは不機嫌そうに、プイっと顔を背ける。
「すまない。君なら平気かと思ってな」
俺は助け出したセラを、グッと抱き寄せた。
「本当に、ごめん」
スッと、素の言葉が出た。賢者っぽくない喋り方だった。だがセラはそれが嬉しかったようで、俺の胸に顔を擦り付けた。そして顔をあげ、ニコッと笑った。
「しょうがないから、許してあげます」
その微笑みは、どんなモンスターからの一撃よりも重くて強力で......最高だった。
絶対に彼女を失いたくない。そう思った。
王城内、謁見の間。教会の大聖堂を思わせる荘厳な美しさ。王の周囲には大勢の側近たちが控えている。その部屋の最奥で、俺は王の前に跪いていた。
「もちろんでございます、陛下。早速これより、彼の地へと参ります」
俺はキリリとした目つきで、王を見上げた。
「うむ。頼んだぞ。冒険者たちもダンジョンへと乗り込んでいるようだが、おそらく最下層へは辿り着けまい。いつものように見所がある者たちを募り、共に行くが良い。そなた一人でも充分なのはわかっているが、後進を育てる必要があるからな」
「はっ。心得ております。では」
俺は立ち上がって頭を下げると、踵を返して謁見の間を後にした。目的地はアールアース。公爵の屋敷に寄ってから、冒険者ギルドへ行くとしよう。
心の中で呪文を唱える「無言詠唱」で、長ったらしい呪文を素早く唱える。
「転移」
一瞬で、公爵の屋敷前に到着した。門から屋敷の入り口まで、ズラリと使用人たちが並んでいる。すでに王から連絡を受けていたのだろう。
うやうやしく頭を下げる使用人たちの間を通り、屋敷へと入る。入ってすぐのエントランスで、この屋敷の主人「ネグレド・アールアース公爵」が俺を出迎えた。
「ようこそおいでくださいました、大賢者ラー様。どうぞこちらへ」
応接間にて接待を受けつつ、ダンジョンの被害などを確認する。
現在はダンジョンが出現してから、おおよそ十時間程が経過。報告は冒険者から上がってきたらしい。
好奇心旺盛なる冒険者たちは、すでにダンジョンの第15階層まで攻略済みで、今のところ死者は出ていない。付近の村は、騎士団と冒険者たちでどうにか守れているようだ。
ならば魔王はいないだろう。もしも魔王がダンジョンの指揮を取っている場合、その被害は甚大なものになるからだ。
おそらくいずれかの「将軍」が指揮をとり、ダンジョンに陣取っている筈だ。
「賢者様、実はお願いがございます。我が娘、セラの事なのですが......」
公爵の話によると、セラはシャングリラの第一王子ルーデウスと婚約していた。だが、彼と不仲になって婚約を破棄されてしまったらしい。さらに悪い事に、ルーデウスには新たな恋人がおり、セラが彼女を毒殺しようとした、などと噂が立った。
「世間体を保つ為、修道院に入れたのですが......セラはそこを逃げ出し、あろうことか冒険者になってしまったのです。あれはきっとダンジョンに向かうつもりでしょう。ラー様、どうか娘を、守ってやっては頂けませんでしょうか」
ネグレド公爵は、使用人に命じて宝石や金貨を用意した。
ふふっ、なるほど......公爵令嬢で冒険者。面白い。
「お引き受けいたしましょう、閣下。セラ様は私が責任を持って、お守り致します」
こうして俺は、冒険者ギルドでセラを見つけ、パーティを組んだ。彼女は初心者と言う事で中々パーティを組んでもらえず、路頭に迷っているところだった。
「ありがとうございます、賢者様! 私、きっとお役に立って見せます!」
俺はセラの能力には一切期待していなかったし、戦わせる気もなかった。だが、彼女はグイグイと前衛に躍り出て、次々と敵を蹴散らしていった。
レベルにそぐわない強さ。幼少の頃より培ったという武術の腕は、かなりのものだった。
そういえば、セラ......どこかで聞いた名前だと思っていたが、最初のアバター選択時に、確かにその名前があった。生い立ちや顔も一致する。
つまりあれか。選ばれなかったアバターは、NPCとして登場する。そういうシステムな訳ね。
それなら強いのも納得がいく。もちろんファーナスには及ばないが、さすがプレイヤー用のキャラだと言えるだろう。
そんな訳で、俺たちはダンジョンを最下層目指して突き進む。俺は恐れる事なくダンジョンを駆け抜けて行く、セラの背中を見つめていた。
はっきり言ってセラはめちゃくちゃ可愛い。胸は小さいが、細身で顔も小さく、モデル体型だ。金色の髪に青い目。すぅっと長く伸びた鼻筋。形の良い唇。笑うと見える八重歯。屈託のない笑顔は、荒んだ俺の心を癒してくれる。とてもライバルを毒殺しようとした人物には見えない。
はっきり言って好みだ。冒険が終わったら、飲みに誘ってみよう。
セラのレベルは着実に上がって行った。俺のレベルは既に最高値だから上がる事は無い。
だが俺たちは二人パーティ。パーティ内の取り分が二分割以上にならない為、経験値はガッポリ入る。
冒険者が攻略済みの15階層より下に降りると、ぱったりと人に合わなくなった。それもそのはず。敵の強さが格段に違う。まぁ俺には雑魚だけど。
ドロップアイテムや、宝箱からの拾得物は、全部セラに渡した。お陰で彼女は現在レベル50。武器や防具はレア武具で揃えているし、ステータスアップのアイテムも惜しみなく使った。もはやアールアースの冒険者で、彼女の右に出る者は居ない筈だ。
だが40階層を超えると、流石に前衛一人ではきつくなってきた。
悪魔族と呼ばれる巨大なモンスターがうろつく深層エリアは、高い天井に広い通路。古代遺跡のような作りで、人の顔を模したオブジェが所狭しと並べられている。不気味な唸り声も相まって、侵入者に恐怖心を植え付ける事この上なしだ。俺以外には。
セラのダメージを受ける頻度が上がってきた。「治癒」をこまめにかけてはいるが、一撃が重い悪魔族のモンスターが相手では、クリティカルヒットをもらえば一撃で死ぬ危険もある。
セラはまだまだ強くなる。だが彼女にはこの階層の敵は荷が重い。そろそろ休んでもらう頃合いかも知れない。
「きゃああああっ! 賢者様!」
セラが悪魔族モンスター「ブラック・ジャイアント」に捕まった。手に握られ、食われそうになっている。
「空刃」
俺は手のひらから真空の刃を繰り出し、ブラック・ジャイアントの腕を切り落とした。セナが握られた腕が、ドスンと落下する。
そいつ以外にも二体のブラック・ジャイアントが地面を振動させながら集まってくる。
腕を切り落とされた奴が、目を怒りで真っ赤に染めた。俺を踏みつぶそうと足を持ち上げ、一気に下ろして来る。俺は右手を上にあげ、ブラック・ジャイアントの足の裏にぴたりと当てた。
「反射」
ブラック・ジャイアントの踏み潰しのダメージは、俺に一切流れる事なく、奴自身に跳ね返る。
「グオオオオッ」
足の骨を粉砕され、肉を飛び散らせながら「ブラック・ジャイアント」は後方に倒れこむ。残りの二体の攻撃も同様に「反射」で跳ね返し、床に寝かせてやった。凄まじい轟音が鳴り響き、周囲が見えなくなる程の粉塵が巻き起こる。
「重力場」
足を砕かれて身動き出来なくなった巨人達の体を、重力で押し潰してとどめを刺した。
「セラ、大丈夫か?」
俺は切断された巨人の腕に駆け寄り、手に握られたままのセラを助け出した。
「もう、先に助けてくださいよ。凄く苦しかったんですから」
セラは不機嫌そうに、プイっと顔を背ける。
「すまない。君なら平気かと思ってな」
俺は助け出したセラを、グッと抱き寄せた。
「本当に、ごめん」
スッと、素の言葉が出た。賢者っぽくない喋り方だった。だがセラはそれが嬉しかったようで、俺の胸に顔を擦り付けた。そして顔をあげ、ニコッと笑った。
「しょうがないから、許してあげます」
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