上 下
231 / 260

218 次の町への準備

しおりを挟む
 翌朝、『きらきら流れ星』のみんなとギルドに行った。マリンさんたちは新しい依頼を受けに。オレは魔法都市スペルバーグに行く冒険者を探すために。

 ディック様はオレの居場所を早々に特定するだろう。引き戻されるかどうかは分からないけれど。でも、王都でオレを利用しようとしていた人に見つかったら面倒なことになる。だから、早く追っ手が来ない所に行きたいんだ。
 オレの転移は、知っている場所にしか行けない。気配が分かれば初めての所にも行けるかもしれないけれど、気配を探るのは苦手だし、ただでさえ着地に失敗するので、行き先をしっかりイメージする必要がある。だから、知らない場所には、自分で行く必要があるんだ。スペルバーグは『砦の有志』の兄さん達が寄った場所だし、魔法都市っていう響きに憧れる。どんな魔法が溢れているのだろう? オレの不思議な魔法が解明されたら面白い。だから一度行ってみたかったんだ。

「コウタ君、それなりにお金があるのなら、乗合馬車で行くのはどう? ちょうど明日の早朝、定期便がでるわよ」
 ロイドさんの提案に、マリンさん達も勧めてくれた。セントではスペルバーグに行く冒険者は少なくない。実際、明日の乗合馬車にも護衛として依頼がでている。でも、冒険者がHランクのオレを同行させてくれるというのは別問題。子どもは早く歩けないし、体力もない。道中、魔物に出会っても戦力にすることもできないから足でまといだ。(オレなら従魔の力で解決できるのに) 本当は依頼として行きたかったけれど、それは無理だと分かったから、みんなが勧めてくれる乗合馬車で行くことにした。

 マリンさん達は簡単な薬草採りの依頼を受けたので、今日はオレも一緒に連れて行ってもらう。午後からはスペルバーグへの旅支度を手伝ってくれるっていったから、午前の短い時間だ。薬草は町の外では無く、川の上流、鉱山跡で採取するんだって。


「あ、あの。コウタ君、その辺でいいんじゃない?」
「えーっと、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ期待したけど……。いやぁ、想像を超えて……」
「悪くない。悪くない。むしろいいの。いいけど……。胸が痛む」

 ジロウと一緒に薬草を探していると、ものの数分で三人がストップをかけた。でも、まだそんなに採っていないよ? 今日の薬草は硬い岩の下に生える比較的小さな葉だ。火照った身体を冷やす作用があるらしい。多少大きくても効用はあるけれど、小さな新芽がの方が高値が付くそうだ。そして、その根にできたコブが、実はなかなか珍しく、鎮痛作用があるらしい。硬い岩の下の根から偶然できるコブを見つけるのは難しいけど、オレなら簡単。コブは薬草にとっては不快で成長を抑制してしまうんだって。だからほら、薬草さんたちが挙って合図を送るよ。採って~って。

 土を柔らかくする魔法。ジルさんに教えたけれど、詠唱がないと難しいらしい。遺跡で魔方陣に魔力を流したとき、詠唱は魔方陣を作って、思った通りに魔素を動かすためのもののように思えた。だったら詠唱が無くても、対象に作用するようにイメージすれば出来ると思うのだけれど。
「土の中を掘り掘り、堀り堀り。柔らかくなあれ、優しく優しく。細かな石はちょっとずつ離れて、薬草さんに道を作って」
 適当だけれど、オレが心の中で唱えたことを敢えて口に出してみる。ジルさんと一緒に声を合わせて魔力を送れば、魔方陣はできないけれど、土の中に古代の文字が生まれて、輝きながら土を盛り上げる。石粒を少しずつ砕いてくれるね。ほら、ジルさんにも出来た! 古代の文字はジルさんには見えないみたいだけれど、練習すればもっと上手になるよ。

「す、凄い。貴重で高価な薬草がこんなに!」
「うん。ジルさんも上手になったね。だけど、三つのうち一つは残しておこうね」
「もちろんよ。コウタ君、ちゃんと分かっているのね。立派だわぁ」

 そうそうに依頼を終えてギルドに戻る。マリンさんがロイドさんに耳打ちしたので、オレ達は個室に入れて貰った。コブは貴重品で小さなものでも金貨一枚になる。今回は合同依頼扱いだから、オレはマリンさん達一人分の半分の依頼料。そこに成功報酬を加えて貰えてホクホクだ。

「ほとんどコウタ君と従魔君が採ったのに。り、理不尽・・・」
「でも、一応、規則だから・・・」

 オレへの報酬が少なすぎるって泣かれても……。本当にマリンさんたちはいい人だ。一人では受けられない依頼だからいいんだよ。せめてものお礼にとお昼をご馳走になって、旅支度の買い物をした。

 乗合馬車は幌があるけれど、満員だと眠り辛いから休憩所で使う小さなテントを一つ。水筒に保存食。(空間収納は腐らないからこっそりフルーツやパン、お野菜、調味料なんかも入れておくよ)おやつに着替え。魔法が使えるけれど、ランタンも一つ。薄手のタオルは怪我の手当にも、肌掛けにも使えるから少し多めに。本当は収納にお布団が入っているのだけれど、それは恥ずかしいから秘密。プルちゃんの鞄に水筒とタオルを詰めて膨らませれば、空間収納のことはバレにくい。あと、小さなナイフを勧められたけれど、アイファ兄さんが買ってくれた上等のナイフがあるからと断った。

「うーん、ポーションが1つあると安心だけれど」
「でもねぇ、幼児がポーションって違和感があるよねぇ」
「でも、コウタ君だから。何だか必要になりそうな予感」

 何で? どうして? ちょっと突っ込みたかったけれど、予算は十分だから、一つだけ買っておく。そして、夜は早々に床についた。今日はルビーさんがベッドを貸してくれたんだ。見知らぬ天井は落ち着かなくて。ジロウを呼びたかったけれど、借り物のベッドにはあげられないと我慢。干し草のいい香りに包まれて、新しい旅のことを考えて一生懸命目をつむる。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

金貨三枚で買った性奴隷が俺を溺愛している ~平凡冒険者の迷宮スローライフ~

結城絡繰
ファンタジー
平凡な冒険者である俺は、手頃に抱きたい女が欲しいので獣人奴隷を買った。 ただ性欲が解消できればよかったのに、俺はその奴隷に溺愛されてしまう。 爛れた日々を送りながら俺達は迷宮に潜る。 二人で協力できるようになったことで、冒険者としての稼ぎは抜群に良くなった。 その金で贅沢をしつつ、やはり俺達は愛し合う。 大きな冒険はせず、楽な仕事と美味い酒と食事を満喫する。 主従ではなく恋人関係に近い俺達は毎日を楽しむ。 これは何の取り柄もない俺が、奴隷との出会いをきっかけに幸せを掴み取る物語である。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~

ゆるり
ファンタジー
☆第17回ファンタジー小説大賞で【癒し系ほっこり賞】を受賞しました!☆ ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様にて先行公開しております。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...