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203 ついてこないで

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 冒険者講習を終えたオレは、見習いといえどいっぱしの冒険者。貴族のマナーとか、お子様はこうあるべきだ、みたいな勉強もあるけれど、いよいよ一人で活動するんだ!
 この前の講習で、ギルドの往復及び依頼主のところまで自分の力で(もちろん馬車とかに乗ってもいいのだけれど)行けることがちびっ子冒険者の条件の一つだと言われた。王都は広いからね。遠くの、そう、東の農業区の奥の依頼だと、子どもが一日で行くのは無理で、乗合馬車を使えば報酬を超えて損をしてしまう。適切な依頼が選べるようにギルドの受付さんが気を遣ってくれるけれど、依頼選びは冒険者の実力に直結するらしいから、自分でちゃんとしたいよね。
 だけどオレにはジロウがいる。場所の問題は少ない。今日はお店のお掃除とかの依頼があったらいいなぁ。

「ごめん、コウタ。今日は学校区の工事監督が依頼として入っていてね・・・」
 ついていけないと、すまなそうなキールさんとアイファ兄さん。ついでにドッコイの力も借りたいと。ドッコイは人の役に立つのが好きだから、鉢巻をして張り切っている。
「悪い、チビッ子! 前の戦いで毒や薬や爆弾なんかを随分減らしてしまったからさ。当分は素材集めと製作に集中させてもらうよ」
 うん。絶対近寄りたくない仕事だね。ニコル。妙に嬉しそうなのは気のせいかな? 気をつけてね!

 オレ、冒険者だもの。一人で依頼が受けれるから平気。それに、Hランクのプレートには追跡魔法がついているから、行方不明になる心配はないんでしょう?


『砦』の兄さん達もだけれど、サーシャ様もディック様もクライス兄さんも、いつにも増して忙しそうだ。原因はやっぱり教皇を努めていた悪魔のせいで。そんなに長期間ではなかったはずなのだけれど、王盾さんやギルドマスターみたいな国の中枢に関わる人たちが何人も操られてしまっていたから、今は内部の再編成をしているんだって。ディック様とクライス兄さんは国政の方で、サーシャ様は商業区の方で。 タイトさんやイチマツさんみたいな家の重鎮(?)達もいろいろな集まりがあって、誰もオレに構っていられない。ブレイグさんのように自我をしっかり取り戻して復帰した人もいたけれど、魔術の作用なのか、オレの力が足りなかったのか、未だにぼんやりしていたりやる気が起きなかったりする人もいて。王都の混乱が本当に治まるまでには時間がかかりそうだ。

「コウタ様! 馬車のご用意ができましたよ」
 にっこり笑うミルカにオレはきちんと首を振る。
「ついてこないで! ジロウがいるから大丈夫。それに、いい依頼がなかったら戻ってくるから」
 うふふ。なんだか立派な冒険者の台詞だ! 嬉しくて、ちょっと格好をつけてしまう。

「承知しています。ご用意だけですから。お一人で行くのでしょう?」
 素直な含み笑いに、オレは瞳を鋭く光らせた。
 ほらほら!

 馬車の底板に掴まっているのはサンでしょう? こっそりついてきて、ミルカと合流するつもりでしょう? 御者さんもいつもの人じゃないよね? 今日はお休みのはずの門番さんだし。屋根に隠れているのは厨房の人。もう、みんなでオレのこと、信用していないんだから!

 周囲を伺って、颯爽とジロウに飛び乗った。ジロウは軽やかで馬車道でなくても平気だ。馬が通れない裏路地も、急な塀も斜面も。屋根の上だって、ちょっとした溝の中だってへっちゃらだ。ほら、あっという間にギルドについた。そして、ギルドではHランク向けのお子様依頼専用の掲示板を作ってくれていて、ぴょんぴょんしなくても見られるようになったよ。

 オレはギルドから少し離れた商業区のレストランの掃除を受けることにした。受付さんが、お昼にはお店が開くから、早く仕事が終わったら近くのドブさらいをするのもいいよってアドバイスをもらった。ドブさらいは期間が決められていない依頼だから、出来なくてもペナルティがないんだって。二つの依頼を同時に受けるなんて、ベテランさんみたい。オレはご機嫌で依頼主のところに向かう。

 オレが冒険者になりたかったのは、レイと一緒に仕事を探したかっただけじゃない。今回の悪魔の事件で、もっと強くなりたいって思ったから。

 力がないから監禁されても助けを待つしかなかったっていうのもあるし、世の中のことを知らないからそこから抜け出せなかったってこともある。悪魔に食べられたときも抵抗一つ出来なかった。

 そして………。
 ディック様とか兄さんとか、みんなオレを守るために戦ってくれて。つらい時間も怖くて痛い思いも、たくさんさせてしまった。
 オレに力があれば、もっと何かできたのでは?って思う。もし、ここが王都でなくてラストへブンの山の中だったら。捕まらないようにツルをしならせる木々の場所や見つからないで動ける隠し洞窟の場所を知っていたよ。こっそり話せる魔道具が隠してある場所も、悪い人を罠にかけることも出来た。力がないから、助けを待っていたから、大好きな人たちを危険な目に遭わせた。

 もう待つだけは嫌だ。

 全部自分でやろうとするのとは違うけれど、自分の身一つくらい、自分で守れるようになりたい。アイツなら大丈夫だと、オレがアイファ兄さんを信じていたみたいに、信じてもらえるようになりたい。だから、だから。
 心配かけないで、だけど、ちょっとずつ力をつけて、それを示せるランクのある冒険者になりたかったんだ。小さいけれど、オレは女神様から特別に賢い思考を貰ったはずなんだもの。早く力をつけて、みんなに当たり前のように頼ってもらえる、恩返しができる男になりたいんだよ。

 ジロウが走る心地いい風をおでこいっぱいに受けて、オレは依頼先にまっすぐ向かった。ギルドで聞けばオレの依頼先がわかってしまうから、もしかしたら誰かついてきてしまうかもしれないけれど。そのときに、あぁ必要なかったなぁって思って貰えばいいんだ。
 そして、東の商業区の奥にはレイの孤児院がある。もしかして偶然に会えるかもしれない。

 そんな期待を胸に秘めたオレは、雄々しく走るジロウ(本当はグランなんだけれど、人々の認識はウルフ)に驚いて腰を抜かす人たちが続出したとか、屋根の上を走るジロウを追いかけるために憲兵が出動したとか、そんなことは全く視界に入っていないのだった。
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