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137  普通のお子様

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 コンコン。ズビー。

 咳は残るけど、鼻水はずいぶん良くなった。 ディーナーさん達の薬のおかげだね! ジロウが魔力はまだ飛んでないって言ったけど、今日、オレはディック様と一緒に王城に行くんだ! 仲良し親子の姿を見てもらうの。

 
「まぁ、ご立派です! 絵本の中から抜け出した勇者様みたいですよ」
 正装に着替えると、ミルカもイチマツさんもツヤツヤしている。メイドさんたちの奮闘のおかげで、クライス兄さんの正装をオレのサイズに直して貰ったの。明るい若葉緑のジャケットに、白い半ズボン。

 アイファ兄さんの瞳の色とお揃いなのは濃いキャラメル色の革靴と剣帯。魔石の入った木剣が本物みたいだよ。クライス兄さんもアイファ兄さんのお下がりを使っていたんだって。嬉しいな!

 ジロウとプルちゃんはキールさんと依頼を受けて冒険だって。ジロウがキールさんの従魔だって知ってもらうのは大事だし、ここではジロウ、あんまり走っていないから、今日はのびのび外を楽しんできてもらうんだ。

 王城とは言っても、訪れるのは騎士団の訓練所。今日は魔法兵がワイバーンと従魔契約を結ぶ為に山に旅立つ。その出立の式典にディック様が招待されたんだ。王様も来るんだよ。だからオレたちは目一杯のお洒落をして臨むんだ。


「さぁ、いいか?」
 出された太い指をギュッと握りしめて頼もしいディック様を見上げる。茶と金の髪がお日様の光を吸い込んで眩しい。

「うふふ、こうやって三人で歩くのって、もしかして初めてかしら」
 数色の花が散りばめられた虹色のドレスのサーシャ様。白の手袋はすべすべで、だけどしっかりオレの手を握りしめた。

 あぁ嬉しい! 

 ソラの羽根がどこまでも瑠璃色で、オレのジャケットにピタリと寄り添って、右手にディック様、左手にサーシャ様。この前の雨が嘘みたいな抜ける様な青空。柔らかな日差し。ウキウキと弾む足取りにニマニマが止まらない!

「おいおい、普通でいいぞ。
 普通が何なのか分からないけれど、繋いだ手が嬉しくって、騎士団だよ? ワイバーンだよ? 興奮しない子供なんて普通じゃないよね? 思わず二人にぶら下がってたたと空を蹴った。

 不意に浮いた身体。

 繋いだ両の手がオレを高く空に放った。ピピと喜ぶソラにくるり一回転をすれば、再びディック様とサーシャ様の手が伸びる。

「はしゃぎすぎだぞ~」
 思い切り嬉しそうなにもっともっととせがんで再び宙に飛んだ。

「父上~! ほら世界がきれい!」
「おう」
「うふふ、コウちゃん。あなたが素敵よ」

 飛ぶ度に二人の手が伸びて捕まえてくれる。軌道が逸れればディック様が片手で軽々と受け止める。 目一杯に身体を反らしても、全身で風を感じても、あぁ、絶対の安心感。オレは知らず声をあげて笑った。


「はぁ~、ちょっとやり過ぎじゃ無い? わざとらしいよ」
 後ろで呆れるクライス兄さんに、タイトさんがコホンと咳払い。

「ディック様のお子ですから。これくらい破天荒でなければなりません」

 オレたちは、いひひと目を合わす。

 いいんだよ。やりすぎなくらいで。だってオレ、本当に嬉しいんだし、ずっとずっとディック様の近くにいたいんだもの。みんなに見せつけるんだよ。

 今日はワイバーン部隊が出陣をすると言うことで、関係貴族の子供たちも訓練所の広場に集まっている。広場を走る回る子も多く、みんな大興奮だ。

 うふふ。
 だけどね、子供達がディック様に見惚れているのを感じるんだ。だって勲章もさることながら、伝説級の英雄なんだもの。みんな近くで見たいよね? 話しかけたいよね?
 でも、ごめんね! 
 今日はオレ、専属なの。
 だって父上なんだもん!


「いやはや、活発なご子息でいらっしゃる。今日は英雄とご一緒できるとは、光栄なことですな」
 
 ちょび髭を蓄えた老紳士がディック様に声をかけた。オレはサッとサーシャ様の後ろに控えて、ご挨拶の準備だよ。

「いや、ご無沙汰を、チュイロリン侯爵。貴殿に声をかけていただけるとは。さぁ、コウタ、ご挨拶だ」
 凄い! ディック様がきちんと貴族の作法に則って話してる。オレはちょっとびっくりしたけれど、お約束通り、賢い良い子のご挨拶をするよ。

「お初にお目にかかります。チュイロリン侯爵。コウタ・エンデアベルトです。お見知り置きください」

 ちょっとだけ足を引いて、頭を下げる。胸の敬礼も忘れずに。ほらね、ちょっとびっくりしてる。だけどやり過ぎじゃない。

 オレはディック様の元でもきちんと礼儀作法が身についているよって知らせるんだ。辺境だって王都だって礼儀は身につくよ!


「これは驚いた。ディック殿。ご子息はいくつであられるか?」
 ほらね、びっくりしてる。オレはニコニコと笑みを絶やさないよ! 時々小さな声で「父上」って声かけながら。

「ふふん。四つになったばかりだ。賢いだろう? こう見えて色々な才に恵まれている」

 自慢げな薄茶の瞳にオレは漆黒を輝かせた。ねぇ? 褒めてくれた? 今、褒めてくれたよね?

 きゃぁと抱きつくと、たくましい腕がオレを抱き上げ、広場の先を指差した。

「さぁ、お待ちかねのワイバーンだ。いいか? 寄ってくんじゃねぇぞ? 今日は魔力が少ねぇらしいが、やらかしは困る」

 こそっと付け加えられた言葉。きれいに剃られた顎がチクスベで、心もとないけれど。
 そうか。
 魔力が溢れてたらきっとペロペロ大会だよね。

 貴族の子らも親や執事に抱っこされて背伸びをしている。

 ワイバーンはジロウより一回り大きく、コウモリのような膜の翼を持つ。そして強そうだ。トカゲだって言うけれど、黒や茶、土色などの体色以外、一体どこがトカゲなのか? どちらかと言うとドラゴンの様で、立派な翼とかっこいい尻尾がオレたちお子様の心をガッチリ掴んだ。

 陽を浴びたクライス兄さんも誇らしげだ。
「厳密にはいろんな違いがあるけれど、最大の違いは冬眠さ。ワイバーンは冬は眠る。だけどドラゴンはいつだって寝る」

 うーん、ますますよく分からないけれど、かっこいいんだもん! どっちだっていいか?


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